鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

地球上で最もお客さまを大切にする企業

[要旨]

マーケティングの基本的な考え方は、顧客思考ですが、Amazonは、その考え方に基づいて、マーケットプレイスというサービスで、競合相手の商品も自社プラットフォームで販売しています。このことは、かつての常識では、自社の収益機会を減らすことと考えられるサービスですが、これにより、顧客にとっては品揃えが増えることになり、また、現在では同社の大きな収益源にもなっています。


[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、事業活動が、自社の販売する商品にだけ目が向いてしまう、すなわち、近視眼的マーケティングに陥ることのないようにするために、商品の背後にいる顧客中心に見るようとしなければならないということを説明しました。

これに関し、鈴木さんは、その成功事例として、Amazonのマーケットプレイスについて紹介しておられます。「Amazonも、1994年の創業以来、『地球上で最も豊富な品揃え』とともに、『地球上で最もお客さまを大切にする企業であること』を企業理念に据え、常に顧客を起点に判断することで成長を続けています。

2000年に導入した『マーケットプレイス』が典型的な例です。Amazonが販売する新刊本と、第三者が販売する新古本が、一緒に並んで売られることになりました。それまでの常識では、みずから競合相手にも出品させるなど、考えられないことでした。しかし、マーケットプレイスによって品揃えが豊富になり、顧客も選べて満足するということから実現したものです。そして、いまでは、マーケットプレイスはAmazonの収益の柱となっています」(56ページ)

ちなみに、Amazonでは、かつて購入したことがある本は、その購入日が表示されるようになっており、私のように、誤って同じ本を重複して購入してしまうことを減らすような工夫がされています。これも、商品を販売する側からすれば、売上の機会を減らすような行為ですが、Amazonでは、商品を販売するのではなく、利用者の利便性を売るという考え方を貫いているからなのでしょう。

ただし、興味深いのは、マーケットプレイスのように、「競合相手」に出品させるという、かつての常識と逆のことをしたことが、大きな収益源になっているということです。一見すると、顧客志向に基づく活動は、会社の負担を大きくし、収益獲得の機会を減らすと思われがちですが、本当の意味での顧客志向は収益を増やすものであり、まさにマーケティングの妙味であると、私は考えています。

2023/2/24 No.2263