[要旨]
事業を発展させようとするとき、多くの経営者の方は、売上を増やすことに気を取られてしまいがちです。しかし、売上が増えると、与信リスク、在庫リスクも増加します。これらのリスクを避けることはできないので、売上を増やすときは、あわせてリスクの管理も行い、バランスの取れた事業拡大を図ることが大切です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、山田修さんらのご著書、「プロフェッショナルリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回、リスクのないビジネスはなく、リスクにうまく対処することが利益を得ることにつながるということを書きましたが、同書の執筆陣の1人である、経営コンサルタントの福田秀人さんは、そのひとつの例として、与信管理と在庫管理について、同書で述べておられます。
「(福田さんが、生活関連消費財を扱う、中堅商社のA社の経営に携わっていたとき)私は、情報処理システムを入れ替え、販売・物流機能を強化し、営業活動の効率化を推進する一方で、営業活動の適否のチェック、それに、与信管理や在庫管理などの各種管理を徹底的に強化するなど、売上の伸びを抑える役回りを演じました。つぶれない会社にするために、必要なシステムの機能については、幹部やシステムエンジニアたちと頻繁に議論したために、高度なリスク管理機能が満載されました。その全容は明かせませんが、初歩的なことでは、販売先の売掛金額と受注金額の合計額が、与信枠を1円でも超せば、コンピュータが受注入力をはねつけました。
商品の発注に際しては、完売予定期日を入力させ、その期日を過ぎた在庫の品目と数量、金額を、数々の分析データ付きで出力するようにしました。それをもとに、売上不振商品の早期処分を推進したのです。これは、トップの意思を汲んだ措置ですが、思惑どおりに売れない商品の在庫増の恐ろしさを痛感しました」会社の業績をあげるには、まず、売上を伸ばすことだと考える方がほとんどではないでしょうか?確かに、売上を増やすことが基本なのですが、その一方で、売上を増やすと、与信上のリスクや、不良在庫を抱えるリスクも増えて行きます。
そのリスクが増えることは、ある意味、当然なのですが、問題なのは、経営者が、売上を増やすことだけに気を取られ、与信リスク、在庫リスクに気づかずに、突然、黒字倒産に至ってしまったり、売上で得られた利益以上に、売掛金の貸倒や、棚卸資産評価損を計上することになってしまったりすることです。したがって、売上だけに気を取られず、冷静に、リスクも管理することが必要です。これについては、当たり前のことなのですが、売上だけに気を取られる方が多いと、私は感じていますので、リスク管理にも注力して、バランスの取れた事業拡大を目指すことが大切と言えるでしょう。
2022/7/7 No.2031