鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

プライム市場は建前は通用しない

[要旨]

東京証券取引所の株式市場が再編され、新たに設置されるプライム市場では、「市場に流通する株式の割合を35%以上に保つこと」という基準があります。現在の1部に上場している会社の約3分の1は、それを満たさないと公表されましたが、会社は公器という考えから、それは妥当であると言えます。


[本文]

先日、日本放送協会が、「東証が発表、1部上場664社が最上位『プライム』基準満たさず」という報道をしていました。現在、東京証券取引所は、1部、2部、マザーズジャスダックの4つの市場がありますが、来年4月から、プライム、スタンダード、グロースの3つの市場に再編されます。そして、前述の報道によれば、「東証は9日、今の1部に上場する2100社余りのうち、およそ3割にあたる664社が、新たに最上位となるプライム市場に上場できる基準を満たしていないことを、正式に発表」したそうです。

プライム市場の上場基準のひとつは、「会社の発行済み株式のうち、市場に流通する株式の割合を35%以上に保つこと」となっていますが、確かに、これを満たしていなければ、投資資金を集めるという面での株式を上場する意味は低いと感じます。その一方で、経営者としては、株式の多くを、いわゆる、もの言う株主にもたれてしまうと、経営の自由度が制限されると考えてしまうと考える場合もあるのでしょう。

そこで、「東証1部上場会社」という地位は得ておきたいけれど、流通する株式は少なくしたいと考えていた会社が、前述の、664社であったとも言えると思います。しかし、東京証券取引所は、「プライム市場に上場する会社は、流通する株式の割合を高め、広く、株主の意見に耳を傾けるべき」という考えのもと、「市場に流通する株式の割合を35%以上に保つこと」という基準を定めたことは妥当であると、私も考えます。

そうでなければ、「日本の会社は、出資はしたものの、意見はきき入れてもらえない閉鎖な会社」と評価され、投資かからの出資が減少してしまうでしょう。いままで、日本は、本音と建て前が通用していた部分がありますが、プライム市場の基準のように、徐々に、それがなくなっていくと思います。日本は経済大国であるわけですので、それは当然のことと思います。

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ゴールドラッシュでもうかる人は?

[要旨]

直接的にお金を稼ぐよりも、うまくお金を稼ぎたいと考える人たちを相手にビジネスをする方がもうかるという例は、少なくないようです。したがって、支援をしてもらう専門家を選ぶときは、十分な注意が必要です。


[本文]

経営コンサルタント相馬一進さんのブログを読みました。要旨は、米国人投資家のロバート・アレンは、彼の著書で複数の収入を作ることを薦めているが、彼自身の収入は、実際には、不動産投資ノウハウの販売からの収入が圧倒的に多い。

これは、米国のゴールドラッシュの時に、金鉱で金を掘った人よりも、その人たちにジーンズを販売した、リーバイ・ストラウス(リーバイスの創業者)と同じだ。すなわち、直接的にお金を稼ぐよりも、うまくお金を稼ぎたいと考える人たちを相手に、ビジネスをする方がもうかるという例は、過去にいくつもあるというものです。私も、相馬さんと同様のことを感じています。

最近の例では、最高で1億円を補助してもらえる事業再構築補助金が、3月から申請受付が始まりましたが、それとともに、多くの専門家が現れましたが、これも、補助金をもらうよりも、補助金をもらいたい人を相手にビジネスをする方が儲かると考える人が多いからでしょう。

もちろん、事業再構築補助金の申請手続きは複雑なので、多くの場合は専門家の支援が必要でしょう。また、それにきちんと対応してくれる専門家が多いと思います。ただ、漁夫の利的な考え方を持っている専門家もいるようなので、十分な注意が必要と、私は考えています。

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融資に関する銀行の返事が遅い理由

[要旨]

銀行は、融資相手の会社の生命線を握っている面があります。そこで、融資取引の方針については、常に、慎重に検討するよう心掛けています。そのため、融資を受けている会社からみると、銀行の反応は遅いと感じることがありますが、それは、やむを得ない面があります。

[本文]

7月8日に行われた記者会見で、新型コロナウイルス対策担当大臣の西村大臣が、緊急事態宣言発令に際し、休業要請に応じない、酒類を提供する飲食店に対し、金融機関からも応じてもらえるように働き掛けを行ってもらうという主旨の発言をしたことが、物議を醸しました。結果として、翌日の9日に、西村大臣は、これを撤回しましたが、この西村大臣の発言に対しては、発言後に飲食店業界からだけでなく、金融機関からも疑問を持たれました。

というのは、金融機関は、融資相手の会社の細かな情報を持っており、また、融資を行うかどうかを決める立場にあることから、融資相手の会社にどう接するかは、常に細心の注意を払っています。分かりやすい例では、業績不振のうわさが流れている会社に、地元の有力銀行が融資を継続して行うことが明らかになれば、その他の銀行だけでなく、従業員、納品先、顧客なども、安心して働いたり取引を継続したりすることができます。すなわち、金融機関は融資相手の会社の生命線を握っているとも言えます。だからこそ、融資相手の会社への取引方針については、金融機関は、軽々には、話をしないようにしています。

そこで、もし、金融機関が、融資をしていいる飲食店に対し、「貴社は、休業要請に応じていないようですが、それに応じた方がよいですよ」と伝えたとすると、それを聞いた飲食店は、「休業要請に応じないと、融資を受けにくくなるかもしれない」と、曲解してしまう可能性があります。金融機関は、休業要請に応じた方がよいとだけ伝えようとしていたとしても、前述のような立場から、それだけであるとは受け止めてもらえないことは、金融機関も認識しています。ですから、西村大臣の発言に金融機関が疑問を持つことは当然です。

ただし、今回の記事は西村大臣への批判ではありません。銀行が自社に対する返答や姿勢がはっきりしないと感じている経営者の方は多いと思います。そうなっている理由の中には、銀行が、単に、逃げ腰であるという部分もあると思いますが、それだけでなく、銀行の方針は融資相手に大きな影響力を持っているということを理解している面が大きいからです。したがって、銀行が融資相手の方針を出す場合は、必ず、組織決定を行ってから、明らかにする手順を取っています。

極端な場合、大幅な赤字の会社から、初めての融資取引の依頼を受け、明らかに断らざるを得ないような状況でも、それを受けた銀行職員は、その場では回答せず、支店内で融資取引を断る旨の協議をしてから、正式に謝絶を伝えるという手順を取っています。繰り返しになりますが、融資取引に関する銀行の返答に時間を要することは、ある程度、やむを得ない面があります。したがって、金融機関は、西村大臣の要請は、とても受け入れられるものではないと言えるでしょう。

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厳しさを増すコンプラ違反への評価

[要旨]

銀行の融資相手の会社に対するコンプライアンス違反への対応は、年々、厳しくなっており、最悪の場合、融資取引を解消され、倒産に至ることもあります。また、コンプライアンス違反は、反社会的勢力との関係のほか、粉飾決算も該当しますので、正確な経理業務を行うことが大切です。


[本文]

7月9日に、日本経済新聞が、大分市の設備会社のK社の倒産について報道していました。記事によれば、K社は2021年2月決算で、過去最高の売上高を計上するなど、業績が好調であったにもかかわらず、4月に経営者が反社会的勢力と関係があったことがわかり、金融機関から預金取引・融資取引を解消され、倒産に至ったというものです。

20年ほど前であれば、銀行は、融資相手の会社が、反社会勢力とのつながりがあるとわかった場合は、直ちに取引を解消することはせず、徐々に解消するというソフトランディングを行っていたと思われます。しかし、記事でも指摘されているとおり、コンプライアンス違反に関する銀行の対応は厳しくなりつつあり、これからは、融資相手の会社のコンプライアンス違反が分かれば、K社のように、直ちに倒産に追い込まれることになるでしょう。

ちなみに、コンプライアンス違反は、反社会的勢力との関係だけでなく、記事にもあるとおり、粉飾決算も該当します。中小企業では、粉飾決算に関しては、あまり罪悪感を持つことなく、安易に行ってしまう会社も少なくないので、注意が必要と思われます。また、意図していなくても、正確な経理事務を行っていないために、銀行から粉飾決算を行っているとみなされてしまう可能性もあるので、不安のある経営者の方は、顧問税理士に、「中小企業会計要領」を採り入れたいというご相談をすることをお薦めします。

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トランスフォームする洗濯かご

[要旨]

性能が高く価格が安い製品があふれる時代は、新規性の高い商品を生み出す能力が、競争力を高めることになります。しかし、その能力は一朝一夕には習得することはできないので、そのための企業文化をつくるための努力が、経営者の方に求められています。


[本文]

コンサルティング会社のマーケティングアイズの代表取締役の理央周さんが、ホームセンターのカインズについて、メールマガジンで書いていました。要旨は、カインズのアイディア商品が、SNSや、ネットニュースなどで話題になっている。同社では、このような新商品を生み出すための独自の取り組みをしている。

そのひとつはデザイン展で、メーカー28社とコラボレーションした限定デザインの商品などのオリジナル商品を、全国のカインズ226店舗と、オンラインショップに販売するイベントを行っている。もうひとつはイノベーションハブで、これは、新しいアイディアを出すために、表参道に設けたカフェとワークスペースのことだ。

カインズ以外の会社でも、経営者が従業員に対して、「イノベーションを起こせ!」「新しい発想を出せ」とはっぱをかけることがあるが、それだけでは、イノベーションは起きない。カインズのように、差別化をするための努力をするという企業文化こそが、独自性を生み出し、ひいては、価格競争、値引き合戦からの、脱却が可能になる」というものです。

現在は、性能がよく、価格が安い商品であふれている時代なので、カインズのように、アイディア商品をたくさん生み出し、顧客ロイヤルティを高めていくことが、競争力もつけていくことになるということも、ほとんどの方がご理解されると思います。ところが、理央さんもご指摘されておられるとおり、「イノベーションを起こす」企業文化は、一朝一夕では作れません。普段からの絶え間ない経営者の努力と、その積み重ねが必要です。すなわち、「経営に王道なし」であり、地道な活動こそ大切であるということを、理央さんのメールマガジンを読んで、改めて認識しました。

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先に言えば説明、後で言うと言い訳

[要旨]

相手にとって不利と感じられることは、事後に説明すると、言い訳と受け止められがちです。したがって、面倒とは感じても、事前に説明をすることで、円滑な取引が維持することが可能になります。特に、経営者の方は、このような心掛けが大切になると言えます。


[本文]

経営コンサルタント和仁達也さんのブログを読みました。要旨は、かつて、ある歯科医院の院長が、患者を検査した後、治療法には保険診療と自費診療があるという説明を行い、その医院ではQOLの観点から、自費診療を薦めていた。しかし、患者側は、医院からの自費診療の薦めに対し、医院が収入を増やしたいと考えていると受け止め、治療費が安い保険診療を選ぶことが多かった。

そこで、患者への働き方を変え、初めて来院した時点で、「当院は自費診療を薦めることがあるが、それは医院の収入を増やすためではなく、患者さんにベストな治療を選択していただくために、必要な情報をお伝えしている」と説明するようにした。その結果、かつては、ほとんどの患者が保険診療を選んでいたが、現在は、患者の半分が自費診療が占めるようになった、というものです。

この内容についても、多くの方がご理解されると思います。ところが、これを実践することも、やや難しいようです。その理由は、前もって説明をすることが面倒ということだと思います。しかし、トラブルが起きたとき、「そんなつもりはなかった」と、後から理由を説明しても、それは、相手からは「言い訳」としか聞としか受け止めてもらえなくなります。

したがって、事前か事後かは問わず、説明することは必要なのであれば、事前に説明しておくことの方が賢明ということになります。催促される前に、こちらから説明をすることは面倒であっても、ビジネスを円滑に進めるためには、とても大切だということを、和仁さんのブログを読んで、改めて感じました。

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不採算な取引による従業員へのしわ寄せ

[要旨]

経営者の方が、不採算な取引を受けてしまい、そのしわ寄せが従業員に向けられるのであれば、本末転倒になります。不採算な取引を受けることを避けるためにも、従業員の方を大切にする考え方を持つことが望まれます。


[本文]

前回、不採算な取引を受けないようにする方法として、自社の業績を月次で把握しておくというものをお伝えしました。この不採算な取引を断ることに関して、これとは別の観点から、イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんが、メールマガジンで述べておられましたので、今回は、それについてご紹介します。

「ある大手スーパーより撤退するとき、『鍵山さん、あんたの会社はつぶれるよ、わかってんの』と言われたので、『はい、あなたの会社からいじめられてつぶれるより、社員みんなで努力して、そのうえでつぶれたほうがまだましです』とお答えしました。私の『取引の判断基準』は、その取引を続けることによって、社員が幸せになれるかどうかだからです」このような鍵山さんの考え方は、頭では理解できても、実践することはなかなかむずかしいことも少なくないと、私も考えています。

現在は改善されましたが、かつて、大手運送会社が、大手通信販売会社から、採算の悪い取引を受けていたことが問題となったことがあります。その会社では、従業員の方が酷使され、残業代が支払われない時間まで働いて仕事をこなしていたようです。でも、そのような状況は、コンプライアンスの観点から問題であるし、その運送会社は、社会的な批判を受けました。そこで、その大手運送会社は通信販売会社と取引条件の改善を折衝してそれを受け入れてもらい、また、重魚員の方にも未払残業代も支払ったようです。

繰り返しになりますが、受注相手の会社から、「この条件で受けてもらえなければ、もう、あなたの会社には発注しません」と言われると、「それは待って欲しい」と言いたくなる経営者の方の気持ちは理解できます。でも、その結果、そのしわ寄せが従業員に行くのであれば、賢明でない判断であることは、前述の通りです。経営者の方は、難しい判断を迫られる場面に立たされることが、しばしば起きると思いますが、正しい判断を行うためにも、鍵山さんのような考え方を持つことは有用であると、私は考えています。

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