鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

不採算な取引による従業員へのしわ寄せ

[要旨]

経営者の方が、不採算な取引を受けてしまい、そのしわ寄せが従業員に向けられるのであれば、本末転倒になります。不採算な取引を受けることを避けるためにも、従業員の方を大切にする考え方を持つことが望まれます。


[本文]

前回、不採算な取引を受けないようにする方法として、自社の業績を月次で把握しておくというものをお伝えしました。この不採算な取引を断ることに関して、これとは別の観点から、イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんが、メールマガジンで述べておられましたので、今回は、それについてご紹介します。

「ある大手スーパーより撤退するとき、『鍵山さん、あんたの会社はつぶれるよ、わかってんの』と言われたので、『はい、あなたの会社からいじめられてつぶれるより、社員みんなで努力して、そのうえでつぶれたほうがまだましです』とお答えしました。私の『取引の判断基準』は、その取引を続けることによって、社員が幸せになれるかどうかだからです」このような鍵山さんの考え方は、頭では理解できても、実践することはなかなかむずかしいことも少なくないと、私も考えています。

現在は改善されましたが、かつて、大手運送会社が、大手通信販売会社から、採算の悪い取引を受けていたことが問題となったことがあります。その会社では、従業員の方が酷使され、残業代が支払われない時間まで働いて仕事をこなしていたようです。でも、そのような状況は、コンプライアンスの観点から問題であるし、その運送会社は、社会的な批判を受けました。そこで、その大手運送会社は通信販売会社と取引条件の改善を折衝してそれを受け入れてもらい、また、重魚員の方にも未払残業代も支払ったようです。

繰り返しになりますが、受注相手の会社から、「この条件で受けてもらえなければ、もう、あなたの会社には発注しません」と言われると、「それは待って欲しい」と言いたくなる経営者の方の気持ちは理解できます。でも、その結果、そのしわ寄せが従業員に行くのであれば、賢明でない判断であることは、前述の通りです。経営者の方は、難しい判断を迫られる場面に立たされることが、しばしば起きると思いますが、正しい判断を行うためにも、鍵山さんのような考え方を持つことは有用であると、私は考えています。

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不採算な取引をどうやって断るか

[要旨]

不採算な仕事を受けることは、会社にとって収益状況を悪化させます。そこで、それを防ぐための、「無理な依頼は受けない」という「覚悟」を維持することが大切ですが、そのためには、毎月、自社の収益状況を確認することで、その覚悟を維持しやすくなります。


[本文]

前々回、私は、事業改善のご支援のご依頼があったとき、その依頼をしてきた経営者の方の依存心の強い時は、お断りしているということを書きました。そのことで思い出したのですが、ご支援のご依頼を断るということは、私が独立したばかりのころは、なかなかできませんでした。

専門家として、困っている方からのご支援を断ることは、道義的に問題があると感じたからです。しかし、依存心の強い経営者の方は、自らはあまり努力しようとせず、専門家に面倒なことを押し付け、さらに、事業が改善しなければ、「いままでに支払った報酬は無駄だった」などという不満を言われながら、ご支援を打ち切られるということになりがちです。

もちろん、専門家側の能力が十分とは言えない部分もありますが、これは、前々回も述べた通り、改善活動の主体は事業者側が行うものであり、経営者の方の依存心が強くて当事者意識がなければ、事業は改善しません。そこで、私は、依存心の強い方からのご支援のご依頼は、お受けしてもよい関係を築くことが見込めないことから、心苦しくても断るようにしています。

ここまでは、私の愚痴のような内容になりましたが、依頼する側も、実は、心得ていて、気の弱そうな相手を見つけて、難題を押し付けようとしている節があります。私が銀行に勤務していたときにも経験があるのですが、銀行に無理な依頼をしてくる経営者の方は、銀行が依頼を受けることを渋ると、それを予め想定したように、「それなら別の銀行に頼んでくる」などと、少し脅迫めいたことを述べ、要求をのませようとします。

もちろん、そのような経営者の要求がエスカレートすると、最後には、「それでは別の銀行さんに融資をしていただいてください」とお断りするのですが、そのような返答をされた会社は、「別の銀行」にも融資を断られることが多いようです。話を戻すと、繰り返しになりますが、(見込)顧客であっても、よい関係を築くことができそうになければ、依頼を受けるよりも、断ることの方が得策です。

しかし、問題なのは、それは分かっていても、断ることの心理的なハードルはかなり高いということも理解できます。私が事業改善のご支援をしている会社の経営者の方の中には、採算が低い仕事を受けてしまう方が少なくありません。そこで、「無理な依頼は受けない」という「覚悟」を持つことが大切になるのですが、その覚悟を維持する方法のひとつは、毎月、自社の収益状況を確認することだと思います。

依頼主のところに行って、採算の悪い仕事を頼まれそうになったとき、「1社くらいは引き受けても大丈夫」、「もし、これを断れば、次の仕事が来ない」、「仕事を断ると、そのことを触れ回られるかもしれない」という迷いが出ますが、月間の収益が計画値に至っていなかったり、赤字であったりした場合は、そのような迷いを断ち切ることが、より、容易になるでしょう。

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タワーマンションと高級車

[要旨]

よく、大きな物欲を持って起業しない方がよいという意見を耳にすることがありますが、それは、直接的に、業績とは無関係です。そう主張する経営者は、自分の経営者としての本質的な能力に自信がないため、物欲は持たない方がよいといった、本質的でないことにこだわっているからと考えることができます。


[本文]

経営コンサルタントの小島幹登さんのポッドキャスト番組を聴きました。要旨は、これから起業しようとする方の中には、タワーマンションに住み、高級車を買うなど、個人的な物欲を満たすことを動機とする人がいるが、顧客から見れば、その起業した会社が提供する商品やサービスがよいかどうかが問題なのであり、経営者の起業の動機は無関係なのだから、個人的な物欲を満たすために、よりよい事業を営むために励むことは問題ない、ということです。

私の考えも、小島さんと同じです。しかし、一方で、個人的な物欲は、事業運営に悪影響が出ると考えている人もいるようです。そう考える人の根拠は、経営者の個人的な欲求が強いと、経営者の行動が独善的になったり、公私混同をしたり、また、そのような経営者の姿勢を見た顧客から悪い印象を持たれてしまうということだと思います。

では、経営者に物欲がなく、公私混同もせず、品性が高ければ、その経営者の経営する会社の事業は成功するでしょうか?そのような経営者が望ましいとは言えますが、それだけでは事業は成功するとは限らないでしょう。だからといって、物欲が大きければ、事業が成功するとも限りません。

経営者に問われることは、顧客から見た、その会社の商品やサービスの質の高さなのであって、経営者の物欲が大きいかどうかは、直接的には無関係です。でも、よく、経営者自身の動機や姿勢を問う経営者がいるというのは、その人は、自分の経営者としての本質的な能力に自信がないため、物欲は持たない方がよいといった、本質的でないことにこだわっているからと、私は分析しています。

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結婚相談所は学習塾

[要旨]

依存心の強い経営者は、コンサルタントに銀行への融資申請の支援を依頼したとき、それがうまく行かないと、コンサルタントに責任があると考えます。しかし、融資承認を左右する最大の要因は会社の業績であり、そこから目をそらすために、コンサルタントに責任を押し付けようとすると考えられます。


[本文]

先日、婚活コンサルタントの田中菊乃さんの、女子SPAへの寄稿を読みました。要旨は、「結婚相談所を利用する女性の中には、お客様感覚になりすぎていて、『高額な料金を払うのだから、私を結婚させてみなさいよ』という態度を見せる、残念な人が多いようだ。

しかし、結婚相談所をうまく利用して、結婚相手を見つけられた人は、『受験に例えたら、結婚相談所は学習塾だと思って利用した。利用するだけでは、必ずしも結婚できるようになるわけじゃないけれど、結婚できる確率は高くなるし、あとは、自分の努力次第』といっており、このように、まず、自らが努力することが大切だ」というものです。

比較することが必ずしも適切とは言えませんが、私も、融資申請の支援などを受けたときに、田中さんが感じたことと同じようなことを感じることがあります。というのは、「コンサルタントに報酬を支払うのに、銀行から融資の承認を得られなければ、それは、コンサルタントの腕が悪いからだ」と言われるときです。

融資の承認が得られるかどうかは、支援するコンサルタントの能力が高い方がよいですが、コンサルタントの能力は、融資承認が得られるかどうかの決定的な要素ではありません。基本的には、融資を受ける会社の業績やポテンシャルが決め手となります。恐らく、コンサルタントに依存的になっている経営者も、内心では、自社に対する銀行からの評価に自信がないので、コンサルタントに依存してしまうのでしょう。

さらに、問題なのは、そのような経営者の方ほど、前述のように、「自社が融資の承認を得られないのは、コンサルタントの腕が悪いたからだ」と、自社以外に責任があると主張する傾向があります。しかし、そのように、経営者自身が問題の本質に向き合おうとしない間は、会社の業績が改善することはないでしょう。

本題からそれますが、私は、融資申請や事業改善のご依頼があったとき、依頼してきた経営者の方の依存心が強いかどうかを確かめるようにしています。経営者の方の依存心が強いと、前述のように、そもそも業績が改善する見込みが低いことに加え、トラブルにもなりやすいからです。もちろん、ご依頼者の依存心が強いことがわかれば、ご依頼をお断りします。

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8割が落第しそうな勢い

[要旨]

事業再構築補助金の第1回公募に関し、経済産業省は、事業計画書の説得力が不足する例が多いと評価しています。中小企業の多くは、事業計画書の作成に不慣れであることから、そのような例が多いということが実態であるとはいえ、今後、競争力を高めていくには、成行ではなく、実現可能性の高い事業計画を作成して遂行することが望ましいと言えます。


[本文]

「1次申請の申請書には共通した特徴があり、顧客規模の想定の積算根拠が甘い、なぜ、それだけの顧客を獲得できるのかというところを厳しく見ると、8割が落第しそうな勢いだ」これは、5月31日に行われた、令和3年度行政事業レビューで、経済産業省の官僚の方が、事業再構築補助金について述べた言葉です。この行政事業レビューの様子は、Youtubeの動画で公開されており、前述の説明は、開始後、約43分のところで聴くことができます。(ちなみに、事業再構築補助金の通常枠の第1回公募の応募数は、16,968者、うち、申請要件を満たした者は14,843者、採択数は5,104者で、応募数に対する採択数の割合は、30.1%でした)

私は、これを聴いたとき、中小企業の実態から鑑みると、それほど不思議とは感じませんでした。経済産業省の方から見れば、新たな事業を展開するときは、見込のある新市場を設定し、そこに向けて競争力の高い商品を投入するという、セオリーに従った事業計画書が提出されることを期待していたのだと思います。私も、それが望ましいことは理解できるのですが、現実的には、残念ながら、中小企業の多くは、それを実践することは、なかなか容易ではありません。

その最大の理由は、経営資源が比較的少ないため、展開できる事業の選択肢も、それほど多く持つことができないということです。すなわち、現在の事業を深堀りするか、それを少し応用することで精一杯という場合が多いと感じています。さらに、そのような状況から、新たな事業展開のための計画策定は、あまり行われていないことから、補助金に応募するために事業計画書を策定しようとしても、それに不慣れであり、結果として、経済産業省の方が期待していたような水準を満たす事業計画書を作成できた会社は少なかったのでしょう。

その一方で、経済産業省は、5月12日に全国銀行協会などに対して行った、「緊急事態宣言の延長等を踏まえた資金繰り支援等について」と題する要請の中で、「今般の協力金も含めた各種支援策の支給までの間に必要となる資金等について、柔軟かつきめ細やかな対応を行うこと、貸し渋り貸し剥がしを行わないことはもちろんのこと、そのような誤解が生じることのないよう、事業者の立場に立った最大限柔軟な資金繰り支援を行うこと」と述べていますが、その割には、同省は中小企業の実態を把握できていないと、私は感じています。

だからといって、中小企業が現状のままでよいということにはなりません。中小企業が自ら展開する事業に関し、単に、成行で実施しているということではなく、実現可能性を探り、きちんとした根拠をもって展開していると説明できることは、補助金だけでなく、銀行からの融資を受けるにあたっても望ましいことは、いうまでもありません。

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how to be

[要旨]

事業を改善するには、短期的には、戦略や戦術を実践することが基本ですが、長期的には、経営理念や社是に向かって進むということをしなければ、会社の存在意義を高めるなど、本来の事業の目的を果たせなくなってしまいかねません。


[本文]

伊那食品工業の元社長で、現在は最高顧問の、塚越寛さんのご著書、「末広がりのいい会社をつくる―人も社会も幸せになる年輪経営」を拝読しました。同書で、塚越さんは、「how to doの前に、how to beが大切だ」(55ページ)と述べておられました。すなわち、成功するための戦略、戦術(how to do)は世の中にあふれているけれど、経営理念や社是(how to be)が会社に浸透していなければ、長期的にはよい会社にならない」ということです。

これも多くの方が容易に理解されると思います。短期的に業績を高めるための活動だけをしていては、会社の存在意義を高めるなど、本来の事業の目的を果たせなくなってしまうということでしょう。しかしながら、これを理解していながら、実践している経営者は、あまり多くないと思います。これは、事業の現場では、重要性よりも緊急性が優先されてしまうという傾向によることが、最も大きな原因だと思います。

そして、私が、今回、塚越さんの言葉を引き合いに出した理由は、強い会社というのは、緊急性にあらがうことができない会社は、競争力も低くなってしまうということを感じたからです。これは、よくある、「頭では理解できるけれど…」ということだと思うのですが、逆に言えば、事業改善の方法は存在しないということではなく、明確化しているということです。したがって、事業改善は、その方法を実践するかどうかということにかかっていることに尽きるということでもあります。

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資金調達は経営者の仕事ではない

[要旨]

銀行から融資を得るために相当の労力をかけて融資承認を得る経営者の方の中には、それを経営者の役割と考えている方もいます。しかし、融資を得ることは、事業発展の手段であり、融資を得ることを目的としたり、融資を得ただけで安心してしまうことは避けなければなりません。


[本文]

先日配信された、経営コンサルタントの渡邉昇一さんのPodcast番組で、大分県の住宅建設会社社長の臼井栄仁さんのお話を聴きました。番組の中で、臼井さんは、「資金繰は経営者の仕事ではないが、資金繰をして仕事をしたと考えている経営者の方もいる」とお話しておられました。

これには少し補足が必要と思います。臼井さんは、社長の本来の仕事は、事業を発展させること、利益を得ることであり、資金繰、すなわち、銀行と交渉して融資の承認を得ることは、社長本来の仕事ではないという主旨をお話したのだと思います。一方で、会社が融資を受けなければ、事業を継続できないので、融資を受けるための活動は重要であると考える方もいると思います。

私もそう思うのですが、一方で、融資を受けただけでは、事業は発展しません。融資を受けた上で、事業を発展させるための活動をしなければ、事業は継続できません。ただ、融資を受けると、手許に資金が得られ、少しの間は事業を継続できるので、銀行から融資承認を得られると、そこで安心してしまう経営者の方もいるのでしょう。

そのような経営者を、臼井さんは、「資金繰をして仕事をしたと考えている」と指摘しているのだと思います。すなわち、臼井さんのご指摘は、会社が融資を受けることは必要であるものの、それは事業を発展させるための手段であり、目的ではないということなのだと思います。このことも、多くの方が容易に理解できることとは思うのですが、銀行との交渉にのみ注力している経営者の方は少なくないと、私も感じました。

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