鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ティーチングではなくコーチング

[要旨]

一般的な会社では、上司が部下に対して、直接的な解決方法を教えるティーチングが行われることが多いようです。しかし、そのような指導法では、部下はきちんと学ぶことができないため、同じ間違いを起こす可能性が高くなります。そこで、問いかけにより情報を引き出し、本人に考えさせて気づきや納得を与えるコーチングを行うことの方が、部下を成長させるために望ましいと言えます。


[本文]

今回も、Bリーグチェアマンの島田慎二さんのご著書、「オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか?」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、島田さんが千葉ジェッツの社長時代に、人事評価基準を明確するだけでは足らず、さらに、動機づけのために、従業員の方に目標達成を感じてもらう仕組みをつくり、自分が必要とされている、役に立っていると思える環境をつくり、自己への評価や誇りをもたらし、満足感を感じることのできるよう働きかけていたということを説明しました。

これに続いて、島田さんは、上司の部下に対する指導は、ティーチングよりコーチングの方が望ましいということについて述べておられます。「上司が部下をトレーニングする際にやってしまいがちなのは、背景をほとんど聞かず、直接的な解決方法を教えて、自分は満足してしまうパターンです。そういう場合、その部下は、『きちんと学べていない』わけですから、当然、また同じようなトラブルやミスを起こしてしまいます。そして、そのとき、トレーニングした上司は、『ちゃんと教えたのにまたやってる、あいつ全然わかっていないな……』と、平気で不満を漏らすわけです。

その上司がやっているのは、一方的に教える『ティーチング』であり、問いかけにより情報を引き出し、本人に考えさせて気づきや納得を与える『コーチング』ではありません。中小企業の場合、教える相手がよほど入社したばかりの新人でない限り、ティーチングではなく、コーチングの方が望ましいと私は思っています。その方が、部下の自立性を育み、自責的な思考を醸成でき、さらに実行力も高められるからです。

ただ、やり方や言い方を教えられるだけでは、『なるほど、こういう対処をすべきだったのか』という腹落ちもなければ、ノウハウ習得もまったくできないため、同じような過ちを繰り返してしまうことになります。これは、教えられる側はもちろん、教える側も成長できない、会社にとっては決していいとはいえないパターンです。部下をしっかり導くためには、説明して、説得して、納得させられなければ、ちゃんと育成したとは言えません。部下の育成に成功すると、そのことから上司も多くのことが学べます。部下の成長を促進することは、上司自身の成長にもつながっているわけです」

島田さんがご指摘しておられるように、部下指導はティーチングよりコーチングの方が望ましいということは、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、現実には、次のような課題があると思います。1つ目は、ティーチングをせずにコーチングをするようにしても、その効果が得られるようになるまでに、時間をようすることです。2つ目は、現在、部下を持つ人たちは、自分たちが指導を受ける立場にあったとき、コーチングを受けた経験がないという事情などから、部下に対してコーチングをしろと指示されただけでは。うまくコーチングをすることは難しく、上司自身にもコーチングの訓練が必要になることです。

3つ目は、ティーチングと比較して、コーチングは時間を要するため、忙しい上司にとっては、ティーチングをすることに精一杯で、コーチングは避けられてしまう可能性があるということです。しかし、これらの事情があるとしても、これからは、部下へのコーチングの実施を避けることはできなくなってくるでしょう。なぜなら、これも島田さんが別のところで述べておられるように、これからの時代は、事業の競争力を高めるためには、従業員満足度を高めることを通して、顧客満足度を高めるという方法が主流になってくるので、これに注力しなければ、ライバルとの競争に敗れてしまう可能性が高くなると考えられるからです。

さらに、これも島田さんがご指摘しておられますが、部下をコーチングすることにより、上司自身も成長するという副次的な効果もあります。ですから、経営者としては、コーチングを定着させることによって、短期的には業績が停滞することがあるかもしれませんが、あえて長期的な視点に立って、上司が部下にコーチングする体制を定着させることに注力することが求められていると、私は考えています。

2023/7/27 No.2416