[要旨]
不良債権とは、自社の資産で、取得したときの価額より価値が下がってしまったとき、その下がった価額をいいます。これは時価会計の考え方ですが、資産を取得価額だけでなく、時価でも評価するという考え方を持つことは、銀行との融資取引の関係を深めるためにも大切です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、高橋さんによれば、最低限の会計の知識は、社会人として身につけておくべきであり、なぜならば、お金の本当のところが読み取れるようになると、世の中の見え方も変わってくるからということについて説明しました。これに続いて、高橋さんは、「不良債権」をきちんと説明できるようになるためにも、会計の知識が必要ということについて述べておられます。「『不良債権』、この言葉を正確に定義できるだろうか。(中略)
まず、債権とは『資産』のことだ。資産にもいろいろあるのだが、ここでは『株』で考えてみよう。例えば、あなたがAという会社の株を1,000万円で買ったとする。これは買ったときの金額で帳簿を付けるので、『帳簿価格』という。ところが、買った直後に、A社の株価が下がり、あなたが持っている株の価値も70万円にまで下がってしまったとする。これを『実質価格』という。『帳簿価格=実質価格』、あるいは、『帳簿価格<実質価格』であるうちは問題ないが、『帳簿価格>実質価格』となると、あなたは損をすることになる。
その債権は、あなたに損をさせる『不良』のものになるわけだ。これが『不良債権』である。厳密には、帳簿価格より一定以上実質価格が低い場合を『不良債権』という。もちろん、A社の株価が、再び上がる可能性もあるから、そのまま持ち続けるという方法もある。だが、株価がもっと下がると見たら、損失を最低限に食い止めるためには、持っている株を売るしかない。100万円で買ったものを70万円で売るわけだから、30万円の損になる。帳簿価格と実質価格の差は損になるので、その差額を『不良債権額』と呼ぶことが多い」(21ページ)
本旨とそれますが、「銀行が抱えている不良債権」というように使われるときの「不良債権」ですが、法律では、直接、不良債権を定義していませんが、おおよそ、次のように考えられています。「約定どおりの元本や利息の支払いが受けられなくなるなど、回収困難か回収が困難になる可能性が高い債権のこと。金融機関は金融再生法に基づき、総与信のうちの正常債権と『金融再生法開示債権(破産更生等債権、危険債権、要管理債権)』の残高を公表しており、このうち金融再生法開示債権のことを不良債権と呼んでいます。また、金融庁は、破綻先債権、延滞債権、3か月以上延滞債権、貸し出し条件緩和債権を『リスク管理債権』と定義しており、広義では、この『リスク管理債権』と銀行の『自己基準で定められた不良債権』、『金融再生法開示債権』の3つを合わせたものが不良債権とされています」(三井住友DSアセットマネジメント株式会社のホームページより引用)
このような定義は、実務に携わっている人でなければ理解は困難であり、考え方は高橋さんのように考えればよいと思います。また、これも本旨とはあまり関係がないのですが、私が注意が必要と思うことは、株式を購入した場合、その株式は資産であることに間違いないのですが、株式は厳密には債権ではないと私は考えています。債権とは、民法に規定されていますが、簡単に言えば、商品を掛け売り(販売時点で代金を受け取るのではなく、後日、代金を受け取る条件で販売すること)をしたり、金銭を貸し付けて、後日返済を受ける契約をしたりしたときに、それを受け取る権利です。
一方、株式の取得は、株券を発行した会社への出資、すなわち投資なので、株式は債権には該当しないと思います。ただし、高橋さんは、取得した資産が、取得後に価値が変わる資産の例として株式で説明したのであり、高橋さんの述べておられる内容に誤りがあるということではないと、私も考えています。もうひとつ、これも本旨とはあまり関係がないのですが、「実質価格」という言葉は、会計用語としてはあまり使われていないと私は考えています。時価会計では、「時価」や「市場価格」という言葉が使われています。もちろん、どのような言葉を使ったとしても、高橋さんの述べていることについて誤りはありません。
話を本旨に戻すと、高橋さんは、取得した資産の価値が下がったとき、その下がった金額を不良債権額であると指しています。これについてはわかりやすい説明の仕方であると思いますが、会計の初学者の方が、最初にぶつかる壁ではないかと、私は考えています。私が、これまで中小企業経営者の方と話をしていて感じるのは、債権(または資産)の実勢価格が下がることについて、なかなか理解されないという方は少なくありませんでした。例えば、自社が取得した土地の実勢価格が下がっても、自社の資産は取得価額から変わりがないと考えていたり、自社が取得した建物が、購入代金のまま変わらないと考えていたりする例は少なくありませんでした。
銀行が融資相手の会社に融資している融資額も、例えば、契約上は1億円(無担保)の融資契約であっても、その会社が債務超過の状態になると、約70%は返済が見込めないと評価し、その額を、銀行は貸倒損失として費用計上することが一般的です。(貸倒率や、貸倒損失のタイミング、方法などは、銀行や融資相手の会社の状況などによって異なることがあります)よく、「当社は、銀行に返済を続けているので、銀行には迷惑をかけていない」と考えている経営者の方がいますが、もし、その会社が債務超過であれば、銀行は貸倒損失を計上しますので、銀行としては費用負担が発生しています。
ただ、このような情報は銀行は融資を受けている会社には伝えないので、前述のように考える経営者の方は少なくないのかもしれません。ただ、経営者の方が会計の知識を持っていれば、自社が赤字になると、自社に融資をしている銀行に負担をかけるということが理解できます。もし、この知識がなければ、自社が債務超過であるにもかかわらず、「当社は、銀行に返済を続けているのに、なかなか新たな融資に応じてくれないのは、貸し渋りではないのか」と、誤った認識を持ってしまうかもしれません。今回は、不良債権を例に、会計の知識の大切さについて述べましたが、もし、経営者の方が会計的知識を持っていると、銀行と認識の相違が減少すると、私は考えています。
2024/6/9 No.2734