鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

組織開発は対話による関係づくりから

[要旨]

組織開発の始まりの多くは、対話による関係づくりからスタートします。なぜなら、タスク・プロセスと、メンテナンス・プロセスに目を向けて対話を行うことで、メンバーは自分たちのどのようなプロセスからモヤモヤが起こっているのかに気づくことができるからです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、コンサルタントの早瀬信さんたち3人の著書、「いちばんやさしい『組織開発』のはじめ方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、組織開発の主な対象は、タスク・プロセスとメンテナンス・プロセスですが、技術的課題、すなわち、主にタスク・プロセスを改善する適切な方法と、適応課題、すなわち、主にメンテナンス・プロセスを改善する適切な方法を、上手く組み合わせることが、組織開発を奏功させる鍵になるということについて説明しました。

これに続いて、早瀬さんは、組織開発の第一歩は、対話による関係づくりから行われるということについて述べておられます。「組織開発の始まりの多くは、『対話』による関係づくりからスタートします。タスク・プロセスと、メンテナンス・プロセスに目を向けて対話を行うことで、メンバーは自分たちのどのようなプロセスからモヤモヤが起こっているのかに気づくことができます。自分たちでモヤモヤの要因に気づくという体験は、自ら現状を変える意志を生み、どのように関係を変えていけば良いかを話し合う一歩にもなります。次の行動へのモチベーションが生まれるのです。

互いのモヤモヤの要因をめぐって対話していく過程で、安全で話しやすい雰囲気(心理的安全性)が生まれ、関係の質が向上し始めます。関係の質が良い方向に変化すると、互いの考え方に影響を受けることから、メンバーの思考の質が変化し始め、それが行動につながっていきます。新たな考えやアイデアが生まれたり、他者の提案を受け入れやすくなったりするなど、メンバーの変革行動も始まっていきます。対話による関係づくりを行い、モチベーションの高い変革行動につなげる。これが組織開発の初めに目指すことなのです」(58ページ)

早瀬さんは、「組織開発は対話による関係づくりから始まる」と述べておられるものの、その理由については述べておられません。しかし、私も、経験的に、組織をよくしようという時は、対話は重要だと考えています。なぜなら、組織は、有機的な存在である人の集まりであり、そのつながりを円滑にするには、相互理解は欠かせません。そして、その相互理解を進めるには、対話が必要になるからです。これについては、ほとんどの経営者の方も経験的に同じように感じると思います。

その一方で、組織内での対話、すなわち、コミュニケーションの確保は、軽んじられている会社も少なくないと思います。その理由のひとつは、組織の上位に立っている人ほど、コミュニケーションの必要性を感じにくいからだと思います。なぜなら、会社の経営者や幹部は、部下に対して話をきいてもらいやすい立場にありますが、逆に、部下が幹部や経営者に話をきいてもらうことは、比較的容易ではありません。

すなわち、組織の上位の人は、下位にいる人と比較して、コミュニケーションをとるための労力が少なくてすむので、コミュニケーションの重要性を感じにくいのだと思います。もうひとつの理由は、社内での会話は、時間を無駄遣いすることになると考えられがちだからだと思います。確かに、当座の仕事に関すること以外に話をすることは無駄に感じるかもしれませんが、逆に、職場では仕事以外のことしか話すことができないと、人間関係がギクシャクして、働きにくくなってしまいます。もちろん、勤務時間中に無制限にどんな話をしてもよいということにはならないと思いますが、人間関係を円滑にするために、ある程度の会話は許容されるべきだと思います。

話しを組織開発に戻すと、早瀬さんは、組織開発を目的とした対話の重要性について説明しておられますが、私は、日本で発展してきた、QCサークル(小集団活動)は、組織開発のための対話と同様の効果を発揮してきたと考えています。というよりも、QCサークルは、それを実践することで、同時に組織開発を行うことにもなっていたと考えます。

QCサークルは、形式的には、製造業などで、製造現場の従業員たちが、直接、自分たちの関わる仕事について、自ら改善テーマを選び、また、自ら改善策を発見し、さらにそれを実践していくための集団です。しかし、QCサークルの実質的な目的は、改善活動を通して、チームメンバー同士の相互理解を深めたり、能動的、自律的な活動を経験することです。このQCサークルについて、早瀬さんは言及していませんが、私は、QCサークルは組織開発のための行動そのものになっていると考えています。

2024/3/14 No.2647