鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

行動指針を示さずに組織は変わらない

[要旨]

公認会計士の金子智朗さんによれば、経営者の方の中には、「売上を上げろ!」と叫ぶ方が少なくないそうですが、そのための具体策まで言及しなければ、部下たちは行動ができないので、行動指針を示し、それが企業文化として定着させるための働きかけを経営者の方は実践しなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、売上もコストも、何らかの行動の結果であって、会計上の問題は会計では解決できないとご指摘されておられますが、このことを理解せず、闇雲に「コストを削減しろ」と叫ぶだけの経営者や会社幹部は少なくないので、具体的な行動を起こさなければ、財務状況は改善しないということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、経営者は具体的な内容を指示しなければ、部下たちの行動は変わらないということについて述べておられます。「『売上を上げろ』、『コストを下げろ』もそうでうすが、何かを言っているようで、実は何も言っていないということがしばしばあります。言っている本人は何かが起こることを期待して言っているでしょうし、もしかしたら『俺って、いいこと言うな』ぐらいに思っているかもしれません。

しかし、残念ながら、こういう言葉では何も起こりません。既に触れた『コスト意識』というのもその一つです。『コスト削減!』と叫ぶ人に、『それは分かりましたけど、具体的な打ち手は?』と聞くと、『コスト意識をもっと高めるベきだ』と言う人がいます。驚くほどたくさんいます。残念ながら、これでは何も言っていないに等しいです。『具体的な打ち手』と聞いて、平気でこう答えるのですから、かなり重症です。百歩譲って、自分一人だけのことなら、気の持ちようを変えることによって具体的な行動の変化に結び付くこともあるかもしれません。

しかし、それが組織という多人数の集団になった場合、組織の具体的な行動と変化に結び付く可能性は非常に低くなるでしょう。それ以前に、そもそも『コスト意識』が何だかさっぱり分かりませんし、それを『高める』とは何をすることなのかもさっぱり分かりません。『企業文化を変える』というのも、何も言っていないに等しい言葉です。第3章でアドポカシー・マーケティングをご紹介しました。アドポカシー・マーケティングとは、会社の目先の利益ではなく、本当に顧客のためになることすることが、結局は会社の利益につながるという『考え方』です。

この考え方は単純明快ですが、それを組織として実現するのは単純ではありません。アドポカシー・マーケティングの第一人者であるマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院のグレン・アーバン教授は、アドポカシー戦略を導入するために『具体的にやるべきこと』として、企業文化を変えることを挙げています。残念ながら、これは具体的ではありません。これだけで具体的な組織行動に結び付くとは到底思えません。必要なのは、もっと具体的な行動指針です。

たとえば、高島屋のエビソードでいえば、『ライバル店に電話をしてでも、顧客のためになることをしろ』というような具体的な行動指針です。そうでなければ、ライバル店に塩を送るような行動は取れません。一歩間違えれば、上司にこっびどく叱られてもおかしくない行動だからです。そして、こういう行動の積み重ねによって、結果的に企業文化が変わるのです。『企業文化を変えろ』と叫んで、何か具体的な行動が変わるわけではないのです」(213ページ)

私は、事業改善のお手伝いをしている経営者の方には、事業計画書を作成することをお薦めしています。事業計画書と言っても、経営者の方が、頭の中だけにある、今後の見通しのことではありません。(「そんなこと、当たり前だ」とご指摘する方もおられのではないかと思いますが、「事業計画書はありますか?」と質問したときに、「あります」と回答した経営者の方に、「それではそれを見せてください」と依頼すると、「それはここ(経営者の方の頭)にある」と答える経営者の方には少なからずお会いしたことがあります)

では、なぜ、事業計画書の作成を薦めるのかというと、事業計画書によって、何を(What)、どこで(Where)、いつ(When)、だれが(Who)、どのように(How)、どれだけ(How Much、または、How Many)、すなわち、4W2Hが明確になるからです。(ちなみに、5つめのW(なぜ、Why)は、経営戦略、または、経営理念で説明します)これを会社内で共有することで、組織活動の足並みが揃います。もちろん、足並みを揃えたからといって、それが遂行されることが保証される訳ではありませんが、足並みが揃わないよりも高い成果を期待することができあます。

そして、バランススコアカード(BSC)では、事業活動で実行する各経営戦略の数値目標が階層的なKPI(重要業績評価指標)として示されますが、これは、各戦略の有機的な関係が明確になり、単に、事業計画書だけで示される数値目標よりも、目標を深く理解してもらうことが可能になります。中小企業では、BSCの導入は難易度が高いので、まず、事業計画書の作成と共有から始めることをお薦めします。ところが、事業計画書を作成しても、実際にはそれを達成できないこともあるので、作成する意義を感じないと考える経営者の方も少なくありません。

確かに、事業計画は、内部要因、外部要因によって達成できないこともありますが、前述したように、組織活動の足並みを揃えるという役割があるので、計画を達成できないことがあるというだけでは、作成することが無意味であるとはいえません。また、私は、経営者の方が、事業計画書の作成を通して、部下の方たちに組織的な活動をしてもらうようにすることが、組織の成熟度が途上にある会社においては、まさに、「経営」、すなわちマネジメントであると考えています。その一方で、経営者の方の中には、部下の方たちに対して、金子さんが言及しておられる、アドポカシー・マーケティングを実践するくらいのことをして欲しいと考える方も少なくないと思います。

しかし、それは、組織の成熟度が高い会社で実践できることです。すなわち、経営者が示した経営理念に基づいて、各従業員が、それに沿った活動を自ら判断して実践できる能力がなければ、アドボカシー・マーケティングが奏功するようにはなりません。そして、その組織の成熟度は、一朝一夕で高くなることはありません。まず、事業計画書を活用した、足並みが揃った組織活動ができるようになってから、アドバイザー・マーケティングを実践してもらうという手順を踏まなければならないということを忘れてはなりません。

2026/7/8 No.3493