鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『頭のいい人』はできない理由を考える

[要旨]

公認会計士の金子智朗さんによれば、グーグルの幹部は、「予備知識が多すぎることは、イノベーションを阻害しかねず、今起きている事態について知りすぎていると、困難だと結論づける理由を十指に余るほど思いつく」と言っており、すなわち、いわゆる頭のいい人は、できない理由を考えるのが得意であることから、経営者は、社内に行動しない人が増えないような働きかけをすることが大切だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、かつて倒産の瀬戸際までいった日産自動車は、評論家ばかりで、行動を起こさない社員ばかりでしたが、カルロス・ゴーン氏が社長に就いてやったことは、特別なことではなく、何十年も前から、社内でもっとこうすればいいのにと言われていたことをただ実行に移しただけであり、ビジネスにおいては実行が伴わない限り何の改善も実現せず、評価もされないということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、いわゆる頭のいい人は、できない理由を考えるのが得意ということについて述べておられます。「頭のいい人に限って、いろいろと理屈は並ベ、言うことだけは立派ですが、行動はなかなか起こさない傾向にあります。特に大企業は、いわゆる一流大学を卒業したような人ばかりが集まっていますから、下手をするとそんな人たちだらけです。

サントリー創業者の鳥井信治郎氏は、どんな苦境に陥っても自身の信念を捨てず、叩かれても叩かれても破天荒の才覚を発揮し続けた人でした。それを最も端的に表す言葉が『やってみなはれ』です。この言葉は、国産ウィスキーなどの洋酒メーカだったサントリーが、後発企業としてビール事業に進出することを決意する際に、次男である二代目社長・佐治敬三氏に送られた言葉と言われています。

そのチャレンジング精神は、現在のサントリーにおいてもDNAとして生きており、同社のホームページには『“結果を怖れてやらないこと”を悪とし、“なさなさざること”を罪と問う社風』と書かれています。確かに、ビール事業に進出していなかったら、今やヱビスビールを抜いてプレミアムビールのナンバーワン・ブランドとなったザ・プレミアム・モルツの成功もなかったでしょう。ザ・プレミアム・モルツは、モンドセレクションで国産ビール初の最高金賞を数年連続で受賞しています。

ホンダの創業者である本田宗一郎氏も、『やってみもせんで何が分かる』とよく言っていました。有名なエピソードの一つに、赤色の自動車は緊急両用にしか使うことが許されていなかった時代に、赤い乗用車を認めさせたという話があります。国を向こうに回せば、ついつい腰が引けてしまうものですが、本田宗一郎氏は『国家がデザインの基本である赤という色に、難癖を付けるのはおかしい』と新聞やメディアで大々的に発言して、赤のカラーリングを認めさせたのです。

グーグルは、その採用方法が厳しいことで有名です。徹底して優秀な人材を集めるため、若くて高学歴の者しか採用しません。実際、共同創業者であるラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンの母校であるスタンフォード大学出身者が多数いますし、マイクロソフトのような企業からも根こそぎ優秀な人材を集めています。その一方で、過去の経験はあまり重視しません。なぜならば、経験が豊富な人材ほど、既存の型を打ち破ることができないからです。何より、創業者の二人は、全く経験のないところから全く新しいものを生み出したのです。

グーグルの幹部の一人は次のように言っています。『“予備知識”が多すぎることは、イノベーションを阻害しかねない。今起きている事態について知りすぎていると、困難だと結論づける理由を十指に余るほど思いつくものさ』いわゆる『頭のいい人』は、『できない理由』を考えるのが得意です。そんな人に限って、自他共に優秀だと思っているのも、儲かっていない会社にはよくある話です」(208ページ)

7月5日に放送された、TBSテレビのバラエティー番組のがっちりマンデーでは、ユーグレナに子会社化されたキューサイについて紹介していました。すなわち、キューサイは、子会社化前の2019年12月期の売上高は約249億円でしたが、2025年12月期の売上高は約266億円に増加したそうです。

この要因は、ユーグレナ(創業2005年)の社長の出雲充さんによれば、1965年に創業したキューサイは、知名度が高く、通信販売だけで多くの売上を得ることができる状況に甘んじ、ビジネスチャンスを逃していたので、ユーグレナの商品の販売網でキューサイの商品も売ることで、売上を増やすことができたそうです。すなわち、業績60年の会社が、業績20年の会社のノウハウで売上を伸ばすことができたということです。

同様のことは、2019年に、PPIH(ドン・キホーテとして1978年創業)が子会社化した、ユニー(1912年創業)でも起きています。このような事例から、歴史のある会社は、行動しない役職員が増えて行くという傾向は珍しくありません。そこで、経営者としては、従業員が、常に行動するように働きかけることが大きな役割になっているのでしょう。そのひとつの方法が、Googleで行っているように、若い人に限定して採用するということだと思います。

その一方で、若い人は、育成することに労力を要するので、特に、中小企業では避けられがちです。でも、これからは、業績を高める要因は、商品から従業員に移りつつあるわけですから、その育成することを避けるということは、競争力が下がることにつながります。さらに、経験の長い人ばかりを増やしてしまうと、「行動しない人」を増やすことにもなります。ですから、経営者の方は、若い人を採用し育成することは、自社の競争力を高めるためには避けることができないと認識しなければならないと、私は考えています。

2026/7/6 No.3491