[要旨]
公認会計士の金子智朗さんによれば、財務会計の損益計算書の最も下には当期利益が記載され、それで業績が評価されますが、これを、「人件費前利益」に変更してみると、株主への利益と従業員への利益を同列に置くことになり、それを最大化しようとする意欲が起き、また、従業員からの貢献に報いることにもなるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、その人の働きに全く関係なく年齡という要因だけで給料が上がっていくのは、永遠の右肩上がりを信じていた時代の幻想であり、会社の利益に多く貢献した者がそれだけ多くの給料をもらうことは、経済原理からして当然であり、コスト管理の面からも理に適った考え方だということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、人件費前利益について述べておられます。「人は目に見えるカタチに大きく左右されます。ひとたびカタチが出来上がると、元々の趣旨は忘れ去られ、人の考えはカタチに規定されます。最後にくるものが一番重要と思ってしまうのも、人の考えがカタチに規定される例です。紅白歌合戦でも、最後に登場するトリは大御所と決まっています。
財務会計上の最終行にある当期純利益も同じです。当期純利益のことを英語では『ポトム・ライン』と言うことがあります。まさに『最終行』ということです。ポトム・ラインは比喩的に『結論』という意味でも使われることからも分かるように洋の東西を問わず、最後にくるものは重要なものなのです。当期純利益がポトム・ラインになっている財務会計のカタチを見ている限り、『株主に帰属する利益と、それを減少させるコスト』という対立構造からはなかなか逃れられません。
そこで、人件費とそれ以外のコストを区別し、人件費を引く前の『人件費前利益』というものを設けてみます。この人件費前利益から、人件費を最後に引いて、最終利益を計算するカタチにしまず。目指すのは人件費前利益の最大化です。当期純利益の最大化ではありません。人件費前利益は、従業員と株主ヘの富の分配原資になっていますので、これ最大化するということは、株主と従業員を対等に見ていることになります。
このようなカタチになっていれば、人件費以外のコストは従来通り削減対象と考えたとしても、人件費はその中に入っていませんから、人件費がいきなり削減対象になることはありません。場合によっては、当期純利益がマイナスになっても、人件費を優先するという考え方もあってもいいはずです。
資金の出し手である株主よりも、知識の出し手である従業員の方が重要であるポスト資本主義においては、この方がむしろ理に適っています。ただし、大前提を忘れてはいけません。守られるベき人件費は、知識を有した生産性の高い人の人件費だけです。そうでない人の人件費が守られる経済合理的な理由は何もありません」(203ページ)
広島県広島市の、メガネ販売店、メガネ21を運営する、株式会社21は、「会社にお金は残さない!社員とお客に還元する」という方針で会社を経営しているそうです。よって、会社へ貢献することは、従業員の方の利益に直結するので、従業員の方は、当事者意識を持って仕事に臨み、結果、モチベーションも高まります。
そして、同社の業績は、2026年2月期の売上高は約22億円、当期利益は2.261万円、大卒初任給は26万7千円だそうです。この業績がよいか悪いかは、一概に断定できませんが、同社の従業員数が113名であることを考えると、業績がよい会社であると私は考えています。
そして、日本のすべての会社が、同社のような仕組みにすることは、直ちには難しいかもしれません。ただ、金子さんのご指摘しておられるような、「人件費前利益」を目標として掲げる会社は生産性が高くなることは間違いないと私も考えています。そこで、自社の生産性を高めたいと考えている経営者の方は、その方法の1つとして、自社の「人件費前利益」がいくらになるかを計算し、従業員の方に公開してみることをお薦めします。
2026/7/3 No.3488
