鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

マーケティングは開拓型から維持型へ

[要旨]

公認会計士の金子智朗さんによれば、かつては、新しい顧客を開拓するためのマーケティングが行われてきましたが、現在は市場が飽和しつつあることから、これまで取引のあった顧客と継続的に良好な関係を築き、同一顧客が何度も自社製品を購入してくれるようにすることが重要になる、すなわち、顧客開拓型マーケティングから顧客維持型マーケティングに移行していくことが望ましいということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、財務会計は、製品の原価を把握できますが、会社の利益は顧客の購入意思決定によってもたらされるという観点からは、財務会計だけでは適切な経営判断はできないことから、管理会計によって顧客ごとの利益額を把握しなければ、適切なマーケティングを行うことはできないということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、市場が飽和しつある現在は、顧客開拓型のマーケティングから、顧客維持型へのマーケティングに移ることが望ましいということについて述べておられます。「従来の伝統的なマーケティングは、市場におけるチャンスを発見し、狙った市場に対して製品を投入するという考え方です。このようなマーケティング・パラダイムは、基本的に新規顧客を開拓することに重点が置かれています。新しい市場機会の発見や新規顧客の開拓は企業の成長にとつて必要不可欠です。

また新規ビジネスや新規製品の場合は、新たに顧客を開拓するしかありません。ですから、伝統的な顧客開拓型マーケティングの必要性がなくなることはありません。ただ、このような顧客開拓型マーケティングは、ぬり絵のまだ塗られていない白い部分を探し続けるようなものです。これだけ多くの企業がさまざまな製品によってぬり絵に色を塗り、場合によっては何重にも重ね塗りしてきたことを考えると、新たに白い部分を探し出すのはどんどん難しくなってきているはずです。

そこで、市場全体をぽやっと捉えるのではなく、個々の顧客をターゲットにし、同一の顧客から得られるキャッシュ・フローを最大化しようという考え方が出てきました。そのためには、一度引き付けた顧客と継続的に良好な関係を築き、同一顧客が何度も自社製品を購入してくれるようにすることが重要になります。これは顧客開拓型マーケティングに対して、顧客維持型マーケティングと言うことができます。

ワン・トウ・ワン・マーケティングやリレーションシップ・マーケティング、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)などが顧客維持型マーケティングの具体例です。企業の立場から見た顧客維持型マーケティングのポイントは、優良顧客の発見とその顧客との継続的な関係性の構築と維持です。良好な関係を築くことによって、優良顧客を自社のファンとでも呼ぶベきロイヤルティを持った顧客にしていくことです」(70ページ)

CRMの事例はたくさんあるのですが、私は、まず、高知県高知市にある自動車販売外車のネッツトヨタ南国の事例を思い浮かべます。同社では、顧客データベースを充実させていおり、店内にいる従業員の方は、自動車で来客があったときは、まず、自動車のナンバーを見てデータベースを検索するそうです。そして、その自動車のオーナーの名前と予約内容をインカムで他の授業員の方に伝えるそうです。

そこで、その自動車を出迎えた従業員の方は、「ようこそ○○様、本日はオイル交換でご来店ですね」と伝えることができるそうです。その他に、顧客ごとに、前回の来店時に飲んだ飲み物や、子どもが見たビデオも記録しているので、きめ細やかな接客ができるようにしているそうです。こうしたプロセス管理をしていれば、サービスの質も高くなるということは、誰でも容易に理解できると思います。

しかし、ここで、「ネッツトヨタ南国を見習って、CRMを構築しましょう」と伝えても、現在は、CRMはそれほど真新しい手法とは感じてもらえないと思います。市場飽和は、ほとんどの経営者の方が感じていることであり、だからこそ、より深い顧客対応の必要性を理解していると思います。しかしながら、CRMを実践している会社の割合は、依然として低いと思います。それは、価格戦略のところでも述べましたが、価格引き下げは実践が容易な対応策であることから、多くの会社が安易に実践してしまいます。

でも、特に中小企業は、それでは利益を得ることが難しく、まずます業績を悪化させてしまいます。逆に、CRMど導入し、それが奏功していれば、価格を引き下げる必要性が低くなります。確かに、CRMの導入は、少し労力がかかる面もありますが、情報技術の進展によって、かつてよりも導入が容易になってきています。こう考えると、経営者の方がCRMを導入し実践するかどうかという決断に帰結するということになると私は考えています。

2026/6/10 No.3465