鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

管理会計なしにマーケティングは不可能

[要旨]

公認会計士の金子智朗さんによれば、財務会計は、製品の原価を把握できますが、会社の利益は顧客の購入意思決定によってもたらされるという観点からは、財務会計だけでは適切な経営判断はできないことから、管理会計によって顧客ごとの利益額を把握しなければ、適切なマーケティングを行うことはできないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、ルイ・ヴィトンの製品が高いのは、原価が高いからではなく、製品の価値が高いからであり、製品を値上げし、利益を増やそうとする場合は、原価ではなく価値を高めなければならないということについて書きました。

これに続いて、金子さんは、利益は顧客別に管理すべきということについて述べておられます。「くどいですが、利益の源泉は顧客です。製品ではありません。ところが、会計の仕組みとなると、圧倒的多数の会社は製品別に利益を管理しています。顧客別に利益を管理している会社はほとんど見たことがありません。なぜ、そこまで多くの会社が製品別の利益管理をしているのでしょうか。(中略)会社における会計管理の仕組みが制度の影響を強く受けているとはいえ、根底には『利益の源泉は製品』という考えが、意識的か無意識的かを問わず、根強く横たわっているように思います。

逆に、カタチは人の思考を無意識のうちに規定します。製品別の利益管理というカタチを使っていると、知らず知らずのうちに、『利益の源泉は製品』と思うようになってしまいます。だから、会計に限らず、カタチは非常に重要です。その中でも会計は、数字という有無を言わさぬ強力なカタチをしていますから、そのカタチを間違えると人の行動が間違った方に進んでしまいます。そもそも、会計には2つの種類があります。

1つは制度的な決算を目的にした財務会計です。何も言わずに『会計』といえば、通常はこの財務会計を指すのが普通です。もうーつの会計は、管理会計です。これは文字通り、経営管理のための会計です。経営管理において用いるベきはこの管理会計です。財務会計ではありませんし、はっきり言って、財務会計では経営はできません。管理会計は経営管理のための会計ですから、拠り所とすベきは制度ではありません。

その会社が経営において何を重視しているかということです。大袈裟に言えば、経営思想であり価値観です。利益の源泉が顧客であるならば、管理会計は顧客別に利益を管理できるカタチにすベきです。『何がどれだけの利益をもたらしているか』ではなく、『誰がどれだけの利益をもたらしているか』が見えるようにするのです。そうすることによって、顧客に焦点を当てた戦略的なマーケティングも初めて可能になります」(50ページ)

言うまでもなく、財務会計は、事業活動で得られた利益を報告するための会計であることから、経営者が行う意思決定に必要な情報を十分に提供することはできません。これは、財務会計の目的が、異なることによるものであり、財務会計に問題があるということではありません。

一方で、金子さんのご主張は、利益は、顧客の意思決定によって会社は利益を得ることができるということですので、そのよううな観点から鑑みれば、製品を製造するためにどれくらいのコストがかかっているのかをどれだけ分析しても、顧客の購入の意思決定を促すための方法を見つけることはできないということは事実です。そこで、「誰がどれだけの利益をもたらしているか」を管理会計によって明らかにすべきという金子さんのご指摘は極めて妥当と言えます。

この、管理会計による顧客の分析に関して私が思い浮かぶ事例は、経営コンサルタントの山田修さんが、山田さんのご著書、「プロフェッショナルリーダーの教科書」で述べておられた、ABC分析です。山田さんは、かつて、業績を立て直すために、米国の製紙会社のミードの日本法人の社長に就任したとき、同社の顧客は120社あったそうですが、これを販売額で、Aグループ5社、Bグループ25社、Cグループ90社に分けたそうです。

AグループとBグループについては、そのグループに入れる会社の基準はわからないのですが、Cグループは年間販売額が1,000万円以下の会社にしたそうです。そして、山田さんは、C社には営業マンを訪問させず、すべて、電話で注文を受けるようにしたそうです。また、同社がCグループの会社の工場に設置している包装機が故障しても、自社の従業員を派遣して修理させることはせず、自社が紹介したメンテナンス会社に顧客から電話してもらい、修理代も顧客に負担してもらうようにしたそうです。(ミードは、複数の缶飲料などをまとめて手にかけてぶら下げて持てるようにする紙パックを販売しており、顧客の工場には製品をパック詰めする機械を貸していたようです)

その結果、1年以内に、Cグループの顧客のうちの半分が、取引解消になったそうです。しかし、このような方針転換で、山田さんが社長に就任する前年の同社の業績は、売上が約40億円、経常赤字は約22億円でしたが、社長に就任した後の半年間で、売上は前年比で20%改善し、利益も黒字になったそうです。そして、翌々年から、売上高経常利益率は8%に改善したそうです。

このミードの事例がどんな会社にもあてはまるとは限りませんが、同社では製品そのものを変えずに、管理会計で分析した結果に基づいて、販売先を選別しただけで業績が改善しました。このように、管理会計で顧客を分析することは、事業改善のための重要な要素であることは間違いないと言えるでしょう。

2026/6/9 No.3464