[要旨]
公認会計士の金子智朗さんによれば、ルイ・ヴィトンの製品が高いのは、原価が高いからではなく、製品の価値が高いからであり、製品を値上げし、利益を増やそうとする場合は、原価ではなく価値を高めなければならないということです。さらに、利益を増やそうとする場合、価格を下げる方法は後から汗をかくことになるので、先に汗をかくことになる価格を上げる方法の方が望ましいということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、他社との競合のために、製品価格を下げることがありますが、これは、容易に実行できるものの、価格を下げた状態から利益額を維持・増加するには、かなりの販売数量を増やす必要があるので、安易に価格を下げることは避けるべきだということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、製品価格を値上げすると利益を増やすことができるが、そのためには、製品の価値を高めることが前提になるということについて述べておられます。「一方、値上げ戦略はどうでしょうか。一般的に、値上げに対しては多くの企業が購躇します。なぜなら、値下げと違って値上げには理由が必要だからです。納得できる理由がなければ、顧客は怒ります。もしくは、怒ることもなく默って去っていくことでしょう。顧客が納得できる理由とは競合製品とは違う何かです。
性能が優れている、色がいい、デザインがおしゃれなど、競合製品とは違う何かがあって、かつ、その違いに価値を認めてもらえなければ、値上げは容認されません。そこには生みの苦しみがあります。しかし、ひとたび何らかの差別化要因を創り出し、それを価値として顧客に認めてもらえれば、高い価格も正当化されます。差別化要因が製品や企業のイメージと結び付けば、プランドという価値になります。
価格とは顧客が製品に対して認めた価値の表れです。コストが高いから価格を高くするのではありません。価値が高いから価格を高くできるのです。企業側から見れば、価格は顧客に対する企業からのメッセージでもあります。本当に価値があって自信がある製品なら、むしろ高い価格で売るベきです。その方が、『高級品を買った』という顧客の満足感にもつながります。安ければいいというものではありません。価値があれば、価格はコストに関係なく決まりますから、コストをはるかに上回る価格で売ることができます。
そうなれば、利益の増大という点では非常に有利です。いわゆるブランド品のバッグや財布を考えてみてくだきい。確かにいい材料を使っていますし物もしっかりしていますから、それなりにコストはかかっているでしょう。しかし、コストが高いからあの価格なのではありません。それでもみんなが買うから、あの価格なのです。実際、ルイ・ヴィトンやタグ・ホイヤーなどを傘下に持つ仏モエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)の原価率はわずか35%しかありません。
同じく時計を扱うセイコーやシチズンの原価率は67%、G-SHOCKなどの比較的安価な時計を展開するカシオ計算機は、日本の製造業平均を若干下回る77%です。プランド品の価格がいかにコストと無関係に決まっているかが分かるでしょう。値上げ戦略の行きつく先は、このようなプランド戦略です。それができれば、利益は非常に楽に出るようになります。値下げ戦略は、値下げをすること自体はいとも簡単にできますが、それによって利益増大という最終目的を達成するためには、後で営業が走り回って売りまくらなければならない戦略です。
一方の値上げ戦略は、値上げというその行為をするために、まず理由を考えなければなりません。理由というのは、他社とは違う何かです。それは頭を使う楽ではない仕事かもしれませんが、理由を創り出せれば、最終目的である利益増大は非常に楽になります。値下げ戦略と値上げ戦略を対照的に言えば、値下げ戦略は、『先に楽して、後で肉体的に汗をかく戦略』であるのに対し、値上げ戦略は、『先に頭で汗をかいて、後で楽する戦略』と言うことができます。どちらがいいと考えるかは、人それぞれだと思いますが、やはりまずは先に頭で汗をかきたいところです」(46ページ)
ほとんどのビジネスパーソンは、「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく、穴である」という、米国の経済学者の言葉をご存知と思います。すなわち、製品を買う人は、製品そのものではなく、製品から得られるベネフィットに対して代金を支払うという考え方です。この考え方は、現在は、「モノ消費」から「コト消費」に移りつつあるということであり、最近は、顧客体験価値(CX)という言葉でも表現されるようになってきています。
したがって、金子さんが、「価格とは顧客が製品に対して認めた価値の表れ」と述べていることは、現在のビジネスの基本的な考え方ということでもあります。その一方で、未だに、「顧客は自社の製品を評価してるから購入してくれている」と考えている経営者の方は少なくありません。したがって、自社の製品のベネフィットはどういうものであるのかを分析し、それを高めたり顧客に訴求したりすることが大切であり、そのことが、製品の価値を高め、利益を増やすことになります。
このような活動の事例としては、獺祭があげられると思います。同社会長の桜井博志さんは、かつて、同社が知名度が低かったことから、販売店で取り扱ってもらえず、直接、東京都内の居酒屋へ出向いて販売したそうです。さらに、「どのような料理に合うか」、「どう保管すれば味が落ちないか」を直接伝えることで、獺祭の評価を高めていったそうです。同社にとっては、卸売店や飲食店の知識不足が、同社製品の価値を下げる要因になっていたことから、これらを改善することで正しく顧客に認識してもらえるようになったと考えることができます。
2026/6/8 No.3463
