[要旨]
公認会計士の金子智朗さんによれば、他社との競合のために、製品価格を下げることがありますが、これは、容易に実行できるものの、価格を下げた状態から利益額を維持・増加するには、かなりの販売数量を増やす必要があるので、安易に価格を下げることは避けるべきだということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、金子さんによれば、かつて、iPadは、OSをつくりなおしたことで、動きが軽くなり、顧客から支持を得ることができましたが、このように、前例を踏襲しようとすると顧客からの支持を得ることが難しくなるので、違うモノを売ることをもっと考えるべきだということです。
これに続いて、金子さんは、価格を引き下げて売上を増やそうとすると、利益は減少するということについて述べておられます。「利益の源泉に関する誤解という意味では、価格についても誤解が多いものです。たとえば、多くの企業がよくやる値下げについて考えてみましょう。値下げをするのは、売れ残った商品の在庫処分が目的のこともありますが、一般的には値下げによって需要を刺激し、利益の増大を図るというのが典型的な目的の一つでしょう。その場合は、値下げが利益の源泉だと考えていることになります。
価格を下げただけでは売上が減るだけですから、利益を増やすためには、値下げによって需要を喚起し、販売量を増やす必要があります。では、巷でもよく見かける10~20%程度の値下げをした場合、販売量が何%増えたら利益が増えるのでしょうか?『10~20%程度の値下げなんだから、10%~20%ぐらい販売量が増えればいいんじゃないの?』と簡単に思うかもしれません。
実際には製品のコスト構造によって変わってきますが、一般的なコスト構造を前提にすると、従来よりプラス30%以上、場合によっては従来の2倍以上も販売量が増えないと利益は増えません。値下げが販売量というポリュームに与えるインパクトは、かくも大きいのです。果たして、どれだけの人がこの事実を知った上で値下げという手段を採っているでしょうか?
値下げという行為自体は確かにとても簡単です。なぜならば、値下げに対して文句を言う顧客は基本的にいないからです。しかし、値下げをして利益を増やすという戦略は、値下げだけして中身は何も変わっていない製品を、後は営業の努力で今までより30%増、場合によっては2倍以上売って来いという戦略です。利益増大という最終目的の達成は、そう簡単ではありません」(45ページ)
ある会社の月間売上(月商)が1,000万円で、売上に占める利益の割合(利益率)が40%の場合、利益額は400万円です。10%値下げをしたときは、月商は100万円減少して900万円に、利益も同額の100万円減少して300万円になりますので、利益率は33.3%になります。この33.3%の利益率で400万円の利益を得るために必要な売上高は、1,200万円(=400万円÷33.3%)です。すなわち、1,000万円から、その20%分の200万円の売上を増やす必要があります。
ただし、値下によって販売単価は減っていますので、数量で言えば、33%増やさなければなりません。もし、その会社の利益率が20%のときは、利益額が20万円なので、10%値下げしたときに同じ利益を得るために必要な売上高は2,000万円で、1,000万円の2倍の売上が必要になります。ただし、数量で言えば、2.2倍の商品を売らなければなりません。
確かに、こういった見積もりを考えれば、安易な値下げは避けなければならないと感じるでしょう。では、大手の会社は、物価が上昇している中でも、値下をしてくることがあります。これは、ローコストオペレーション(LCO)を実施していることで、値下を可能にしています。
これは、人工知能などを駆使して需要予測の精度を高めている、店頭の販売状況を製造工程で迅速に把握し、それを製造計画に反映させて無駄が出ないようしている、複数の向上をスマート化して連携させ、効率的なサプライチェーンを構築する、規模の拡大により材料等の仕入れ条件を改善するなどの対応をとることで、価格の引き下げを可能にしています。ここで大切なことは、価格の引き下げを行っても、利益率は下がらないようにするということです。したがって、大手の会社は、値下をしたからといって、利益が減るわけではなく、逆に、値下によって売上が増えれば、利益も増えると言うことです。
しかし、中小企業ではLCOを行えないか、行ったとしても限界があり、大手の会社には太刀打ちできないことが多いようです。そこで、中には無理をして利益率を減らして値下げをする会社もあるようですが、そのような方法は体力勝負であり、早晩、大手の会社に敗れてしまうでしょう。したがって、中小企業は価格勝負は避けなければなりません。ところで、LCOについて、ときどき、誤った理解をしている経営者の方に会うことがあります。
LCOは前述のように、仕組みを改善して価格を下げ、利益を維持、または、増やす活動です。しかし、単に、製造個数を減らさずに、工場の稼働時間だけを短縮して製造原価を下げたり、材料の価格を値切って製造原価を下げたりという活動は、製品価格の引き下げはある程度は可能ですが、真のLCOと言うことはできないでしょう。ましてや、単に利益額を減らして価格を下げることは、その場しのぎに過ぎず、自分で自分の首を絞めるようなものであり、避けなければならない対応です。
とはいえ、それが分かっていても、価格以外の面で競争力を高めることは容易ではないことも現実です。価格勝負をしている中小企業も、やりたくて価格勝負をしているわけではないでしょう。しかし、何ら、対策がないというわけではないということも事実だと思います。例えば、前回、ご紹介したアンバンドリングもそのひとつだと言えます。こういった、戦略の変更は、逆に、大手より中小企業の方が優れていると思います。
2026/6/7 No.3462
