鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

顧客の購入の意思決定で売上が生まれる

[要旨]

公認会計士の金子智朗さんによれば、事業活動はコストを発生させるだけであって、顧客から製品の購入の意思決定をされなければ利益は得られないので、事業活動を目的化せず、顧客に購入の意思決定をしてもらうためにはどのように事業活動を行うべきかを念頭に置いて臨まなければならないということです。


[本文]

公認会計士の金子智朗さんのご著書、「同じモノを売っているのに、儲かっている会社、儲かっていない会社」を拝読しました。金子さんは、同書で、「会社はコストを生み、顧客が売上を生む」ということについて述べておられます。「会社が本社ビルや生産設備、もしくは従業員という仕組みを持っていても、それだけで売上が生まれるわけではありません。

会社の仕組みが生み出すのは製品やサービスです。以下では、製品やサービスをまとめて、簡単に『製品』ということにします。会社は、その仕組みが生み出す製品を販売することによって売上を生み出します。では、製品が売上を生み出すのでしょうか?それはノーです。製品がなければ売上は生まれませんが、だからといって製品があるだけで売上は生まれません。

製品の価値が顧客によって認められ、顧客が買うという意思決定をして初めて売上は生まれるのです。つまり、売上を生み出すのは顧客です。製品はその手段に過ぎません。このことは、『儲かる』ということを真剣に考える上で、とても重要なポイントです。先に説明した通り、収益性の代表的指標であるROAは売上高事業利益率と総資本回転率に分解できます。ROA=事業利益÷総資本=(事業利益÷売上高)×(売上高÷総資本)=売上高事業利益率×総資本回転率。会計上の分解はここまでです。

しかし、ここでお話しした考え方を加味すれば、総資本は製品を生み出すに過ぎず、製品が顧客に認められた結果、顧客が売上を生み出すと考えるべきです。こう考えると、会社が直接的に生み出すのはコストで、売上は生み出しません。売上を直接的に生み出すのは顧客だけです。私が教えているビジネス・スクールのクラスでは、グループ毎に仮想的に会社を経営して利益を競うビジネス・ゲームをやっています。そのゲームでは、各グループが複数の製品に対して販売価格や広告宣伝費を決めて、入札します。

売れ行きは、入札条件の相対的優位性で決まるようになっています。このゲームで高い利益を獲得するのは、決まって他グループの動向に目を向けて、柔軟に価格や広告宣伝費を変えるグループです。一方、『自己資本比率は30%以上が基本だから、これ以上借入はしない』とか、『マージン率は通常これ位のはずだから、それを目安に販売価格を決める』などと考えて行動するグループは、利益を上げられません。

教科書的な固定観念ばかりにとらわれたり、手持ちの内部データを見るぱかりで、市場にいる顧客を全く見ていないグループは、資金ショートを起こして倒産することはなくても、利益を出せないのです。ビジネス・ゲームは、現実世界に比ベれば単純な内容ですが、売上は顧客が生み出すということをあらためて実感させられます」(17ページ)

私は、会計的な観点からは、「売上は顧客が生み出す」という表現は賛同しないのですが、適切な事業判断をするためには、金子さんのように考えるべきだと思います。金子さんは、「製品の価値が顧客によって認められ、顧客が買うという意思決定をして初めて売上は生まれる」とご指摘しておられますし、このご指摘は多くの方がご理解されると思います。しかし、このような視点が忘れられていることも少なくありません。

例えば、自動車業界では、現在でも、見えないところに傷があり、それらが安全性などに影響がない場合でも、不良品としている場合があります。顧客に見えない(影響がない)品質を高めても、その品質を高めるためのコストは、顧客が購買する意思決定には影響しないので、無意味と言えます。ただし、自動車業界でも、この過剰品質については問題という認識をしており、現在、これらを是正しようという取り組みが行われています。

逆に、顧客の購買しようとする意思決定を促そうとする事例もあります。例えば、ヤンマーは、イタリアの高級車メーカーのフェラーリなどで設計をした経験のある工業デザイナーの奥山清行さんにトラクターの開発を依頼し、ボンネット部分をスポーツカーのようなデザインにしたトラクターを製造しています。トラクターは、本来は、馬力などの性能で評価されるべきものですが、デザイン性を高めることで、農業のイメージを向上させたいと考えている人からの支持を狙ったものと思われます。

ここまでの話をまとめると、事業活動はコストを発生させるだけであって、顧客から製品の購入の意思決定をされなければ利益は得られないので、事業活動を目的化せず、顧客に購入の意思決定をしてもらうためにはどのように事業活動を行うべきかを念頭に置いて臨まなければならないということです。

2026/6/5 No.3460