[要旨]
人材紹介業のキープレイヤーズの社長の高野秀敏さんによれば、歴史ある成熟企業には、すでにうまく回っている仕組みが存在しますが、ベンチャー企業は、たとえ大企業であっても型や仕組みが存在しないことが多く、経営者がいなくなれば成長し続けることが難しい状態なので、仕組があって当然と思うほうが間違いであり、型にできないほど次々と新しいことに挑戦しなければならないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、キープレイヤーズの社長の高野秀敏さんのご著書、「ベンチャーの作法-『結果がすべて』の世界で速さと成果を両取りする仕事術」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、高野さんによれば、経営者というファーストペンギンが果敢に飛び込み、そこに魚群を見つけたとしても、あとに続くペンギンがいなければ組織という群れは飢えてしまうので、重要なのは、ファーストペンギンのあとを追って海に飛び込み、多くの普通のペンギンたちの行動を促す、セカンドペンギンだということについて説明しました。
これに続いて、高野さんは、ベンチャー企業には「型」や「仕組み」はないということについて述べておられます。「『仕組みがないからできない』と言う人もいます。『今の仕組みはダメだ』、『こんな仕組みがあれば結果が出せるはずだ』、ないものねだりをするように机上の空論を並ベ立てます。ですが型や仕組みを求めたところで意味がありません。メガベンチャーと呼ばれる規模の会社を見ても、再現性があるとは言いがたく、経営者の異能に依存している会社も多いものです。
たとえばソフトバンク。経営者である孫正義さんはADSLやボーダフォンの買収、ビジョンファンドの設立など、次々と大きなことを仕掛けています。商社とも投資家とも言えるその経営手法は、孫さんだからできることです。もちろん孫さんがいなくても経営は回るのでしょうが、これまでのような奇想天外とも言える快進撃や取り組みは難しいでしょう。ファーストリテイリングも同様です。創業者である柳井正さんの手腕によって、山口県の小さな会社が世界規模のグローバル企業になりました。
もちろん仕組み化も進めてはいるのでしょうが、事業継承して経営をバトンタッチしようとするも、やはりご本人が戻ってきています。柳井さんの属人的な手法やノウハウに依存しているということでしょう。型にできる仕事は、言ってしまえば『誰にでもできる仕事』です。型にできないほど次々と新しいことに挑戦してきたからこそ、これらの企業はメガベンチャーとなり、今日まで生き残っているとも言えます。
歴史ある成熟企業なら、すでにうまく回っている仕組みが存在するでしょう。(とはいえ今の時代、過去の仕組みに頼っていたら大手でさえ危ういですが)ですがベンチャーは、たとえ大企業であっても型や仕組みが存在しないことが多く、経営者がいなくなれば成長し続けることが難しくなります。『型』や『仕組』があって当然と思うほうが、間違いなのです」(97ページ)
私は、前述の引用部分を読んだとき、稲盛和夫さんが、かつて、松下幸之助さんの講演会を聴きにいったとき、松下さんがダム式経営を行うことをお薦めしたという話を思い出しました。この話はあまりにも有名なので、概要だけ述べると、松下さんは、ダムをつくって常に一定の水量を保つような、余裕のある経営をやるべきだというダム式経営の考えを講演の中でお話しされたあと、ある受講者から、「ダム式経営が大切なことは分かったが、規模の小さい会社はなかなかダムに水を貯める余裕をつくることができないので、余裕をつくるようになるにはどうすればよいか教えて欲しい」という質問が投げかけられました。
これに対して、松下さんは、「そんな方法は私も知りませんけれども、まず、余裕がなけりゃいかんと思わないけませんな」と回答したところ、受講者たちは落胆したそうです。しかし、稲盛さんだけは、そのとき、鉄槌で打たれたような感銘を受けたそうです。すなわち、「松下さんは『こうありたいと思わなかったら、絶対そうはならない、まず、思うことが大切で、理想を持ちながらも、それは理想にすぎず、現実にはむずかしいという気持ちが心の中にあっては、ものごとの成就が妨げられる』とおっしゃったのだ」と考えたそうです。
高野さんのお話の主旨と、稲盛さんがダム式経営の話を聴いたときの趣旨は異なりますが、「仕組みがないからできない」と考える人と、「余裕のある経営を行う方法を教えて欲しい」と松下さんに質問した経営者の方は、考え方は同じなのではないかと思いました。高野さんは、「型にできる仕事は、言ってしまえば『誰にでもできる仕事』です」と述べておられますが、このご指摘の通り、誰にでもできる仕事は、経営者や幹部従業員には求められていないでしょう。
リーダーは、誰にでもできるわけではない仕事をする能力があるからこそ、リーダーとしての役割を担うことができるわけですから、「仕組みがないとできない」とか、「余裕のつくり方を教えて欲しい」と考える方は、経営者や幹部従業員の役割を担うことはできないのではないかと、私は考えています。
2026/5/7 No.3431
