鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

世の中は仕掛けで成り立っている

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんは、高校生の時に読んだビジネス誌に、テレフォンカードは、公衆電話を利用したい人のためだけでなく、コレクターのためにも販売されているということを知り、それからは「世の中は仕掛けで成り立っている」と考えるようになり、その仕掛けを見つけることに面白さを感じるようになったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、同社では、管理職7~8人によるコスト削減委員会を設け、聖域のないコスト削減策を検討しているそうですが、これによって、直接的に、コスト削減が行われるようになっただけでなく、日常の事業活動においても、コストを意識した判断が行われるようになったという副次的な効果も得られたということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、テレホンカードからマーケティングについて学んだということについて述べておられます。「私がマーケティングに最初に興味を持ったのは、高校生のときだった。父親が買ってきたビジネス誌をたまたま読んだ。そこに『デレホンカード』の収益性を高めるための『仕掛け』が書いてあったのだ。当時、公衆電話は3分10円で硬貨しか使えなかった。長時間使うには、硬貨をジャラジャラ用意しなければならなかった。

そんな中、NTT(当時は日本電信電話公社=電電公社)が1枚500円程度のプリペイドカードを販売し、公衆電話の挿入口に入れれば通話できるようになった。これにより、ユーザーは劇的に便利になった。しかし、NTTにとっては同じ500円の通話売上でも、硬貨の場合、原価=回線使用コスト、カードの場合、原価=回線使用コスト+カード原価→利益減となる。

そこでNTTは『カードを買っても使われなければ、回線使用コストはかからない、収益性が増す』という逆転の発想でアイデアを練った。それが『テレホンカードをコレクション対象にさせる戦略』だったのである。そのための仕掛けとして、最初は、グレーで無機質のデザイン性の乏しいテレホンカードをリリースした。それでも硬貨に比べると便利なので大ヒット。多くの人たちは『使う』ために買った。

そして、それが浸透した頃、満を持して、芸術家、岡本太郎氏のデザインした4種類のカードを発売した。これも大ヒットした。このとき、人々は『使う』ためではなく、『コレクション』のために買った。その後はアイドルのプロマイドのような、『使うのではなく集めたくなる』カードを発売し続けた。感覚値ではあるが、世の中に出回ったテレホンカードの2~3割は眠ったままではないか。それはすベてNTTの『回線使用コストという原価のかからない売上』となった。

私はこの記事に衝撃を受けた。自分の手元にあるこのアイドルタレントのテレホンカードは、NTTの仕掛けによって自分の手元に使われないままあるのだと知った。高校生ながら、『世の中は仕掛けで成り立っている』と知った瞬間だった。そこからは、見るものすベて『どんな仕掛けでこうなったのか』と思うようになった。仕掛けが見えると世の中が変わつて見える。そして、世の中が俄然面白くなる!

あのときから、世の中はとても楽しいワンダーランドに見えるようになった。ヒットを生み出すには、(1)商品、作品等の対象物に対して造詣が深い、(2)消費者に対する畏敬の念を持っている、(3)世の中の『仕掛け』に精通している、この3つの要素を持ったプロデューサーになる必要がある。今の私がこの3つをどれだけ兼ね備えられているかわからないが、少なくともこの3つの要素をこれからも磨き続けたいと思っている」(323ページ)

テレフォンカードは、かつては硬貨しか使えなかった公衆電話の通話料金の支払い方法が便利になったとはいえ、単なるプリペイドカードであり、本来は、通話料を支払う手段に過ぎないということは、木下さんのご指摘の通りです。しかし、木下さんが高校生の時に読んだビジネス誌には、日本電信電話公社(当時)は、テレフォンカードのコレクションの需要を掘り起こし、コレクターに販売するという商法が書かれていたということであり、木下さんはこれに衝撃を受けたようです。

これは、米国の経済学者のレビットが、著書「マーケティング発想法」で、「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく、穴である」と述べたことで広く知られるようになった、「ベネフィット」の提供ということだと思います。すなわち、顧客は、商品(モノ)を購入するのではなく、商品によって得ることができるベネフィット(コト)を購入しているわけです。

テレフォンカードのコレクターは、公衆電話を利用したいからではなく、テレフォンカードを持つことによる満足感のためにテレフォンカードの代金を支払っているわけです。とはいえ、この「コト消費」については、真新しい考え方ではなく、ほとんどのビジネスパーソンがご理解しておられることだと思います。しかし、事業活動の現場にいると、自社の商品の「ベネフィット」が何なのかを把握することは、意外と難しいようです。

例えば、マスキングテープのメーカーのカモ井加工紙は、装飾用のマスキングテープの需要を発見してから、その需要に応えることに注力し、17年間で20億円、全社売上高の13%を占める規模までに成長させています。ところが、この装飾用の需要を気づかせてくれた、女性グループは、他社に何社も断られた後に、カモ井加工紙に見学を依頼してきたそうです。

同社は、見学の依頼を受けた時に、装飾用の需要を見出したそうなのですが、このような「ベネフィット」は、コロンブスのたまごのようなもので、女性グループの見学を断った他社は、それに気づかなかったということのようです。では、どうすればベネフィットに気づくのかというと、木下さんは3つのポイントを示しておられますが、基本的には、センスを研ぎ澄ましたり、試行錯誤を繰り返すしかないと、私も考えています。すなわち、ビジネスにも王道はないということだと思います。

2026/5/2 No.3426