[要旨]
北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、演歌歌手は、テレビへの出演は少ないものの、ファンと直接会って握手をすることによって関係の濃いファンをつくり、効率的なマーケティングを実践しているということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんのご著書、「売上最小化、利益最大化の法則-利益率29%経営の秘密」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、利益とは、売上の中で自分自身が生み出した付加価値分を数値化したものだということであり、もし、仕入れたものに付加価値が加わらなければ、売上が上がっても利益は出ないということについて説明しました。
これに続いて。木下さんは、「演歌の戦略」について述べておられます。「利益を上げるには目立たないプロモーションで、必要としてくれるお客様に出会う。そして、そのお客様に愛され続ける。これが一番だ。私はこれを『演歌の戦略』と呼んでいる。子どもの頃、ランキング形式の歌番組を見ていて不思議に思ったことがあった。番組では、毎週ランキング10位から1位の曲を生放送で発表した。
上位にランキングされるのは、若手の人気歌手が歌うポップスが中心だった。番組の途中に20位から11位の曲を紹介するコーナーがあった。ここに長い間ランキングされている演歌の曲があった。知らない曲だった(正確に言えば、子どもだったので演歌になじみがなかっただけなのだが)。ランキングが毎週大きく入れ替わる中で、その演歌は長期間20位以内をキープし続けた。そして驚いたことに、年末に発表された年間ランキングでは上位に入った。
これが『テレビでの露出が多いことと売れることは違う』と感じた原点だったと思う。それ以来私は、『演歌歌手はなぜテレビに出ないのに売れるのか』と考え続けた。のちに音楽業界の人に聞いた話だが、演歌歌手は『お客様と直接会って握手をすること』を大事にしているという。テレビで見るだけの人気歌手より、実際に握手した歌手のほうが親近感が生まれるし、応援したくなる。『あの人が新曲を出したから買おう』と思う。『演歌歌手は3,000人と握手したら一生食ベていけると言われている』と教えてもらった。
考えてみると、北海道出身の歌手はこの戦略を取る人が多い。北島三郎さんや細川たかしさんは演歌歌手なので言わずもがなだが、松山千春さん、中島みゆきさん、GLAYなどもあまりテレビに出ない。しかし、ライプをやり続け、お客様の心をつかんで何十年も活躍し続けている。GLAYは、ある時期まではテレビによく出ていた。あれはライプにお客樣を呼ぶための広報戦略だったのだろう。
1999年に幕張メッセ駐車場特設ステージで開催した『GLAY EXPO‘99 SURVIVAL』では、単独アーティストによる有料ライプ(一公演あたり)の世界記録(当時)となる20万人を動員した。これ以上ファンが増えても、ライプで受け入れられなくなったという時点でテレビに出るのをやめたのだと思う。2010年からは自主レーベルを設立して活動し、公式ストア『G-DIRECT』が開設された。ファンクラプも自分たちで運営している。ボーカルのTERUさんは、ファンクラブの掲示板の中でファンの誕生日に合わせ、毎日バースデーコメントを一人ひとり個別に書き込んでいる。
それは大変なことだが、そのコメントをもらったファンは、一生GLAYのCDを買い続けるだろう。逆に考えると、1日30分やり続けるだけで、一生買い続けてくれるファンを毎日量産しているのである。これはとても効率的なマーケティングと言える。顧客に愛され続けるには『特別感』を提供し、ロイヤリティを持ってもらうこと。そのためには、一対一のコミュニケーションを提供することが重要。テレビで関係性の薄いファンをつくるより、関係性の濃いファンをつくるほうが効率的だ」(234ページ)
木下さんは、少ないコストで利益を得る方法として、ファンとの関係を深める「演歌の戦略」をご紹介しておられます。私もその通りだと思うのですが、演歌の戦略は、ランチェスター第一法則(弱者の戦略)の典型例だと思います。すなわち、特定の分野に絞り込んで、その分野の顧客と強い関係を構築すると、強者に対抗できるようになります。ですから、「演歌の戦略」は、利益を増やすと同時に、中小企業が大企業との競合にも勝てるようになる戦略でもあるということです。
ただし、「演歌の戦略」は、実際には思ったよりも難しい面があると、私は感じています。木下さんは、GLAYについて、「ボーカルのTERUさんは、ファンクラブの掲示板の中でファンの誕生日に合わせ、毎日バースデーコメントを一人ひとり個別に書き込んでいる」と述べておられますが、TERUさんのようなこまめな働きかけを実践できる会社の割合は低いと、私は感じています。
TERUさんには失礼ですが、バースデーコメントを書くことそのものは、それほど難しいことではないと思います。ただ、それを、毎日、30分、続けることが難しいのだと思います。そう考えれば、中小企業が大企業に勝てるかどうかは、「演歌の戦略」をやり遂げる意思の強さや実効力にかかっているのだと、私は考えています。
2026/4/25 No.3419
