鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ノウハウの共有は競争力と士気を高める

[要旨]

アスクル前社長の岩田彰一さんは、同社社長時代に、会社内での知識やノウハウの共有も大切と考え、例えば、MD(マーチャンダイザー)の合宿を行い、今のカタログに対して顧客がどう評価をしていて、その結果がどのような数字になっているか、それを踏まえて次のカタログの企画をどうするかを、200~300人の前で発表し、優秀な発表をしたMDを表彰していたので、MDにとってもモチベーションアップにつながっていたようです。また、この発表によって、他のMDが顧客や世の中の動きに対してどのように考えているのかがわかり、自分の仕事に活かすことができるようになり、業績の向上につながったということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんがアスクルの社長時代、同社がラグビー型組織になることを目指していましたが、ラグビーボールがどこに転がっているかがわからなければ適切なプレイができないように、会社や部署が置かれている現状がよくわからなければ、ラグビー型組織が機能しないため、毎週、朝礼を開き、良いとことから悪いことまで、会社の現状に関する情報をすベての社員と共有したということについて説明しました。これに続いて、岩田さんんは、情報だけでなく、ノウハウの共有も大切であるということについて述べておられます。

「情報だけでなく、仕事のノウハウも共有することが必要だと考え、『知の共有』の仕組みも用意しました。半年に1回、3日間、軽井沢なとで行っていた『MD合宿』は、そのひとつです。担当力テゴリーを持っている50~60人のMD(Merchandiser、マーチャンダイザー、商品企画担当の専門職)が、今のカタログに対してお客様がどういう評価をしていて、どのような数字になっているか、それを踏まえて次のカタログの企画をどうするかを、200~300人の前で発表するのです。

隠すことなく手の内を発表することで、他のMDがお客様や世の中の動きに対してどのように考えているのかがわかり、自分の仕事に活かすことができます。優秀な発表をしたMDを表彰していたので、MDにとってもモチベーションアップにつながっていたようです。また、『テクノロジーサミット』と題し、デジタルに明るくない従業員のために、エンジニア職の社員が最新のデジタルスキルをレクチャーするイベントも行っていました。エンジニアにとっても、檜舞台(ひのきぶたい)に出てきて発表できるので、モチベーションがあがります。

エージェントさん(アスクルの代理店)に関しても、アスクルのカタログ発刊のタイミングに合わせてプロックごとに集まっていただき、新力タログのコンセプト、新商品や新サービス、トビック、セールスポイントなどの情報を共有するとともに、現状のサービスに対する評価、今後の方向性などについて、エージェントさんからのご意見を伺う『ネットワーク会議』も、創業当初から行っていました。これらの仕組みは、共有知をつくるだけでなく、企業文化の伝承にもつながったと思います」(223ページ)

会社における組織活動のメリットは、従業員の方が、会社に過去から蓄積されてきた知識やノウハウや、同僚が新たに獲得したそれらを共有し、事業活動に活用できることです。このような知識やノウハウは、現在のような経営環境が不透明な時代においては重要性が増しつつあります。近年、M&Aが活発になっている背景には、買収する会社のノウハウを直ちに取得できる、すなわち、自ら新事業に進出してノウハウを蓄えるよりも、すでに開業している会社を買収することの方が、ノウハウを蓄える時間を短縮できるという利点もあるようです。

さらに、最近は、競争力の源泉は会社の持つ知識やノウハウに移りつつあると考えられるようになり、M&Aにおける「のれん代」(買収価額と、買収される会社の帳簿上の純資産の額の差額)、すなわち、ノウハウとして評価される金額が大きくなりつつあるようです。このような観点からも、会社内で知識やノウハウを共有することは、さらに重要になっているということがご理解できると思います。

では、知識やノウハウの共有をどのように行うのかということですが、アスクルではMD合宿、テクノロジーサミット、ネットワーク会議などを行っているわけです。私は、知識やノウハウの共有は、アスクルのような方法に限らないと思いますので、会社の状況によって工夫するとよいと思います。

ちなみに、神奈川県綾瀬市にある、金属加工会社の吉原精工は、同社を創業した吉原博さんのご著書、「町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由」によれば、かつて、経営改革を進める中で、「名人」や「達人」をつくらないようにしたそうです。というのは、仕事が名人に属人化していると、その名人が他社に引き抜かれたときに事業が継続できなくなったり、また、そのような状況がわかっているために、名人が経営者に反抗的になったりするからです。そこで、同社創業者の吉原博さんは、仕事が属人化しないよう、社員間で情報やノウハウの共有を進めていったそうです。

こういった、人材育成によるノウハウの共有化は、同社の競争力を高めることにつながっているようです。また、これはアスクルにも吉原精工にも共通していますが、ノウハウを共有することは、その過程を通して従業員の方の満足度を高めるという副次的効果もあります。したがって、業績を高めると同時に、従業員の満足度も高めたいと考えている経営者の方は、社内の知識やノウハウを共有するという活動に着手することをお薦めします。

2026/4/15 No.3409