[要旨]
アスクル前社長の岩田彰一さんは、同社社長時代に、ラグビー型組織を目指していましたが、ラグビーボールがどこに転がっているかがわからなければ適切なプレイができないように、会社や部署が置かれている現状がよくわからなければ、ラグビー型組織が機能しないため、毎週、朝礼を開き、良いとことから悪いことまで、会社の現状に関する情報をすベての社員と共有したそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんがアスクルの社長時代に、同社を、会社がどういう状況かを把握しながら、今何をすベきか、何が必要かをひとりの社員が考えて、自由に動くラグビー型組織にしようとしたそうですが、それは口で伝えるだけでは不十分と考え、岩田さんの意思を社内に浸透させるために、権威を示すものである「権威装置」、すなわち、社長の専用室をつくったり、上司の席を上座においたりすることを一切排除したということについて書きました。
これに続いて、岩田さんは、ラグビー型組織が機能するよう、情報の共有を進めたということについて述べておられます。「ラグビーボールがどこに転がっているかがわからなければ適切なプレイができないように、本気でラグビー型組織を目指していることがわかっても、会社や部署が置かれている現状がよくわからなければ、自分で判断して行動することはできません。また、当事者意識も湧いてこないでしょう。
そこで、良いとことから悪いことまで、会社の現状に関する情報をすベての社員と共有しました。まずは、毎週月曜の朝礼で、私から直接、社員にさまざまな情報を伝えるようにしました。『今、どの部署でどんなことを進めているのか』といった現状報告や、お客様からほめられたことやお叱りを受けたこと、『お客様のために進化する』という理念を体現するエビソードなどの共有です。
朝礼は多くの会社で行っていると思いますが、おそらく他社と異なるのは、自由参加にしたことです。私が面白くないことをいえば、朝礼に参加する人は少なくなります。社員に『参加してよかった』と思ってもらえるよう、毎週、土日から朝礼開始の直前まで粘って、何を話すかを考えていました。朝礼とその前に悩む習慣は、20年以上続けました。
また、オフィスをフラットにしたことには、会社に関する情報を『見える化』する意味合いもありました。オフィスの中央に、立ったままミーティングをするオープンスペースを設け、物流センターのトラプルなどがあると、ここに関係者を集めて緊急会議をしていました。オープンスペースなので、会議に参加していなくても、横を通れば何かが起きていることやその緊張感がわかります。
そうしたマイナスの情報を共有することも、大切だと考えていました。オフィスが手狭になり、上下2フロアに拡張した時に、フロアの中央に大きな穴をあけ、らせん階段をつくったことも、情報をオープンにして共有するためです。改修費がかなりかかったのですが、それだけ、情報の風通しをよくすることは重要だと考えていました」(221ページ)
組織の3要素は、共通目的、貢献意欲、コミュニケーションと言われていることからも分かる通り、組織活動において、コミュニケーションはたいへん重要です。また、岩田さんが、「会社や部署が置かれている現状がよくわからなければ、自分で判断して行動することはできないし、当事者意識も湧いてこない」とご指摘しておられますが、従業員の方たちが自律的に活動する組織を目指すのであれば、コミュニケーションはより重要であるということです。
しかし、コミュニケーションは重要と理解しつつも、それを活発にすることができない会社は少なくないようです。その要因の1つ目は、経営者の方は、自分が考えていることは、部下の方も理解していると思ってしまう方が少なくないということです。もちろん、口にしていないことは、他人には伝わらないということは、誰でもわかることです。
ところが、自分が考えていることは部下の方にも伝わっていると考えてしまう人は、どういうわけか、自分が考えていることは部下に伝えていると考えてしまうことがあるようです。これは、私にも経験があるのですが、そういう人が経営者の場合、部下に対して、「この前指示した件は、その後、どうなった?」というようなことをきくことがありますが、部下としては、「何もきいていない」ということがあります。
また、そういう経営者の方の言動は、部下の方から見ると、朝令暮改のように映ります。例えば、朝に部下の方に伝えたことが、昼になって考えがかわり、まったく別の考えになったものの、その考えが変わったことを部下の方に伝えずに、夕方になると、朝に伝えたことと別のことを部下の方に話すので、部下の方からすれば、「朝に言われたことはどうなったの?」と思ってしまいます。
これは、朝礼暮改が問題なのではなく、考えを変えたこを伝えれば、朝令暮改の行動をしても、それほど疑問に持たれることはないでしょう。これに対し、経営者の方は、「経営環境の変化が激しいし、判断するための情報がたくさんあるので、経営者の考えが頻繁に変わることは当然だろう」と考える方もいると思います。でも、問題なのは、考えが変わることではなく、考えを変えたことを部下の方に伝えなければ、部下の方は混乱するということです。
したがって、経営者の方は、意識して、自分の考えを部下の方に伝え、「また、同じことを言っている」と部下の方に思われるくらいがよいのではないかと思います。(とはいえ、過去の「武勇伝」を何度も部下に話す経営者の方がいますが、そういう「武勇伝」を部下の方が聞いてもあまり役に立たないと思うので、控えた方がよいと思います)
ちなみに、かつて、業績が低迷していたテーマパークのサンリオピューロランドの業績を回復させたことで知られる、同園を運営するサンリオエンターテイメント社長の小巻亜矢さんのご著書、「サンリオピューロランドの魔法の朝礼」によれば、小巻さんは、1回約10分の朝礼を、1日に12回行うようにしたそうです。
まず、朝礼を12回も行う理由について疑問に感じる方が多いと思いますが、これは、パートタイムの従業員の方はそれぞれ出勤時刻が異なるため、全員が朝礼に参加できるよう、12回行うことにしたということです。ですから、早く出勤する方は早い時刻に開かれる朝礼にだけ参加することになり、遅く出勤する方は遅い時刻に開かれる朝礼にだけ参加することになります。こうすることで、出勤する時刻が異なっても、全員が同じ情報を得ることができます。
そして、朝礼で情報を共有することは、当日のイベントなどをきちんと把握できるため、ゲストから質問されてもきちんと回答できるようになり、そのことがゲストからの評価を高め、業績の向上につながったようです。一方で、朝礼などを行うと、その間は事業活動は停止するので、時間の無駄になると考える方も少なくないようです。これについては、朝礼そのものが無駄になるのではなく、伝える内容によって効果があるかどうかを判断すべきだと思います。
むしろ、部下の方たちに伝えるべき内容が伝わっていなければ、業績を下げてしまうことになりかねません。だからこそ、岩田さんは、朝礼を自由参加にしたのだと思います。参加して無駄と部下の方が感じる朝礼は、無意味なものと判断できますから、岩田さんは、時間と労力をかけて朝礼で伝える内容を検討し、部下の方に参加してよかったと感じてもらえるような朝礼にしていったことで、効果のあるコミュニケーションを実践できたのでしょう。
2026/4/14 No.3408
