[要旨]
アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、2017年に、埼玉県にある大型物流センターで、鎮火までに12日余りかかった大規模な火災が発生しましたが、同社は、火災後の対応について一定の評価を得られたそうです。その理由の1つ目は、火災後の初動を間違えずに、自社は加害者であると認識し、できる限りのことすベて迅速に行ったこと、2つ目は、トラプルが起きる前から、トラブルに対応できる社内のチームをつくっていたからだということです。
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今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんによれば、事業を一度成功させると、経営者は大なり小なり、慢心したり、万能感を持ったりしますが、それは決断力を必要とする経営者にとってそうでもなければ務められないことがあるものの、行きすぎると周囲の意見を聞かなくなり、部下たも何も進言しなくなることから、気がついた時には経営者が裸の王様になってしまい、業績に悪影響を与えるということについて説明しました。
これに続いて、岩田さんは、危機管理体制を整えておくことが大切だということについて述べておられます。「アスクルでの大きなトラブルといえば、2017年に、埼玉県にある大型物流センターで、鎮火までに12日余りかかった大規模な火災が発生しました。(中略)この大規模火災はアスクルに大ダメージを与えましたし、私も従業員たちも大きなショックを受けましたが、火災後の対応については一定の評価をいただいたと感じました。なぜかを振り返ると、2つの要因があったのではないかと思います。
ひとつは、火災後の初動を間違えずに、原因はともあれ、我々は加害者であると認識し、できる限りのことすベて迅速に行ったことです。この精神が今でもアスクルのDNAとして深く根付いています。私自身は、火災の一報を聞いた時、ショックはありましたが、頭をすぐに切り替えました。原因を究明することも大切ですが、まずは自分たちが一時的に責任を負い、近隣住民の方やお客様に精一杯の対応をしようと肝が据わりました。そして、従業員にそのことを伝えたのです。
それにより、社員がすベきことが明確になったのではないかと思います。近隣の住民の方々やお客様の心配を少しでも解消するため、火災が発生した当日のうちに役員が現場に入り、詰めかけた報道陣に対して現地で記者会見を行いました。また、近隣にお住まいの方々や町役場、消防、小学校などにおびの訪間をし、火災発生翌日には近隣にお住まいの方専用の電話窓口も開設して、真撃に対応しました。(中略)
もうひとつ、この火災の経験からいえることは、トラプルが起きる前から、トラブルに対応できる社内のチーム=危機管理体制をつくっておくことの重要性です。以前からアスクルには、法務や広報など、『守り』を固めてくれている7人の精鋭がいて、『神7』(かみセブン)と呼んでいました。各種トラブルに対応するために、顧問弁護士だけでなく、反社会的勢力や刑事事件など、さまざまな専門分野の弁護士や危機管理の外部専門家とのネットワークをつくっていて、そうした専門家たちの教えを受けてきたチームです。
物流センターの火災の時は、『神7』が、情報発信や近隣住民の方々への対応、警察・消防とのやり取りなどを、自主的に、私が指示をしなくても遂行してくれました。トラプルがふりかかってから『守りを固めておけばよかった』と思っても、後の祭り。今日からでも動き出すことをおすすめします」(166ページ)
アスクルで起きた火災については、近隣の住民や自治体に迷惑をかけたこと、自社にも大きな損失が発生したことなどは事実でしょう。(ただし、岩田さんによれば、警察や消防の調査では、この火災の直接的な原因はアスクルにはないという結果になったそうです)しかし、最近は、消費者の購買行動は、製品そのものだけでなく、その会社の姿勢にも左右される時代になっています。
例えば、ペヤングソースやきそばを製造しているまるか食品では、製品の中に虫が混入していた疑いがあったことから、2014年12月から2015年5月までの約半年間、製品の製造と販売を休止しました。その間、製造工場での虫の混入を防ぐ対策をとり、製造・販売を再開したところ、24時間体制で製造していたにもかかわらず、生産量の2~3倍の注文が殺到したそうです。
同社としては、半年間も売上がなくなることは、大きな打撃となったにもかかわらず、時間をかけて徹底的に対処したことが評価されたこともあり、販売再開後に多くの注文が来たのでしょう。では、こういった危機管理はどのように行えばよいのかというと、アスクルでは神7という専門チームを置いていましたが、中小企業では、事業継続計画(BCP、Business Continuity Planning)の策定をお薦めします。
BCPは、1999年に英国規格協会が情報セキュリティマネジメントシステムを定め、その後、事業全体へ対象を広げたものがその始まりです。具体的には、自然災害や大規模な事故に会社が遭遇したときに、早期に事業を再開するための方法や手段をあらかじめ定めておくものです。BCPは、2000年以降、日本でも知られるようなってきましたが、特に、東日本大震災の後、事業活動の迅速な復旧のために、BCPの必要性のに認識が高まりました。
もちろん、BCPは災害や事故を防ぐ対策ではありませんが、BCPがあれば、災害や事故が発生したときの損失を抑えることができます。ただ、中小企業では、BCPを策定していない会社も少なくないようですが、それは、労力がかかるという課題があるからのようです。とはいえ、もし、災害や事故にあったとき、BCPを策定していたことによって防ぐことができる損失の方が、BCPを策定するための労力は大きいと考えられるのではないでしょうか?
それに、岩田さんも「火災後の対応については一定の評価をいただいた」と述べておられますが、迅速で冷静な対応ができれば、会社の信頼性を維持したり高めたりすることができます。さらに、BCPを策定する過程で、従業員の方たちにも、リスクに関する意識を高めることができます。
繰り返しになりますが、BCPを策定するだけでは万全ではありませんが、まだ、BCPを策定していない会社が、BCPを策定することによって、会社のリスク耐性が高まることは間違いないと思います。そして、いったん、BCPを策定し、それでも不十分と感じることがあれば、さらに高度なリスク管理体制を整備していっていただきたいと思います。
2026/4/11 No.3405
