鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

成功要因はニーズを迅速に把握すること

[要旨]

アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、起業した直後の会社は赤字になりやすいことから、支出を最低限に抑える必要があり、そのためにも迅速に業績を把握できるようにすることで顧客のニーズを確かめ、それを見極めた上で黒字に確保できる範囲で資金投入することが大切だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんによれば、アスクルでは、同社を経営していた時、顧客への価値提供につながるかどうかという観点からKPIを設定していたそうですが、それは、例えば「在庫減少」のような目標を設定すると、品揃えを減少させ、提供価値が下がることになるからであり、このような観点からKPIを設定することが大切だということを説明しました。

これに続いて、岩田さんは、ベンチャー企業は創業期に赤字になることはよく見られるけれども、それにどう対処すればよいのかということについて述べておられます。「創業初期の赤字に関して、どのように判断したらいいのか?アスクルの事例は、ひとつの参考になるでしょう。先述したように、アスクルの売上は、1993年の事業開始から、毎年、倍々で推移していきました。

赤字をいとわず、宣伝や営業活動に多額の費用を投じて、一気に事業を伸ばしたのだろう、と想像する方るいるかもしれませんが、そうではありません。出費をできるだけ抑えて、初年度から黒字になるように努めました。カタログの制作のような、売上をつくるための根幹となるところには出費を惜しみませんでしたが、派手な宣伝はほとんどしていません。

1998年に売上が100億円を超えましたが、従業員は7人と、売上の割に少ない人数しかいませんでした。初年度から黒字を目指した理由のひとつは、親会社から厳しい目で見られていたことです。親会社の経営陣は、アスクルのような直販事業をするのが初めてだったので、その成功に疑問を抱いていました。創業時のメンバーが私を含めて4人だけだったのも、投下する経営資源を最小限に抑えたいと考えていたからのようです。

ですから、何年も赤字を掘るようなことはとてもできず、初年度から結果を出すことが必要だったのです。もっとも、仮に親会社から資金をたくさん与えられていたとしても、私はできるだけ出費を抑えていたと思います。それは、お客様の二ーズがあるという確信が持てなければ、貴重な資金を投下してもムダになると考えていたからです。

どんなに資金を投じたところで、お客様の二ーズがなければ、商売は成り立ちません。第一に大切なのは、お客様のニーズがあることを確かめることです。『ここに資金を投入すれば、さらに売上を伸ばせる』というところを見極めて、そこに、黒字を確保できる範囲で資金を投じれば、着実に事業を成長させることができます。だから、お客様の二ーズがあると確信できるまでは、その確認のためだけに資金を使いました」(120ページ)

アスクルの創業時の岩田さんの経営判断は正しかったことに間違いありません。ただ、これを創業前に判断することは難しいということも現実です。これについては誤解されやすいので、もう一度言及すると、経営判断の正しさは、結果的にわかるものなので、前もって断言することが難しい面があるということです。これらについては少数だと思いますが、実は、それほど深く考えずに軽く判断した結果がたまたまよい結果になることもあるし、逆に、慎重に判断したにもかかわらず、その判断が間違っており、悪い結果につながることもあります。

また、このようなことは私もあまり指摘したくはないのですが、事業に成功した経営者に対して、成功の要因について質問したとき、その人が努力して実践してきたことを成功要因として回答するものの、それはその経営者自身でさえ必ず成功すると確信して実践してきたわけではないと言われています。

ここで私が述べたいことは、事業を成功させる要因は、多くのものは定まっているものの、それを事前に断定することが難しいということです。しかし、これも繰り返しになりますが、このことを理由に、事前の検討をいい加減に行ってもよいということにはならないと、私は考えています。できるだけ、事前の判断は慎重に行うことの方が、事業を成功させることにつながると、私は考えています。

そして、創業した会社をうまく軌道に乗せるとき(だけでなく、あらゆるステージの会社に共通することですが)に、もうひとつ注意しなければならないことは、業績を迅速かつ正確に把握する仕組みをつくっておくことです。岩田さんの場合、顧客のニーズがあることを確かめることができるまで、投下する資金を最小限にしていたと述べておられます。これは、広告宣伝費などの効果があることを迅速に把握できていたからでしょう。

私は、岩田さんが、顧客のニーズを迅速に把握して、それに応じていたことが成功要因というよりも、迅速に顧客のニーズを把握していたことの方が成功要因といえるのではないかと思っています。とはいえ、これまで私が中長期業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、起業した会社の多くは、目の前のことをこなすことに精一杯で、業績の把握までなかなか実践できないことが多いようです。

これは、逆に言えば、きちんと業績を把握できている会社は、それだけで競争力を高めることができると言えるのではないかとも言えるのではないかと思います。ここまでの話をまとめると、事業の成功要因は事前に判断することは難しいものの、だからといって深く検討せずに創業することは避け、できるだけ緻密に検討することが望ましいということ、そして、正しい経営判断を迅速に行うことができるようにすることも成功要因と言えるので、業績を把握できる体制を整えたうえで起業することが大切ということです。

2026/4/7 No.3401