[要旨]
アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、同社を経営していた時、顧客への価値提供につながるかどうかという観点から、KPIを設定していたそうですが、それは、例えば「在庫減少」のような目標を設定すると、品揃えを減少させ、提供価値が下がることになるからだということであり、このような観点からKPIを設定することが大切だということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんによれば、アスクルでは、コーヒーフレッシュ、スティックシュガー、ガムシロップの容器や包装を同じデザインに揃えた商品は、飲食店のオーナーさんや店長さんから、「デザインが揃っていないのが、おしゃれでなくてイヤだ」という声を聞いたのが、開発のきっかけだったそうですが、このように、顧客の意見を商品開発に積極的に取り入れたことが、同社の業績を高めていったということについて説明しました。
これに続いて、岩田さんは、顧客への価値提供につながるかどうかという観点からKPIを設定することが大切ということについて述べておられます。「アスクルを経営していた時、私は、お客様への価値提供につながるかどうかという観点から、KPIを設定していました。さまざまな観点から、『お客様から見てアスクルの魅力は何か?』を考え、それを実現するための指標を部門ごとに細分化して、KPIに設定していたのです。
アスクルの魅力といえば、次の3つが挙げられると思います。(1)品揃ええが豊富なこと。(2)安く買えること。(3)注文翌日に届くこと。これらを実現するために重要な指標を、『商品』、『ロジスティックス』、『配送』、『お客様』の4つのカテゴリーで設定していました。
具体的にいうと、商品では、品切れ数、SKU(受発注・在庫管理の最小単位)数、競合との価格差。ロジスティックスにおいては、誤出荷数、倉庫内破損数。配送においては、当日配送履行率、小口(梱包)出荷数、配送破損数。お客様の観点から見ると、ウェプサイトの表示スビード、商品検索ヒット率です。反対に、アスクルの価値や魅力が失われていくような指標は何かを考え、KPIに設定しないようにしていました。
たとえば、魅力のひとつである『品揃えが豊富なこと』は、言い換えると、『さまざまな分野の商品があること』、『売れ筋ではない商品も扱っていること』ということになります。この魅力を失わせる指標は、利益率や在庫回転率です。もし、これらをKPIに設定すれば、どうなるか。『利益率や在庫回転率をあげるために、商品数を増やさないようにしよう』という判断をすることになるでしょう。
また、在庫や廃棄になる商品が増えるリスクを避けるため、『売れ筋だけを扱うほうがいい』、『売れるかどうかわからない商品は仕入れないほうがいい』という判断をしかねません。こうして『お客様ヘの価値提供につながる指標』と『価値が失われる指標』の両面から考えることで、KPIが明確になりました。その結果、経営陣も従業員も、お客様の価値に直結した行動を取れるようになったのです」(110ページ)
現在は、頻繁に耳にするKPIですが、これは、バランススコアカード(BSC)を導入した会社が、4つの視点で策定され、それぞれが有機的に関連した経営戦略の遂行状況を確認する指標であり、それは、その会社の最終目標であるKGIから体系的に細分化した目標のことです。しかし、現在は、BSCを導入していない会社でも、自社が重視する目標をKPIと呼び、それを達成するように活動しているようです。
岩田さんは、「お客様への価値が失われる指標をKPIに設定してはならない」と述べておられますが、もし、アスクルでBSCを導入していれば、当然、KGIを細分化したときにそのようなKPIは含まれません。これは、BSCを導入するメリットであり、BSCによって自社の活動を効率化させることができます。ただ、BSCを導入していない会社であっても、岩田さんがご指摘しておられるように、それぞれの目標が「提供価値」に貢献するものであるかどうかの視点で選定すれば、不適切な目標を設定を防ぐことができます。
中小企業経営者の方の中には、労力や時間がかかるからという理由で、目標設定と、それに基づく事業管理に否定的な方もいます。しかし、繰り返しになりますが、目標を明確にせず、単に、「売上を増やせ」という大まかな指示だけでは、非効率な活動や、提供価値を失う活動が行われることになりますので、私は、体系的な目標設定は、経営者が実践すべき重要な活動だと思います。
2026/4/6 No.3400
