[要旨]
アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、コーヒーフレッシュ、スティックシュガー、ガムシロップの容器や包装を同じデザインに揃えた商品は、飲食店のオーナーさんや店長さんから、「デザインが揃っていないのが、おしゃれでなくてイヤだ」という声を聞いたのが、開発のきっかけだったそうですが、このように、顧客の意見を商品開発に積極的に取り入れたことが、同社の業績を高めていったということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんによれば、アスクルの事業が拡大できた理由は、事務用品だけでなく、飲食店や介護施設でも必要とする商品を拡大していったからだそうですが、これは、顧客を訪問したり、販売データを分析した結果であり、このように自社の事業領域を事務用品の販売ではなく、事業活動に必要な商品を低価格で迅速に提供すると定義していることによって潜在的な需要をとらえることができるということについて説明しました。
これに続いて、岩田さんは、顧客からのヒアリングによってヒット商品を開発したということについて述べておられます。「お客様の現場に行ってビアリングをすると、世の中にない商品のニーズにも気づくことができました。先述した、コーヒーフレッシュ、スティックシュガー、ガムシロップの容器や包装を同じデザインに揃えた商品は、飲食店のオーナーさんや店長さんから、『デザインが揃っていないのが、おしゃれでなくてイヤだ』という声を聞いたのが、開発のきっかけです。デザインが揃っていないのは、それぞれ違うメーカーさんがつくっているためでした。
そこで、アスクルが音頭を取って、それぞれのメーカーさんとコラポし、デザインを揃えた商品を開発したのです。また、同じく飲食店のお客様からは、『トイレに置く消臭剤に、デザインが良いものがない』という声も伺いました。消臭剤はドラッグストアやスーパーの店頭で目立つデザインのものが多いですが、おしゃれな飲食店のトイレに派手なデザインの消臭剤が置水れていると、零囲気が台なしになります。こちらについても、消臭剤のメーカーさんと共同開発したところ、人気商品となりました。
『アタック消臭ストロング』も、介護施設の要望をもとに生み出した商品です。介護施設のお客様が洗濯洗剤を大量に購入していたので、お話を伺うと、『いくらシーツを洗濯しても尿のにおいが取れずに困っている。だから洗濯機を1日中回している』という悩みがあることがわかりました。そこで花王さんに相談し、花王さんの技術を活用して、商品化しました。お客様の現場に足を運んで、リアルな悩みをたくさんお聞きしたことが、アスクル躍進の原動力となりました」(95ページ)
アスクルは当初は文具の販売を行う会社であったにもかかわらず、現在も引用事例のように飲食店や医療関連の事業向けの商品で業績を伸ばしています。これは、商品そのものの品質や価格というよりも、アスクルには、他社の要望を受けて開発された機能的な商品がそろっているという利便性による面が強いと思います。すなわち、アスクルから商品を購入する顧客は、アスクルからノウハウを購入しているという側面が強いのだと思います。このような事例は、他社でも実践されています。
東京都台東区の浅草かっぱ橋商店街にある、料理道具専門店の飯田屋の社長、飯田結太さんは、ご著書、「浅草かっぱ橋商店街リアル店舗の奇蹟」の32ページで、大根おろしに関する体験談について述べておられます。その内容を要約すると、ある時、割烹店の大将らしき人が来店し、柔らかい食感の出る大根おろしをおろせるおろし金を探していると言われたそうです。ところが、飯田さんは、自社の商品を自分では使ったことがなく、その質問に答えることができなかったことから、大根を買ってきて、実際におろし金を使ってみてもらったそうです。
ところが、3種類あったおろし金のいずれも、満足できる柔らかさでおろすことができなかったため、大将から、また来店するまでに、別のおろし金を探しておいて欲しいと言われたそうです。そこで、飯田さんは、商社やメーカーに問い合わせをしたところ、どちらからも、自社ではおろし金を使ったことはないので、柔らかくおろすことができるものはわからないと回答されたそうです。仕方がないので、飯田さんは、目ぼしいおろし金を12種類取り寄せて、自分で試してみることにしたそうです。
その結果、柔らかくおろせるおろし金を見つけることができたのですが、それは、価格が5,000円もするものでした。他のおろし金は、高くても1,980円だったので、大将に納得してもらえるか不安だったそうですが、大将は、一切値切ろうとせず、5,000円を支払ってくれたそうです。この飯田さんの事例やアスクルの事例から分かることは、事業所向けサービスは、必要な商品を開発したり、調達したりすることができれば、顧客から支持されるという点です。
そして、このことはそれほど難しいことではなく、誰でも直ちに実践できそうなことなのですが、飯田さんも、かつては、顧客が求めているものは価格の安さだと考えていたように、思い違いをしている経営者の方が多いのではないかと思います。したがって、事業所向けの商品を販売している会社で、業績を伸ばしたいと考えている経営者の方は、価格よりも、顧客のニーズに焦点をあてて商品を開発したり品揃えを行えば、顧客からの支持が増加し、業績を高めることができるのではないかと私は考えています。
2026/4/5 No.3399
