鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ベネフィットの視点から事業を拡大する

[要旨]

アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、同社の事業が拡大できた理由は、事務用品だけでなく、飲食店や介護施設でも必要とする商品を拡大していったからだそうですが、これは、顧客を訪問したり、販売データを分析した結果ですが、このように、自社の事業領域を事務用品の販売ではなく、事業活動に必要な商品を低価格で迅速に提供すると定義していることによって潜在的な需要をとらえることができるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんによれば、同社の事業を起ち上げた後、顧客からライバル会社の製品を売って欲しいという要望が出たため、社内の反対派を説得し、それに応じたところ、結果として自社製品の売上が増加したそうですが、このように、顧客の要望を傾聴して対応することが重要だということについて説明しました。

これに続いて、岩田さんは、事業領域の拡大について述べておられます。「すでにお話しした通り、創業当初、アスクルの事業コンセプトは、中小企業に、プラスの事務用品を、安価で、スピーディに提供することでした。ですから、取扱商品の9割はプラスの事務用品でしたが、お客様の要望を受けて、ライバルメーカーの事務用品も取り扱うようになりました。

さらに今では、取扱商品のジャンルは、とめどもなく広がっています。パソコンやその周辺機器、オフィス家具や収納家具、生活雜貨、キッチン用品、物流用品、電動工具、実験用品、計測機器、作業服など、仕事場でニーズがあるあらゆるものを扱っています。さらには、医療現場で扱うカテーテルやメス、介護施設で使う紙おむつや介護食、車イスなども取り扱っています。こうした事務用品以外の分野の商品は、決して脇役ではありません。

アスクルが右肩あがりで急成長できたのは、事務用品以外の分野の売上も大きく伸ぴたホらでず。たとえばオフィスで飲むコーヒーの豆の売上は想像以上で、年間3トンも購入しているお客様の存在を知った時は腰を抜かしかけました。ペーパータオルやペーパーナプキン、テイクアウト用の容器など、飲食店向けの業務用商品もよく売れ、主力分野のひとつに成長しましたし、洗剤や紙おむつなどの介護施設向け商品も非常によく売れています。

さらに、商品が売れる分野においては、アスクルのオリジナル商品の開発もしました。飲食店で提供するコーヒーフレッシュ、スティックシュガー、ガムシロップの容器や包装を同じデザインに揄えた商品や、花王さんと共同開発した介護施設用の洗濯洗剤『アタック消臭ストロング』など、ヒット商品も数多くあります。私たちが事務用品以外の売れる分野を見つけ出せた理由はシンプルで、お客様の現場で直接ご要望や課題を伺い、購入データからもお客様の隠れたニーズを見つけ出したからです。

事務用品を販売するなかで、私たちは、どのようなお客様が購入されているのか、顧客データを見ていました。そこで気がついたのは、病院や飲食店、建設現場などのお客様にもアスクルをご利用いただいていたことです。考えてみれば、そうした職場でも事務用品は必要になりますから、ニーズがあるのは自然なことです。アスクルでは、お客様により便利に使っていただけるよう、創業から間もない頃から、お客様のもとにお伺いし、どのような商品を必要としているのかをヒアリングしていました。

そこで、同じように、病院や飲食店、建設現場などにもお話を伺いに行きました。訪問するだけでなく、MD(マーチャンダイザー)などが高齢者向け医療施設で1日だけ介護実習をさせていただくこともありました。その結果、いろいろなことがわかりました。たとえば、医療現場では、カテーテルを欲しい時に、すぐに手に入れられていないという状况があることを知りました。そうした声に応える形で、医療用品を取り扱うようになつたのです。こうして確実な二ーズを捉え、品揃えを拡充させていきました」(92ページ)

アスクルの事業は、当初は、プラスの事務用品をインターネットで販売することでした。そして、オフィス用品以外にも、飲食店、病院、建設会社向けの商品も販売していった、すなわち、アイテムの幅を広げていきました。このアイテムの拡大は、事業拡大の定石のひとつです。

しかし、アスクルを利用する会社は、顧客にどのようなベネフィットを提供しているのかという視点からみると、事業現場で必要な商品を、低価格で、かつ、迅速に届けるということです。このベネフィットについては、オフィスだけでなく、飲食店、病院、建設会社からみても共通しています。すなわち、「事業現場で必要な商品を、低価格で、かつ、迅速に届ける」というベネフィットを提供する顧客を広げていったということになります。

アスクルは、もともとは、文具メーカーのプラスの商品の通信販売を行う事業部門でした。もし、文具の通信販売を行う事業しか行わないと考えていれば、飲食店、病院、建設会社まで顧客は広がらなかったかもしれません。したがって、事業を拡大しようとするときは、アスクルの事例のように、商品の視点だけではなく、ベネフィットの視点から潜在的なニーズを探ることが、事業拡大の新たな鍵を見つけることができるようになるかもしれません。

2026/4/4 No.3398