[要旨]
アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、同社の事業を起ち上げた後、顧客からライバル会社の製品を売って欲しいという要望が出たため、社内の反対派を説得し、それに応じたところ、結果として自社製品の売上が増加したそうです。このような経験から、顧客の要望を傾聴することが重要だということを実感したそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんは、同社の事業は社会最適を追求することを目的に立ち上げたことから、同社と同様に、社会課題を解決するビジネスをしたいけれども、それで利益を出せるビジネスモデルがつくれないという方は、まずは社会最適になっていないビジネスや社会システムを、身近なところで探し出し、それを社会最適に変えることができれば、社会課題の解決と利益をあげることの両立に近づけることができるようになるということについて説明しました。
これに続いて、岩田さんは、アスクルの事業を立ち上げた後、顧客からライバル会社の製品を販売して欲しいという要望を受けたことから、社内で反対する方たちを説得し、ライバル会社の製品も販売することにしたということについて述べておられます。「ライバルメーカーの商品を売るといっても、反対派を気にして中途半端に扱うようでは、お客様に喜んでいただけません。
必要と思われる商品を徹底的に品揃えしました。『これまでの小売店との関係が悪化する』、『安売りされるのはイヤだ』と、アスクルに商品を卸すのを嫌がるメーカーさんもありましたが、その場合は、ホームセンターなどで売っている商品を購入して販売しました。当然、それでは利益は出ませんが、お客様に喜んでいただくには徹底してやらなければならないと考えました。
もしこれが失敗して、他社製品ばかりが売れれば、私は会社にいられなくなるでしょう。そうした重圧を感じながらも、他社商品を本気で品揃えしたことがアスクルの成長の大きな要因となりました。アスクルの売上高は、1994年の2億円から、1995年は6億円、1996年は19億円、1997年は56億円、1998年は106億円、1999年は226億円、2000年に471億円と、倍々で伸びていきました。
それに応じて、プラス製品の売上も伸びていきました。今振り返ると、自社の商品を売るためのプラットフォームを活性化するために他社の商品を売るのは、当然のことかもしれません。たとえば、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに行って、PB(プライベートプランド)商品しか置いていなければ、あまり魅力的とは感じないでしょう。さまざまなメーカーさんの商品を扱っているからこそ、お客様が集まります。
Netflixも、いくら自社で制作した作品が面白くても、だからといって他社が制作した作品を観られなくしていれば、世界で3億人を超える加入者を集められたでしょうか。さまざまな他社の作品も観られるからこそ、加入者を増やせたのではないかと思います。短期的には敵に塩を送る行為だとしても、長期的に見れば、そのほうが自社の売上や利益が増えるのです。ちなみに、アスクルの躍進を見て、他の文具メーカーも同様の通販事業に乗り出しましたが、自社商品を優先して販売していました。
アスクルほどの成長ができなかった要因のひとつは、そこにあったと考えています。自社に都合の悪い『お客様の声』にこそ耳を傾ける、この経験を通じて私は、競合他社に勝つことを考えるよりも、お客様の声を聞くことのほうが大切だということを実感しました。さらに、もう少し深掘りすると、他のポイントも見えてきます。それは、自分たちにとって不都合な声にこそ、お客様のニーズがあるということです。
お客様の立場に立てば当たり前の発想でも、事業を展開する立場から見れば都合が悪いことは、無意識に選択肢から外してしまいがちです。自社にとってデメリットが大きいと思われる声ほど、頭から除外されていきます。だから、お客様にいわれないと気づかないのです。自分たちに都合の悪い声に着目すると、お客様から強い支持を得られ、その結果、事業が成功する確率が高まるのではないでしょうか」(67ページ)
プラスがアスクル事業を起ち上げたのは、自社製品をインターネットで販売することが目的だったわけですから、他社製品を販売することに反対意見が出ることは、ある意味、当然だったでしょう。しかし、現在は、多くのプラットフォームが利用されていることからも分かる通り、顧客は、プラスの製品を購入するためにアスクルを利用するのではなく、ワンストップで文具を購入できるところに利便性を感じていたわけです。
そして、岩田さんは、アスクルの事業の目的と、顧客の要望のギャップに気づき、顧客の要望にお応じた結果、自社製品の売上を伸ばすことにも成功しました。すなわち、「自社に都合の悪い『お客様の声』にこそ耳を傾ける、この経験を通じて私は、競合他社に勝つことを考えるよりも、お客様の声を聞くことのほうが大切」という岩田さんのご指摘に尽きるでしょう。
一方、「お客様第一主義」という言葉は、事業活動の現場でよく聞かれます。もし、本当に「お客様第一主義」が実践されている会社が多いのであれば、岩田さんのご指摘は、それほど重みを感じないはずです。ここでは詳細については述べませんが、よく言われている「お客様第一主義」は、かけ声だけになっていることが多いのも現実なのだと思います。繰り返しになりますが、自社に都合の悪い情報にこそ、ビジネスチャンスがあるという前提で顧客の要望を聞くことに、業績を伸ばすための鍵があるのだと思います。
2026/4/3 No.3397
