鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

社会最適を追求し社会課題を解決する

[要旨]

アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、同社の事業は社会最適を追求することを目的に立ち上げたことから、同社と同様に、社会課題を解決するビジネスをしたいけれども、それで利益を出せるビジネスモデルがつくれないという方は、まずは社会最適になっていないビジネスや社会システムを、身近なところで探し出し、それを社会最適に変えることができれば、社会課題の解決と利益をあげることの両立に近づけることができるということです。


[本文]

アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を拝読しました。同書で、岩田さんは、社会最適を目指すことが顧客からの支持を得られるようになるということについて述べておられます。「オフィスで必要なものをまとめて配送するとなると、卸業者や小売店を介さずに、直接お客様に販売することになります。従来の流通では、メーカーとお客様の間に卸業者や小売店が介在していました。

これは、物流インフラやコンピュータが発達していない時代には、お客様にいち早く商品をお届けするために合理的な仕組みでした。卸機能も長い歴史を持つ社会システムとして、立派に機能しています。しかし、物流インフラが整い、コンピュータで在庫を管理できるようになるなど、情報システムが進化すると、効率的とはいえなくなり、むしろ弊害のほうが目立つようになっていました。

間に入る業者が多い分、多くのマージンが発生し、小売価格が高くなりますし、配送のコストも余計にかかります。直接お客様に商品を販売すると、卸業者や小売店を介さない分、商品の原価が下がるので、安く販売できます。配送に関しても、これまでよりも少ない台数の配送車で、お客様のもとに素早く商品をお届けできます。ただ、お客様に直接販売するためには、流通だけを再構築すればいいわけではありません。当然のことですが、お客様からご注文をいただかなければなりません。

しかし、お客様を開拓するには、大変なコストがかかります。そこで、『エージェント制度』をつくりました。卸業者さんや小売店さんにアスクルのエージェントさんになっていただき、お客様の開拓をしていただおたのです。エージェントさんがお客様にアスクル利用の申し込みをしていただき、お客様がアスクルに注文すると、注文金額の一定割合がエージェントさんに入る仕組みです。

また、お客様の与信・回収の役割も、エージェントさんに担っていただきました。小売店さんは地域密着でビジネスをしてきているので、地域の中小企業に対する営業活動や与信は、アスクルよりも得意です。それぞれに得意な役割を担っていただく『機能主義』も、ビジネスモデルの構築で意識したことのひとつです。小売店さんにとっても、従来の販売方法からは変わるものの、営業活動と回収という強みを活かして、新たなビジネスモデルで商圏を拡大することもできるので、ビジネスチャンスでもあったはずです。

小売店さんとの共存其栄を図るという意味で、これも『社会最適』といえるのではないでしょうか。このようなビジネスモデルを構築したことが、アスクルの大きな強みとなりました。エージェントさんがお客様を開拓し、与信管理、代金回収の機能を担っでくださったことで、お客様ヘの販売代金を回収できないなどのトラブルにあうこともなく、利益を安定的にあげられました。

世の中のビジネスも、戦後構築された社会システムも、時代の変化とともに、社会最適になっていない部分が多くあります。それによって、誰かが何らかの不都合を被っています。そうした部分を社会最適な形に変えれば、今まで不都合を被っていたお客様から支持されるビジネスモデルが生まれます。社会最適の実現に取り組んだことは、社会課題の解決にもつながりました。

たとえば、さまざまな企業の商品をアスクルの物流センターに集約して、お客様に直接お届けすることで、バラバラに運んでいた時よりも物流を効率化することができました。配送ルートを工夫して空荷で走るトラックを減らし、ドライバーの労働環境の改善を図る、といったこともしました。社会最適の視点から物事を考えると、おのずと社会課題の解決にもつながってくるのです。

また、利益を出して、会社を大きくすることで、さまざまな社会貢献活動もできるようになります。利益が出るまでに時間がかかる事業に取り組めるだけの資金もつくれるでしょう。社会課題を解決するビジネスをしたいけれども、それで利益を出せるビジネスモデルがつくれないという方は、まずは社会最適になっていないビジネスや社会システムを、身近なところで探してみてはいかがでしょうか。それを社会最適に変えることができれば、社会課題の解決と利益をあげることの両立に近づけるはずです」(47ページ)

岩田さんは、アスクルで「社会課題を解決するビジネス」を実践しようとしたわけですが、これは、いわゆるCSV経営のことと言えるでしょう。すでにCSV経営については広く知られていますが、改めて説明すると、2006年に米国の経営学者のポーターによって提唱された考え方です。CSVとは、Creating Shared Valueの略語で、「共通価値の創造」などと訳されています。日本でも、CSV経営を実践している会社は珍しくありません。

例えば、2018年10月にサービスを開始した、売れ残りパンを販売する通信販売プラットフォームの「rebake」は、年を追って販売量を拡大し、2023年8月までに800トン以上のパンを販売し、廃棄されるパンの削減に貢献しています。同社が支持されている理由は、おいしいパンをリーズナブルに食べたいという需要だけでなく、フードロスをなくす社会を実現しようとしているからだと考えることができます。とはいえ、CSV経営を実践している会社の割合は、以前、低いままだと私は考えています。

その理由の1つは、CSV経営によって提供される商品・サービスは、コロンブスのたまごのような側面があるからだと思います。後になってみれば、これは便利だと感じる商品であっても、それは前もってなかなか気づきにくいものです。アスクルの「オフィスで必要なものをまとめて配送する」というサービスなど、今までなかったサービスは、なかなか気づきにくいものであり、ある程度の労力や時間をかけなければ発見できないものです。

理由の2つ目は、今までにない商品・サービスは、マーケットインではなく、プロダクトアウトであるということです。すなわち、顧客が欲しているものに応えて商品を提供するのではなく、提供する側が今までに存在しなかった商品・サービスを提供するので、最初は、それを標的ッ客に理解してもらうことに時間や労力を要するからです。アスクルも、当初は、エージェントに利用を促しもらいました。

しかしながら、現在のような成熟した社会では、CSV経営による商品・サービスでなければ競争力が発揮しにくい時代です。したがって、新たなビジネスモデルの導入によって業績を高めたいと考えている経営者の方は、岩田さんがご指摘しておられるように、「社会最適になっていないビジネスや社会システムを、身近なところで探してみる」ことをお薦めします。

2026/4/2 No.3396