[要旨]
船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんによれば、ある会社では、拠点長のマネジメント能力が課題と考えていたものの、川原さんが拠点長に聞き取り調査をしたところ、拠点長には個人の成績を重視する評価が行われており、結果として部下の教育が後回しになっているということが判明しました。したがって、課題については表面的な対処ではなく、根本的な要因を追求して対処することが大切ということです。
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今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんによれば、PDCAを実践しようとするときに、まず、計画を立てますが、その計画に多くのことを盛り込もうとすると、計画策定のための労力が増加し、計画策定自体が頓挫してしまう可能性があるので、目標はあまり労力がかからない程度に絞り込むことが大切だということについて説明しました。
これに続いて、川原さんは、中間管理者のマネジメント能力を高めるためにはどうすればよいのかということについて述べておられます。「現状を振り返り、『今、どんな状況なのか』、『問題は何なのか』をメンバーと共有することが、計画を作るスタートになります。ここで必要不可欠なポイントがあります。それが、『正しい事実を把握すること』です。『正しい事実を把握するなんて、当たり前じゃないか』といった声が聞こえてきそうですが、これがなかなか難しいのです。例を挙げて説明しましょう。
システム販売会社B社の営業部長から『拠点長のマネジメント能力を高めたいので教育プログラムを作って実施していきたい』という相談を受けました。B社は約30拠点の営業所を展開していますが、拠点長によって業績に大きなバラつきが出ているというのです。一口にマネジメント能力といっても、その言葉には様々な要素が含まれています。ですから、『B社の拠点長には、一体どんなスキルが必要なのか』を絞り込むために、全ての拠点長と話をすることにしました。
その中でわかったことは、『ほとんどの拠点長は、マネジメントする時間がない』ということです。一体どういうことでしょうか。さらに詳しく話を聞いてみると、B社の拠点長の8割は、各営業所の中でもトップの成績を上げるトップセールスであることがわかりました。つまり、一般的に言うところの、プレイングマネジャーという役割だということです。拠点長は日々、最も多くの顧客を抱えて営業活動に邁進しており、部下とのコミュニケーションをとる時間すら取れていない、というのが実態だったのです。
拠点長たちは、『拠点の目標を達成るためには、まずトップである自分自身の目標を達成しなければならない』と考え、それを最優先にした結果、なかなか部下が育たない、というシレンマを抱えていたわけです。さて、B社の問題は、拠点長たちのマネジメント能力不足だと言えるでしょうか。これまで教育体系が整っていなかったことを考えると、確かに『やらないよりは、やった方が良い』施策だとは思います。
しかし、恐らくこの対処策では問題の根本的な解決にはなりません。『なぜ拠点長は、トップセールスであり続けなければならないのか』という疑問を解消しない限り、部下育成にかける時間が取れないという状況は打開できないでしょう。B社のケースでは、個人実績を重視する評価の比重が高かったため、拠点全体も大切だけど自分の実績を優先してしまう、といった傾向が見られました」(81ページ)
B社の拠点長のマネジメント能力が伸びなかった原因について、川原さんは、「個人実績を重視する評価の比重が高かったため、拠点全体も大切だけど自分の実績を優先してしまう」状況にあったとご指摘してられます。すなわち、B社の営業部長は、拠点長のマネジメント能力を高めたいと考えつつ、評価制度では、拠点長の営業成績を重視するという、矛盾のある対応をしています。私も、これまで中長期業の事業改善のお手伝いをしてきて、このような矛盾のある働きかけをしている会社を少なからず見てきました。
経営者としては、長期的には部下の能力も高めたいと考えつつ、目の前の課題として業績も高めることにも注力しなければならないという、相反する課題に板挟みになっていることも少なくないでしょう。そして、マネジメント能力の向上と、業績の向上という、同時に実現することが困難な課題を、意図的か意図的でないかは問わず、同時に幹部従業員や、さらにその部下に出してしまうことがあるようです。
この両方の課題について、「本気で取り組めば解決できないことはない」などと考える経営者の方もいるかもしれません。しかし、難しい課題を部下に与えたからといって、当然、その結果の責任は経営者が免れるわけではありません。難しい課題を部下に与えることも、時には必要かもしれませんが、部下がそれを克服できなければ、その結果責任は、最終的には経営者が負わなければなりません。
したがって、経営者としては、完全にはそれを避けることができないとしても、なるべく矛盾がない状態で課題を部下に与えることが、確実に課題解決を促すことになるでしょう。そして、このような状況は、B社だけではなく、ほとんどの会社が共通して直面していると思います。例えば、埼玉県入間市にある野村運送の社長の野村孝博さんは、ご著書、「吉野家で学んだ経営のすごい仕組み-全員が戦力になる!人材育成コミュニケーション術」で、次のように述べておられます。(ご参考→ )
「トラックが故障して、走行が続けられないとなれば、積んでいる荷物をどうするか、故障したトラックをどうするか、ドライバーをどうするかをすぐに判断して行動に移さなくてはなりません。あるいは、ドライバーが体調不良になってしまうというケースもあります。また、交通事故の場合も同樣です。先述した対応に加えて、謝罪や交渉も必要になってきます。
たとえ交通事故が軽微なもので、ドライバーが仕事を継続できるようなケースでも、上席者が即座に謝罪・交渉に伺うことは非常に重要です。事故やトラプルへの対処は初動が肝心。早く動けば動くほど、相手に誠意が伝わります。こうしたA『緊急度・重要度ともに高い』仕事が、通常業務に割り込んでくることによって、B『緊急度が低く、重要度が高い』仕事が後回しにされてしまいます。
時には、D『緊急度も重要度も低い』仕事が明らかになり、その作業をスリム化できるケースもあるでしょう。しかし、B『緊急度が低く、重要度が高い』仕事は疎かにしてはいけません。例えば、Bである社員教育を中止にしてしまっても誰にも迷惑はかかりませんが、その分会社の成長が止まると心得て、しっかりと取り組むことが必要です」(42ページ)
すなわち、社員教育のような緊急性の低い仕事は後回しにできるけれど、後回しにばかりしていると、徐々に会社の業績に悪影響を与えてしまうということです。すなわち、社員教育は緊急性が低いけれど、ずっと後回しにしていれば業績が下がってしまうということです。こう考えれば、本当は、社員教育も緊急性が高い仕事なのかもしれません。
したがって、業績を高める活動と、社員教育は、相反する活動ではなく、社員教育によって業績を高めることができると考えれば、緊急性が低いと思われる社員教育こそすぐに着手しなければならず、そして、それは確実に業績を高めることになると考えることができます。もちろん、社員教育の効果は直ちに現れない点が踏ん張りどころですが、そのための努力は、後になって何倍にもなって報われるでしょう。
2026/3/30 No.3393
