[要旨]
船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんによれば、事業計画を十分に練り込んだものにせず、既存業務を延長するものであっても、しばらくは事業を継続できるため、十分に練り込んだ事業計画を策定しない会社は新たな取り組みを行う機会がなくなり、成長につながらなくなるので、注意が必要だということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんによれば、事業活動の目標を定めれば、自ずと経営戦略が明確になりますが、部下たちが経営戦略だけに注意をとられて活動すると、目標との齟齬が起きることもあるので、リーダーはそのようなことが起きないよう、マネジメント、すなわち、やりくりをすることが大切だというこについて説明しました。
これに続いて、川原さんは、事業計画を策定するとき、既存業務の延長を前提にしている経営者が多いということについて述べておられます。「『なぜPDCAが回らないのか?』を考える中で、見えてきたのは『誰もが計画を作れていない』という現状です。そして、計画が作れない(もしくは作らない)最大の原因は、『計画“らしき”ものさえあれば、計画を練り込まなくても、仕事は十分回っていく』ことでしょう。
私は計画策定のコンサルティングの場面において、必ずこんな質問をします。『今期と全く同じ施策、同じ行動を取ったと仮定したら、業績はどの程度になると思いますか?』当然、受け止め方は人によって様々なこともあるため、20%ダウン、30%ダウン、とバラバラにはなりますが、『極端に業績が落ちる』という答えはほとんどありません。
このような認識を持っているリーダーだと、ベースには『少し頑張れば今期と同じくらいの目標なら達成できる』という考えがあるはずです。ほとんどの企業が成長できなくなってきた理由がこの『新しい取組をしない、あるいはできない』状態にあります。経営者は、業績の上がらない状況になると、投資に踏み切れません。
特にコスト項目の中でも構成比の高い人件費に関しては、誰もが躊躇してしまいます。もちろん給料もそうそう上がらないでしょうし、従業員の採用も控えることになるでしょう。こうなってくると、現場に対しても大きな期待はできないので、『この苦しい時期を乗り切っていこう』といった前年踏襲型の目標で、組織全体が動くことになります。
つまり、『少し頑張れば今期と同じくらいの目標は達成できる』と考えるリーダー、そしてその前年踏襲型の目標を許容せざるを得ない会社としての事情があるのです。よって、リーダーとしても、『仕事内容を大きく変える必要などない』ということにとになり、計画“らしき”ものでも十分乗り切っていけることになります。」(51ページ)
ほとんどの経営者の方は、ダーウィンの、「生き残る種とは、最も強いものではない、最も知的なものでもない、それは、変化に最もよく適応したものである」という言葉や、孫子の、「攻撃は最大の防御なり」という言葉について肯定的だと思います。すなわち、現状維持は好ましくないということは広く理解されていると思います。その一方で、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験で感じることは、結果として現状維持を選ぶ経営者の方が少なくないということです。その理由は、やはり、新しいことをして失敗することを避けたいと考えるからでしょう。
しかし、そうはいっても、現状を維持することが最善なのかというと、そういうわけでもないことは分かっているので、結局、現状維持か、新しいことに着手するか、逡巡している経営者の方が多いのだと思います。(中には、業績が悪化しているのに、現状を変えたくないと考えている経営者も希にいますが…)しかし、事業計画を策定すると、「現状を変えなければならない」という決断をし易くなると、私は考えています。
その理由の1つは、事業計画を策定する過程を通して、経営者は「鷹の目」で自社の状況をじっくり把握することになります。前々回、経営者は「鷹の目」と「蟻の目」の両方を持たなければならないと述べましたが、実態として、日々の業務に追いかけれている経営者は、「鷹の目」を持つ機会はあまりありません。ですから、事業計画策定という活動を通して、自社の状況を鷹の目で見ることができ、現状維持で問題がある場合は、それに気づくことができます。
2つ目は、自社の状況を数値で把握する機会が増えることです。これは、これまで私が何度も述べてきていますが、中小企業経営者の多くは、月次で自社の状況を把握していません。月次決算書が作成されているとしても、最新のデータが前々月以前のデータであったり、それに基づく改善活動を行っていなければ、それは、月次決算書を作成していない会社と同じ結果になります。
しかし、前述のように、事業計画を策定する活動を通して、自社のデータを客観的な数値で把握することになるため、いわゆる「肌感覚」という不正確な根拠で判断をすることはなくなります。この客観的なデータを把握することで、もし、業績が悪化していれば、「現状維持ではよくない」ということを、根拠をもって理解することになります。
もちろん、事業計画を策定しただけで、新しい取り組みの決断ができるわけではなく、最終的には、経営者の方の決断力が決め手になります。自社の状況を正確、かつ、客観的に把握している経営者の方が、新しい取り組みの必要性を強く感じることは間違いないので、それが決断の後押しをすることは間違いないでしょう。
2026/3/26 No.3389
