[要旨]
船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんによれば、事業活動の目標を定めれば、自ずと経営戦略が明確になりますが、部下たちが経営戦略だけに注意をとられて活動すると、目標との齟齬が起きることもあるので、リーダーはそのようなことが起きないよう、マネジメント、すなわち、やりくりをすることが大切だということです。
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今回も、前回に引き続き、船井総合研究所のシニアコンサルタントの川原慎也さんのご著書、「これだけ!PDCA-必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川原さんによれば、現在は売上が増えにくい経営環境にあって、現場からは仕事量は増えているのに、従業員数は変わらないから、人を増やして欲しいという要望が出ててきますが、それに直ちに応えることは難しい一方で、放置しておいても解決にはならないことから、経営者は鷹の目と蟻の目の両方の視点で事実を把握し判断をすることが大切だということについて説明しました。
これに続いて、川原さんは、リーダーは自社の経営戦略に基づいた指示を出すことが大切ということについて述べておられます。「『鷹の目』と『蟻の目』を意識するようになれば、自ずと立案する計画のベースには、その企業としての戦略がある(なければならない)ことに気づくことになります。『戦略』という言葉は、人によって様々な意味合いにとられてしまう可能性があるので、もう少し砕けた表現をすると、勝ち抜くための作戦、生き残るための作戦、といったイメージになるでしょうか。
企業は、その時々の状況に応じて、ライバルに何としても勝ち切っていくことを狙うこともあれば、当面我慢しながら財務状態を正常に戻すことを狙うこともあります。当然、極端な戦略を採らざるを得ない局面もあれば、うまくバランスを取った戦略を採った方が良い局面もあるでしょう。いずれの場合であっても、リーダーは自社の戦略意図をしっかりと認識して、現場に具体的な指示を出さなければなりません。それができないと、『鷹の目』を鍛えられていない現場は意図とは異なる行動をしてしまうからです。
例えば、競合企業に差をつけるために、『今期は新規顧客の開拓を強化』という方針が出されたとしましょう。誰もが新規開拓は難しいことについては重々理解しているので、通常、管理面においては『新規獲得件数』や『新規の訪問件数』などといった指標が重視されがちです。当然、現場は目標を達成するためであることはもちろん、一方で上司から指摘を受けたくない意識も働き、新規に対する活動量を増やすことになります。そうなると何が起こるでしょうか。そもそも、活動時間は限られているわけですから、従業員の増員をしない限り、新規に振り向けられた活動の分だけ既存顧客にかける時間が減ってしまうことになります。
何も手を打たなければ、活動が減少した分だけ既存顧客との取引がなくなるという、本末転倒な事態にもなりかねません。そもそも経営層が描いていたのは、当然、既存顧客の数字に新規顧客の数字を上積みして売上を上げることでしょう。よってリーダーは、その戦略意図(現状の人員で既存顧客の維持と新規顧客開拓を両立させること)を十分に理解しておくことが不可欠です。その上でやるベきことは、新規に振り向ける活動量を確保することに加えて、いかに効率的に既存顧客を維持するのか、について具体的な指示を出すことになります。
マネジメントというと『管理』することのように思われがちですが、現実に照らし合わせると、マネジメントとは『やりくり』することだと考えるベきでしょう。リーダーが任される組織の人員は限られています。ということは、仕事にかける時間も自ずと限られていることになります。そう考えると、より重要な仕事に時間をかける一方で、重要度の低い仕事を効率的に進める方法を考元る、あるいは本当に重要ではないのであればやめる、といった現場にしかわからない『やりくり』を上手にやっていくことこそが求められているのです」(48ページ)
経営戦略については、明確な定義はないのですが、私は次のように考えています。すなわち、経営理念(基本方針、企業理念なども同様)は、事業活動の目的地を示すもので、経営戦略はその目的地にどのように向かうかを示す道筋だと考えています。さらに、経営戦術は、経営戦略にしたがって目的地に行くための具体的な手法、例えば、飛行機で行くのか、船で行くのか、鉄道で行くのかという具体的な方法を示すもので、事業計画は、経営戦術にしたがって目的地に行くための具体的な日程や、誰が行くのかというものを示すものだと考えています。
この例えばイメージではありますが、川原さんが「自ずと立案する計画のベースには、その企業としての戦略がある(なければならない)ことに気づくことになる」と述べておられますが、鷹の目で目的地が明確になり、そこへ行く計画を立てようとすれば、当然、そのルート(経営戦略)も明確になるということであり、私のイメージと同じことを述べておられるのだと思います。
話を戻すと、経営戦略は何のためにあるのかというと、経営理念を実現するためですが、川原さんが挙げた事例のように、経営理念は見ずに経営戦略だけに着目すると、新規獲得だけに注力し、既存顧客対応を疎かにすると、売上が増加しない、または、減少するという本末転倒な事業活動が行われることもあります。そこで、特にリーダーは、経営戦略に基づく活動は、経営戦略だけでなく経営理念を踏まえたうえで行ったり、そのための部下への指示を出さなければなりません。
その際に注意しなければならないことが、「その戦略意図(現状の人員で既存顧客の維持と新規顧客開拓を両立させること)を十分に理解しておくこと」であり、そのためにマネジメント(やりくり)が必要ということです。ここまでの説明にややこしさを感じた方は多いと思いますが、私は、そこにマネジメントは「人」でなければできない余地が大きい、すなわち、マネジメントは人間的な活動だと考えています。
2026/3/25 No.3388
