鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

自社製品を事実上の標準規格にする

[要旨]

経営コンサルタントの今枝昌宏さんによれば、デファクトスタンダードは、モノやその規格を自社で作成し、それが事実上の標準として世の中に受け入れられることによって更なる販売を確保し、利益を上げるビジネスモデルであり、例えば、マイクロソフトのウィンドウズOSやオフィス製品はビジネス用PCで事実上標準となっていて、同社に巨大な利益をもたらしているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの今枝昌宏さんのご著書、「ビジネスモデルの教科書-経営戦略を見る目と考える力を養う」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、今枝さんによれば、アンバンドリングとは、従来一体的に提供されていた製品・サービスを分解し、顧客の欲する部分だけを提供することによって顧客が不要な部分を購入しなくてよいようにし、顧客による自社からの購買選択を促すビジネスモデルだということです。

これに続いて、今枝さんは、デファクトスタンダードについて述べておられます。「デファクトスタンダードは、モノやその規格を自社で作成し、それが事実上の標準として世の中に受け入れられることによって更なる販売を確保し、利益を上げるビジネスモデルです。(中略)マイクロソフトのウィンドウズOSやオフィス製品はビジネス用PCで事実上標準となっていて、同社に巨大な利益をもたらしています。インテルによるインテルアーキテクチャのプロセッサは、アップルを含むほぼ全てのPCに標準的に搭載され、インテルは大きな利益を上げています。(中略)

デファクトスタンダードが有効なのは、デファクト、即ち事実上の標準品となった製品を顧客が選択し、選択の結果更に製品のデファクトスタンタードとしての性格が強まるという好循環が働くからです。顧客がデファクトスタンダード製品を選択する理由は様々なものがあります。同種の他の製品とのデータフォーマットや接続手順により互換性が生じることや、使用できるオペレーターの多さ、研修などのサポートサービスのアベイラビリティなどがあります。

また、デファクトスタンダードになると、そのもの自体ではなくその周辺においても、その製品への接続性を確保するように他の製品のインタフェースが作られるようになりますので、更にその製品を選択せざるを得なくなります。潜在的な顧客にとってのモノやサービスの価値が、既にそのモノやサービスを利用している顧客の数に依存することをネットワーク効果と言いますが、デファクトスタンダードの製品にはまさにこのネットワーク効果が働きます。

ネットワーク効果以外にも、デファクトスタンダードであればその販売者が撤退しないだろうという安心感もあるでしょう。コスト面では、画一的なモノを大量に生産して、同一部品の大量購買や設計の簡素化などによっていわゆる経験曲線を先行して他社よりも圧倒的に低い価格で生産できるようになり、それを価格に反映させて更に標準であることを強化できるという好循環も生むことができます。

更に、デファクトスタンダードとなると、パージョンアップなどの製品の進化を自社で企画・管理していくことができるようになり、それを整然と進めることができるため、業務効率や資源効率が向上し、コスト優位に立っことができます。デファクトスタンダード製品は、販売面、コスト面ともに予測可能性が高まりますから、リスクも減少するという性質があります。以上見てきたように自社製品をデファクトスタンダードとすることに成功すると、顧客は自発的にその製品を選択し、他社製品を選択しなくなり、優位性が維持されるということになります」(102ページ)

デファクトスタンダードは事実上の標準という意味ですが、公的機関が定めた標準規格はデジュールスタンダードと言います。デジュールスタンダードの具体的なものは、ISO(国際標準化機構)の定めた規格や、JIS(日本産業企画)などです。話を戻すと、自社がデファクトスタンダードをつくると、優位に事業展開をできるので、自社製品をデファクトスタンダードにするための努力をする事例少なくありません。例えば、QRコード決済のPayPayが、当初、加盟店の手数料を無料としていたのは、PayPayがデファクトスタンダードになることを狙ったものと言えるでしょう。

そして、今枝さんは、「潜在的な顧客にとってのモノやサービスの価値が、既にそのモノやサービスを利用している顧客の数に依存することをネットワーク効果という」と述べておられます。PayPayの場合、加盟店を増やすことで利用者が増え、そのことが、潜在的な利用者から見た価値を高めました。そして、現在では、PayPayは、買い物の代金支払い以外に、個人間での送金、税金の支払い、給料の受け取りなど、利便性が高まり、魅力的なツールになっています。

では、デファクトスタンダードは、中小企業ではつくることができるのかというと、私は、事実上、不可能だと思っています。その理由は、標準化争いには大きな投資が必要であり、中小企業はそれだけの経営資源を捻出することはほぼ不可能だからです。しかし、中小企業のつくった規格を標準化するための取り組みは行われているようです。

独立行政法人中小企業基盤整備機構のWebPageによれば、JSA(日本規格協会)が中小企業等相談窓口となってJISC(日本産業標準調査)につなぎ、要件を満たしている場合は、原案作成委員会を立ち上げて、規格原案開発を行い、国内の標準化さらに、ISO、IECといった国際標準化を目指すという、新市場創造型標準化制度があるそうです。もし、自社製品が標準化されれば、製品の信頼性が高まり、新たな顧客の獲得が容易になります。自社製品の性能に自信がある会社は、この制度を活用することをお薦めします。

2026/2/27 No.3362