鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ライバルを模做して差別性を打ち消す

[要旨]

経営コンサルタントの今枝昌宏さんによれば、同質化は、市場のリーダーである企業が採用するモデルであり、市場で下位の事業者や新規参入者が繰り出す自社に対する差別性で顧客受容性の高いものを即座に模做して打ち消してしまい、自社の規模による力に依存して優位を維持し続けるビジネスモデルであるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの今枝昌宏さんのご著書、「ビジネスモデルの教科書-経営戦略を見る目と考える力を養う」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、今枝さんによれば、顧客ライフサイクルマネジメントは、顧客の生涯のできるだけ早期に顧客とのコンタクトを構築し、顧客の成長による嗜好やニーズの変化、可処分所得の変化などに合わせて提供価値と収益性を変化させることによって利益を上げるビジネスモデルであるということについて説明しました。

これに続いて、今枝さんは、市場で1位の会社が、2位以下の会社の差別性を模倣する同質化について述べておられます。「同質化は、市場のリーダーである企業が採用するモデルであり、市場で下位の事業者や新規参入者が繰り出す自社に対する差別性で顧客受容性の高いものを即座に模做して打ち消してしまい、自社の規模による力に依存して優位を維持し続けるビジネスモデルです。例えば日本コカ・コーラは、2位サントリーの約2倍の規模を有する飲料業界のガリバーですが、競合による有効な差別性をことごとく潰してきました。

UCC上島珈琲による缶コーヒー『UCCコーヒー』には『ジョージア』を発売して対抗し、アサヒ飲料のブレンド茶である『十六茶』には『爽健美茶』を発売して対抗し、大塚製薬の『ポカリスエット』には『アクエリアス』を発売して対抗しています。コカ・コーラは、日本最大のボトラーネットワーク、自動販売機ネットワークを持っているので、競合と同等の製品さえ発売すれば販売力で競合に勝つことができるわけです。

同様にインスタント麺最大の企業である日清食品は、東洋水産の『赤いきつね』、『緑のたぬき』には『どん兵衛』で、『マルちゃん正麺』には『ラ王(袋麺)』で対抗し、まるか食品の『ペヤングソース焼きそば』には『UFO』で対抗しています。家電業界最大のパナソニックは、松下電器産業時代に『マネシタ電器』と揶揄されたように、他社が繰り出す差別性のある新製品にことごとく追随していました。それは、松下幸之助氏が『うちは品川にソニーという研究所がある』と言い放ったと言われるほどに自他ともに認める露骨なものでした。(中略)

同質化では、カのあるマーケットリーダー企業が他社に提供価値の差別化を許さず、提供価値をことごとく同質化します。マーケットリーダー企業は広範なチャネルとの強固な関係を持ち、またセールスマンなどの有能な人材と潤沢な広告資金などの資源を持っていますから、2位以下の企業と提供価値が同じである限り体力差で押し切ってしまうことが可能です」(86ページ)

同質化は、シェア1位の会社が、2位以下の会社に対抗する手法の定石です。日本でLCCがうまく行かなかったのは、既存の航空会社の同質化が成功したからと言えるでしょう。このように、同質化は、新しい商品の需要があることを後出しジャンケン的に確認することで、新商品投入のリスクを抑えることができたり、販売網などは既存のものを利用できたりすることで、ライバルよりも有利に事業を展開することができるという利点があります。

しかし、この同質化は、どの会社も必ず成功しているとは限りません。例えば、かつて、ビール業界のシェア1位だったキリンビールは、同質化に失敗しています。1980年代に、シェア3位のアサヒビールが新製品のスーパードライを発売し、シェアを伸ばしてきましたが、キリンはこれに対してキリンドライなどの新製品を発売し、同質化を試みたものの、それが奏功せず、シェア1位の座を奪われました。

これは、シェア1位の会社も、2位以下の会社と同程度の技術を持っていないと、同質化を成功させることが難しいということと言えるでしょう。したがって、業界のリーダーにとって、同質化はライバルに対する有効な対抗手段ではあるものの、根本的に勝てる手段とはならない可能性もあるので、自らも技術を高めたり、革新的な商品を開発したりする努力が必要になると言えます。

2026/2/25 No.3360