鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

特定市場を支配すると優位に競争できる

[要旨]

経営コンサルタントの今枝昌宏さんによれば、特定市場の支配するビジネスモデルは、他の市場から隔された特定の市場において圧倒的な市場シェアを持つことによって、規模の経済によるコストダウンを図ることができるなど、他社に対して優位に立つことができるビジネスモデルであるということです。例えば、参天製薬は医療用の目薬で高いシェアを持つことによって眼科医へMRを密に配置することができ、そのため他社と比較して眼科医に対して効率的かつ効果的に医薬情報提供を進めることができているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの今枝昌宏さんのご著書、「ビジネスモデルの教科書-経営戦略を見る目と考える力を養う」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、今枝さんによれば、クリームスキミングは、既に広域で事業を展開している競合、つまりユニバーサルに事業を行っている競合が存在することを前提として、高密度に需要がある地域や顧客セグメントを見つけ出し、そこに集中することによって業務効率や資源効率を上げてコストを下げ、低価格を武器に競合から顧客を奪取するビジネスモデルであるということについて説明しました。

これに続いて、今枝さんは、特定市場を支配するビジネスモデルについて述べておられます。「特定市場の支配とは、他の市場から隔された特定の市場において圧倒的な市場シェアを持つことによって他社に対して優位に立つビジネスモデルです。ここで言う市場とは、いわゆる産業ないし業界と同義です。産業には通常他の産業から隔絶された市場が存在し、その内部では他の産業とは異なるダイナミズムが働いています。特定市場の支配は、この産業の内部において高いシェアを占めることによって優位を発揮するのです。日東電工は、『グローバルニッチトップ』を標榜し、膜やテープ素材において同社の選択した市場で世界シェア1位となることを戦略としています。(中略)

なぜ高いシェアが競争優位に結ぴつくのか?その理由はそこに働く規模をベースとした様々な好循環にあります。まず、高いシェアを取ると生産やサプライチェーンに規模の経済が働き、コスト優位を得られます。そのため、下位の企業はシェアの高い企業の提供価値のコスト・パフォーマンスに勝てなくなってしまいます。マブチモーターはこの好例であり、大きな生産量によって経験曲線を先行できるため、コストダウンが進み、品質も向上するため他社が追いつけなくなっています。高いシェアを背景とした顧客との関係構築や営業力の充実、チャネルへの影響力の向上も好循環をもたらします。

参天製薬は医療用の目薬で高いシェアを持つことによって眼科医へMR(医薬情報担当者)を密に配置することができ、そのため他社と比較して眼科医に対して効率的かつ効果的に医薬情報提供を進めることができます。その結果として、同社は眼科医から高い信頼と支持を得ているのです。そのため、例えば第一三共は、その優れた抗菌剤であるクラビットを、内服薬としては自社で販売していますが、目薬としては自社で販売することなく参天製薬に導出しています。その結果として参天製薬の眼科薬のシェアは更に高まるのです」(39ページ)

念のために補足すると、今枝さんは、「第一三共は、その優れた抗菌剤であるクラビットを、内服薬としては自社で販売していますが、目薬としては自社で販売することなく参天製薬に『導出』している」と述べておられますが、この「導出」という意味は、「特定の医薬品を開発、販売するために必要な知的財産権の相手による使用を許可すること」という意味のようです。すなわち、第一三共は、自社製品について、眼科医に対しては、参天製薬に販売を委託しているということのようです。話を戻すと、業界のシェア1位をとることで、多くの利点を得ることができるということです。

参天製薬以外の事例では、マイクロソフトの基本ソフトが挙げられると思います。1980年代、IBMのパソコンには、インテル社製のCPUと、マイクロソフト社の開発したMS-DOSが搭載されましたが、その後、インテル社のCPUとマイクロソフト社の基本ソフトの組み合わせが普及していったことから、マイクロソフト社の基本ソフトはディファクトスタンダード(事実上の標準)になりました。

その結果、マイクロソフト社は、基本ソフト以外に、文書作成ソフトや表計算ソフトのユーザーを増やして行ったということは余りにも有名です。しかし、特定市場を支配するビジネスモデルには、当然、デメリットもあります。そのひとつは、特定市場を支配するまでには相当の経営資源を投入しなければなりません。シェア争いに敗れたり、トップが代わったりする業界もしばしば見られるように、特定市場を支配したり、それを継続したりすることは、それなりの「対価」が必要になります。

もうひとつは、せっかく特定市場を支配しても、その市場そのものが衰退してしまうと、支配の意味はなくなってしまいます。例えば、映像ソフトのレンタル業を営んでいるカルチュア・コンビニエンス・クラブは、かつては業界首位であったものの、映像ソフトのレンタルの需要が減っていることから、現在は、ジムやコワーキングスペースの事業を拡大させています。とはいえ、これらのデメリットがあるとしても、特定市場を支配できれば、優位に事業を展開できることは間違いないので、中小企業も、ニッチ分野のトップを目指すことには大きな意義があると、私は考えています。

2026/2/22 No.3357