[要旨]
経営コンサルタントの今枝昌宏さんによれば、クリームスキミングは、既に広域で事業を展開している競合、つまりユニバーサルに事業を行っている競合が存在することを前提として、高密度に需要がある地域や顧客セグメントを見つけ出し、そこに集中することによって業務効率や資源効率を上げてコストを下げ、低価格を武器に競合から顧客を奪取するビジネスモデルであるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの今枝昌宏さんのご著書、「ビジネスモデルの教科書-経営戦略を見る目と考える力を養う」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。地域ドミナントは、ある限られた地域内に集中的に複数の店舗を出店して競合が入って来る隙間をなくし、地域の顧客や需要を総取りするピジネスモデルであり、例えば、西松屋はドミナントエリアを設定して出店していますが、店舗の売上高が予め定めた目標を超えると、その店舗とわざと顧客を共食いするようにもう1店舗出店することで、競合が入り込む隙をなくしているということについて説明しました。
これに続いて、今枝さんは、米国のサウスウェスト航空などによる、クリームスキミングについて述べておられます。「クリームスキミングは、既に広域で事業を展開している競合、つまりユニバーサルに事業を行っている競合が存在することを前提として、高密度に需要がある地域や顧客セグメントを見つけ出し、そこに集中することによって業務効率や資源効率を上げてコストを下げ、低価格を武器に競合から顧客を奪取するビジネスモデルです。
もともと『クリームスキミング』とは牛乳からクリーム(練乳)を取るという意味で、つまり、おいしいところだけを選択的に食べてしまうことを意味しています。クリームスキミングの典型は、サウスウエスト航空などのLCCです。デルタ航空やアメリカン航空などのメガキャリアがハブ&スポークのシステムを作り上げてネットワーク全体で全ての地方に配慮したサービスを提供しているところに、高密度な2点間の輸送需要を狙って参入し、安価にチケットを販売して成功しています。(中略)
クリームスキミングの肝は、需要が高いセグメントにだけサービスを提供し、他に提供しないことにあります。多くのビジネスでは、約8割の売上や利益を約2割の顧客から得ているといった状況となっているのですが、その場合約8割の顧客のために経営資源を無駄遣いし、活動基準原価計算を行うとその8割の顧客については赤字になっていることが往々にしてあります。クリームスキミングは、ここに目をつけます。
需要が高いセグメントにだけ集中すれば、設備を効率的に使うことができ、設備からの配賦コストが下がるので、価格も安めに設定できます。そのため、低価格を武器としてその需要の高いセグメントにおいて顧客の多くを取り込むことが可能になるのです。(中略)航空事業においては、需要の大きな路線のみ運行することにより、飛行機の搭乗率を上げ、運賃を下げることができるわけです。
そして、低価格が更に集客を生み、それが更なる低価格につながるという好循環が起こります。一方、敵であるユニバーサルな事業者は、クリームスキミングによって利益率の高いセグメントを食い荒らされるので、設備稼働率が更に下がり、値上げを余儀なくされて更に不利な戦いを強いられるという悪循環に陥っていきます」(32ページ)
他にクリームスキミングを実施ている事例としては、近年の情報技術の進展によって、金融商品(銀行預金、住宅ローン、生命保険、損害保険、株式委託売買業務など)が挙げられると思います。携帯電話事業の格安SIMもクリームスキミングの例だと思います。ただし、クリームスキミングも安定的であるとは限りません。顧客を奪われた既存事業者は、クリームスキミングを実施している会社と同様の価格で製品を提供し、奪われた顧客を奪い返しに来ます。
日本のLCCも、当初の業績は順調であったにもかかわらず、その後、業績が不振になったのは、既存事業者の逆攻勢によるものと言えるでしょう。そこで、クリームスキミングを実施しようとする場合は、あまり時間をおかずに逆攻勢を受けることを前提に、新たな差別化の実施や事業撤退などの準備をしておくことが必要になると思います。
ところで、クリームスキミングに関し、今枝さんは、活動基準原価計算で標的顧客を選定するという手順を述べておられます。クリームスキミングは、儲かる顧客を狙い撃ちするビジネスモデルであるわけですから、このような手順をとることは当然のことです。ところが、中小企業経営者の多くは、儲かる相手を選んで取引したいと考えてはいると思いますが、同時に、儲かる相手を把握していないことも多いようです。
そこで、活動基準原価計算を導入することが望ましいのですが、中小企業では、活動基準原価計算の導入は難しい面もあるので、正確、かつ、迅速な原価計算を行ったり、顧客別、地域別、製品別の採算を把握したりして、採算の高い事業展開を行うことで、クリームスキミングに近い効果を得ることができると、私は考えています。
2026/2/21 No.3356
