[要旨]
公認会計士の林總さんによれば、例えば、レストランのメニューに生ハムを加えるとき、生ハム1本を買って切り売りするときと、毎日、スライスされた生ハムを購入して販売したとき、両方の売上や利益が同じであれば、毎日、スライスされた生ハムを購入する方が在庫量が少なくてすむので、資金効率も高くなるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計-会社の数字のウラを読む方法」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、かつてのデル・コンピュータは、受注生産することで、直ちに売上代金を回収し、生産は外注することで在庫も持たず、買掛金支払も交渉でゆっくりにすることで、手元資金を増やしていったそうですが、こういった働きかけによって無借金経営を実践することができるようになるということについて説明しました。
これに続いて、林さんは、事業活動で使う資金はなるべく少なくする方が効率的で望ましいということについて述べておられます。「会社にとつてキャッシュは血液のようなもの。血の巡りを悪くしたり、貧血の原因となるのが、在庫、売掛金、買掛金です。この3点をカイゼンすれば、営業キャッシュフローのマイナスをプラスに転じることができます。マイナスを解消して血液の流れをよくするだけでなく、血液の量そのものを増やして営業キャッシュフローのプラスを大ぎくするには、どうすればよいのか--。(中略)
例えば、レストランのメニューにイベリコ豚の生ハムを加えるとしましょう。専門店から丸ごと1本買ってきて、お客さんの前でスライスして出す方法と、スライスされたものを買ってくる方法があります。丸ごと1本買うと10万円。これを1か月かけて30万円で売り切る。あるいは、1パック1,000円の生ハムを日々必要なだけ買い、これを1パック3,000円、月間100パック売る。計算してみると、どちらも原価は10万円、売上90万円、利益は20万円、まったく同じです。
『だったら丸ごと1本買ったほうが見栄えもいいし、店の看板メニューになる』という人もいるでしょう。あなたも、そう思いますか?確かに、大きな生ハムの塊はおいしそうだし、見栄えもします。しかし会計的に見ると、2つの方法には決定的な違いがある。それは資金の『回転』です。1か月で100パック売るということは、1日当たり3~4パック売ればいいということ。3,000円~4,000円あれば始められますが、丸ごと買うとなると最初に10万円という資金が必要です。
10万円の手持ちがなければ借りてくることになるので、金利分だけ利益が減ります。さらに、手持ちの資金で買ったとしても、借金で買ったとしても、丸ごと1本買うということは、在庫を抱えるということ。在庫を抱えるということは、その間キャッシュを仮死状態で眠らせているということです。眠っている間に、傷んだり、ネコに食ベられたり、盗まれたりするかもしれないし、売れ残るリスクもある。
パック買いなら、1日に売り切れる分だけ買えばいい。在庫を抱えるリスクは、ほぽゼロです。リスクを抱えることなく、10万円が1か月かかって生み出す利益を、ほんの数千円で生み出すことができる。10万円の手持ちがあったとしても、残りのお金で他の材料を買って料理を作れば、プラスアルファの利益も得られます。『少ない資金を高回転で回す』、ココがキャッシュフロー経営の最も重要なポイントです」(167ページ)
同じ売上と、同じ利益を得ることができるのであれば、手元資金が少ない方がよいということは明らかです。私も、起業しようとする方のご相談にのるときは、なるべく手元資金を少なくする事業計画を立てるようお薦めしています。その理由は、もちろん、もし、起業後の事業がうまくいかなかったときの損失が少ないからです。しかし、起業後に、想定以上に事業がうまくいくというときもあり、そのような時は、もっと資金を投入して、事業規模を大きくしておけばよかったと感じることもあります。
でも、私は、起業時の会社の経営基盤は脆弱なので、結果として収益機会を逃したとしても、リスクを抑えることの方が望ましいと考えています。その代わり、事業計画が上振れしたときの対応策もあらかじめ決めておき、すぐに追加融資を受けられるようにするなどの準備をしておくことで、収益機会の逸失を抑えることができます。そのためにも、起業後は、会計記録をしっかり行い、タイムリーに収支状況を把握できるようにしておかなければなりません。
ところで、在庫が多いことは、必ずしも、デメリットだけとは限りません。前述の生ハムの例で言えば、生ハム1本を持っていれば、1日に生ハムの注文が5件以上あったとしても、それに応じることができます。また、毎日、ハムを購入する労力を省くこともできます。もちろん、在庫を多くすることのリスクが消えるわけではないので、事業活動が軌道にのってきてから、両者のリスクを勘案しながら、最適な状態を目指すことが大切です。
2026/2/15 No.3350
