[要旨]
公認会計士の林總さんによれば、かつてのデル・コンピュータは、受注生産することで、直ちに売上代金を回収し、生産は外注することで在庫も持たず、買掛金支払も交渉でゆっくりにすることで、手元資金を増やしていったそうです。こういった働きかけによって無借金経営を実践することができるようになるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計-会社の数字のウラを読む方法」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、リーマンショックの前は、手元資金の多い会社は、経営者の能力がないと評価されていたものの、リーマンショックを生き残った会社は手元資金が多い会社であったことから、かつての評価は変わったということについて説明しました。
これに続いて、林さんは、銀行に頼らないですむよう、無借金経営を目指すべきということについて述べておられます。「利益と営業キャッシュフローは、根本的に違うもの。しかし、長期で考えるとイコールになる。短期で見るから数字に大きな差が出るのです。前述のクッキー・ビジネスの例も、長いスパンで見れば、売掛金を回収できているかもしれない。予約した人もちやんとクッキーを取りに来て、無事お金を払ってくれているかもしれない。それを1か月という短期の収支で見るから、『利益は上がっているのに、キャッシュがない』ということになるのです。
短期で見ると、売掛金や在庫の増加はキャッシュフロー上、マイナスに働きます。逆に、『買掛』は未払いのお金の支払いを猶予されているわけですから、プラスに働く。--もうお分かりですね。商売を続けるにはキャッシュが必要。キャッシュフローをプラスにするコツは、利益を増やすこと以外に、『在庫を減らす』、『売掛金も減らす』、『買掛金はゆっくり払う』、これを実践していたのが、かつてのデル・コンピュータです。最近はちょっと勢いが落ちて、やり方も変わってきているようですが、同社がやっていたダイレクトセールスは、受注生産で、部品在庫はアウトソーシング先に持たせているので在庫はゼ口。
代金は基本的にクレジット払いだから、売掛金もゼロ。あれだけの規模の会社ですから、ちょっと強気で交渉すれば、買掛金の支払いはある程度猶予してもらえる。キャッシュフローの回転をスムーズにするという意味では三重マルの仕組みです。無借金でキャッシュフローを維持できれば、それがベストです。最悪でも“実質無借金経営”にとどめておきたい。実質無借金とは、保有する現金・預金と借金を相殺するとゼロになる状態のこと。借金はあるけれど、返そうと思ったらいつでも返せるので、実質的には無借金という意味です。
ひと昔前までは、借りる必要がなくても、いざという時のために少し借りて銀行との付き合いを切らさないほうがいい、といわれていました。でも、今はそんなことはありません。実際、キヤノンやコカ・コーラをはじめ、前述のセールスフォース・ドットコムなども借金はゼ口。その背景にあるのは資本構造の変化です。かつては、企業の産業資本(生産プロセスに投下され、利潤を生む資本)を、銀行資本(つまり銀行からの融資)が下支えするタテの二重構造になっていました。メインバンクは企業にとって、いわば第2の財務部的存在。大企業も例外ではありません。
しかし、この二重構造を支えていた、『銀行は絶対に潰れない、危なくなっても国が潰さない』という暗然の了解が、金融ビッグバンで崩れてしまった。北海道拓殖銀行が潰れ、山一證券が潰れ、残った金融機関も再編・淘汰されていきました。今でも多くの企業が金融資本を活用していますが、その構造はタテからヨコへと大きく変化しています。産業資本と金融資本が横並びになり、なおかつ金融資本の比率を下げようとしている。金融機関だって、いつ潰れるか分からない時代ですから、リスクを減らそうと思ったら借金はないにこしたことはありません」(163ページ)
固定資産への投資などを除く、狭い意味での事業活動に必要となるキャッシュフローは、売掛金と棚卸資産の合計額から買掛金を差し引いた金額です。これは、正味運転資金や経常運転資金とも言われ、銀行が運転資金の融資をするときは、この金額を目安に融資額が決まります。そこで、この事業活動に必要となるキャッシュフローを減らすには、林さんが述べておられるように、「在庫を減らす」、「売掛金も減らす」、「買掛金はゆっくり払う」という活動を行えばよいわけです。中には、Amazonなど、売掛金と棚卸資産の合計額よりも買掛金の額の方が大きい会社もあります。
このような会社は、営業キャッシュフローをすべて設備などの投資に充てることができるので、優位に事業活動を進めることができます。このAmazonのような状態に至らなくても、デル・コンピュータなどは事業活動に必要なキャッシュフローが少なくてすむわけですから、それだけ優位に事業活動を進めることができます。こういった観点から、中小企業でも、毎月、実地棚卸を行うことをお薦めします。実地棚卸は、労力がかかるために、1年に1回しか行わない会社が多いようですが、スリムな経営体質にして、融資を減らすためには効果があるので、在庫管理にあまり注力していない会社は、ぜひ、実施していただきたいと思います。
なお、林さんは、無借金経営を目指すことをお薦めしておられます。これについては、中小企業も可能であれば目指すとよいと思いますが、中小企業において「銀行に依存しない」ということまでを考える必要性は低いと私は考えています。大企業の場合、銀行に頼らなくても、株式市場から資金を調達できるという手段がありますが、中小企業の場合、銀行からの融資しか、ほとんど資金調達の手段がありません。確かに、林さんが述べておられるように、「金融機関だって、いつ潰れるか分からない時代」になったとは言え、例えば、コロナ禍であっても、中小企業の資金調達は銀行が支えていました。したがって、中小企業は引き続き銀行との良好な関係構築を目指すことが基本だと思います。
2026/2/14 No.3349
