鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

赤字でもすぐに倒産するわけではない

[要旨]

公認会計士の林總さんによれば、業績が黒字であっても、手元にキャッシュフローがなけれは事業を継続できなくなりますが、業績が赤字であっても、手元にキャッシュフローがあれば、事業を継続することができ、その間に、業績を改善できる機会を得ることもできるということです。したがって、経営者は事業を安定的に発展させるためには、短期的にはキャッシュフローの維持を図る必要があり、さらにそのために、一定期間に利益を得ることが求められるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、投資は営業キャッシュフローの範囲内にすべきと述べておられますが、それは、設備投資のための融資の返済原資は営業キャッシュフローであり、営業キャッシュフローで返済できる以上の融資を受けてしまうと、手元のキャッシュフローが枯渇し、事業活動を継続できなくなるかということについて説明しました。

これに続いて、林さんは、キャッシュフローが維持できなければ会社が倒産してしまうということについて述べておられます。「儲けがあるとは、キャッシュが増えているということ。つまり、営業キャッシフローがプラス(黒字)であるということです。たとえ計算上は利益が出ていても、キャッシュが増えていなかったり、マイナスになっていれば、会社が転覆してしまうこともあります。『利益が出ているのだから、それだけキャッシュも増えているに違いない』と思っている人もいますが、それは大間違い。

例えば、100万円を元手にクッキーを作って売るとしましょう。おいしいと評判になって完売。売上は200万円、コストを差し引いて100万円の利益が出た。これを元手にさらにクッキーを焼いて、また100万円の利益が出たとしたら、利益は計200万円です。でも、大量に買ってくれた人からと、『支払いをちょっと待ってくれ』と拝み倒され、1目の売上200万円のうち、回収できた代金は100万円。これを2回目に焼くクッキーの材料費として使ってしまったら、キャッシュはゼ口ということになります。

2回目のクッキーも、半分は評判を聞きつけた人からの予約だったけれど、まだ引き取りに来ない--となれば、帳簿上の売上は200万円、利益も100万円となっているけれど、入ってきたキャッシュは100万円です。仮に、この時点で商売を始めてちょうど1か月とします。月次決算をまとめると、『売上=200万円×2=400万円』、『利益=100万円×2=200万円』、『今月末時点のキャッシュ=100万円』このキャッシュも、来月分の材料費に消えてしまう運命。残っているのは100万円の売掛金と、100万円分の在庫だけです。

今はかろうじて翌月の材料費は確保できていますが、クッキー・ブームが去って売れ行きが落ちれば、少ししか材料を買えず、生産量が減れば生み出せる価値(利益)も減って、そのうち商売を続けられなくなってしまいます。逆に、赤字であってもキャッシュが回っていれば、商売は何とか続けられます。リストラされて仕事を失っても、貯金があればしばらくは生活できますよね。貯金がなくても、次の仕事が見つかるまで親からお金を借りることができれば何とかやっていける。会社も同じです。

また、1万円で作ったものを8,000円で売って2,000円の赤字を出したとしても、とりあえず8,000円は回取できます。その8,000円で作ったものを7,000円で売れば、赤字は累積で3,000円になるけれど、とりあえず7,000円のキャッシュは回収できる。そうやって回していけば、いずれキャッシュはゼロになってしまいますが、それまでは何とか商売を続けられる。赤字だから即、潰れるというわけではないし、そのうち景気がよくなったり、新商品が当たれば利益も営業キャッシュフローもプラスに転じる可能性だってあります」(155ページ)

黒字倒産のからくりは、現在は、ほとんどの方がご理解しておられると思います。そして、黒字倒産は希に起きることがありますが、手元資金がなくても黒字の状態であれば、多くの場合、銀行は融資に応じるので、ほとんどの場合、黒字倒産は回避されます。ただ、経営者が手元資金を管理していないと、偶発的に倒産してしまうことにもなりかねないので、キャッシュフロー管理を怠ることは避けなければなりません。そこで、「キャッシュフローが大切」と強調する専門家が増えているのですが、それは、「キャッシュフロー『だけ』が大切」という意味ではないことに注意が必要です。

林さんは、赤字の事業を続けていても、キャッシュフローがあれば事業を継続できると述べておられる一方で、「そのうち景気がよくなったり、新商品が当たれば利益も営業キャッシュフローもプラスに転じる可能性だってある」と述べておられます。これは、事業が一時的に赤字の状態であっても、継続することができれば、業績を改善できる機会があるという主旨ですが、結局、改善後に得ることができる利益が、それまでの赤字を上回ることが前提です。数か月の範囲では、前述したように、銀行から融資を受けるなどの方法で事業を継続できますが、1年、2年の期間で見て利益を得ることができなければ、事業は継続できません。

繰り返しになりますが、経営者の方は手元のキャッシュフローも管理しなければならないものの、そのキャッシュフローを獲得するためには、利益を得ることも必要です。このことは、あえて言及するまでもなく、至極当たり前のことなのですが、「キャッシュフローが大切」とだけ強調し過ぎることによって、利益獲得のための活動が忘れられたり、後回しになったりするのではないかと、私は懸念しているため、このような記事を書きました。

2026/2/12 No.3347