鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

投資は営業キャッシュフローの範囲内に

[要旨]

公認会計士の林總さんによれば、投資は営業キャッシュフローの範囲内にすべきと述べておられますが、それは、設備投資のための融資の返済原資は営業キャッシュフローであり、営業キャッシュフローで返済できる以上の融資を受けてしまうと、手元のキャッシュフローが枯渇し、事業活動を継続できなくなるかということです。そこで、経営者の方は、確実にキャッシュフローを獲得できるよう、努めなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、事業活動を家計に例えれば、夫の給料による収入は営業キャッシュフロー、住宅の購入による支出は投資キャッシュフロー、住宅ローンによる収入は財務キャッシュフローにあたりますが、家計を円滑に回すためには、給料、すなわち営業キャッシュフローを増やすことが最も大切だということについて説明しました。

これに続いて、林さんは、投資は営業キャッシュフローの範囲内にしなければならないということについて述べておられます。「大きな会社が突然、潰れてしまうことがあります。『あんなに有名で大きな会社がなぜ……』という人もいますが、理由はカンタン。銀行からの借金が返せなくなってしまったからです。現在の日本の財政状況がまさにそうです。日本という国の営業キャッシュフローは38兆円程度。なのに、90兆円ものお金を使っている。そして、それを補うために国債をバンバン発行している。

この借金をどうやって返すのでしょう。これはもう最悪です。営業キャッシュフローが黒字であったとしても、それ以上に投資してしまうと、足りない分は金融機関などから借りてくるしかありません。借入金で購入した機械や新設した工場が、ちゃんと価値を生み出し、将来のキャッシュフローを生み出してくれなければ借入金を返済することはできない。そうなると、借入金は雪だるま式に増えていきます。

投資は大切ですが、博打を打つような投資をしてはいけません。現在の上海のように右肩上がりの経済下であれば、借金で投資しても大化けしてくれる可能性は確かにあります。でも、それを今の日本みたいなところでやるとガタガタになってしまう。投資は営業キャッシュフローの範囲内でやること。もし預金があるなら『キャッシュフロー+蓄え』の範囲内でやる。これは、キャッシュフロー経営の鉄則です。家計に当てはめてみれば分かるはずです。

『うちの子はゴルフの天才に違いない!』と、あちこちから借金してカリスマコーチのいるスクールに通わせたり、分不相応なクラプを買い与えたり、海外にゴルフ留学させたりしても、石川遼くんのような一流のプロゴルファーになってくれなければ、投資は回収できません。しかし、バブル経済が崩壊するまで、多くの日本企業は借金で投資を行っていました。借入金で設備投資したり、増資して新規プロジェクトに投資したり。

それでも右肩上がりの経済が続いていたから何とかなってきましたが、これはまさに自転車操業です。日本の経営者の多くは、キャッシュフローに対して実に無頓着です。その一因は、経営教育を受けていないことにもあると思います。もちろん、経営や会計の理論を学んでいなくても優れた経営者はいます。たたき上げの創業社長のように零細企業からスタートし、キャッシュフロー経営で痛い目に遭っている人はその大切さが身に染みています。

サラリーマン経営者であっても名経営者と呼ばれる人たちは若い頃にキャッシュフロー責任を持って海外で仕事をし、散々苦労をしていたりします。キヤノン会長の御手洗富士夫さん然り、トヨタ自動車の相談役、奥田碩さん然り。さらにいえば、堅実な経営をしているすベての中小企業の創業社長は、現金が枯渇することの危険がよく分かっています。キャッシュフローが重要なのは国家財政も同じです。

でも、使いきれないほどのお金を親から毎月もらっていたら、キャッシュフローを管理することの大切さも、それが回らなくなることへの危機感も育たない。若い頃から限られた収入や毎月の小遣いをどう使って、将来の自分の肥やしになるような経験や勉強や人脈作りに向けていくか。そういう試行錯誤をしていない人に国の将来を任せるのは、やはり不安です」(151ページ)

林さんの、「営業キャッシュフローの範囲内で投資をする」というご指摘は極めて当然のことです。これを言い換えれば、「設備投資のための融資は、返済できる金額(=見込の営業キャッシュフローの累計額)以内にする」ということです。ちなみに、銀行の融資審査では、「営業利益+減価償却費-法人税」を簡易的な営業キャッシュフローとみなして、その10倍程度までの金額を融資できる目安としています。

これは、業績がよいときは、多くの融資を受けることが容易になるということでもあるので、そのようなときこそ設備投資のチャンスでもあるということができます。では、現時点で営業キャッシュフローが少ない会社は新たな融資を受けることが難しいのかというと、必ずしもそうとは限りません。新たな設備投資によって、営業キャッシュフローの増加が見込むことができれば、その営業キャッシュフローを融資の返済原資として銀行に認めてもらえることもあります。

ただし、増加見込みの営業キャッシュフローは、あくまでも見込みなので、確実なものとして認めてもらうには、現在の業績が黒字でないと難しいでしょう。こういった面からも、毎年、確実にキャッシュフローを獲得することが大切であると、林さんは強調しておられるのだと思います。

2026/2/11 No.3346