鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

営業キャッシュフローは必ずプラスに…

[要旨]

公認会計士の林總さんによれば、事業活動を家計に例えれば、夫の給料による収入は営業キャッシュフロー、住宅の購入による支出は投資キャッシュフロー、住宅ローンによる収入は財務キャッシュフローにあたりますが、家計を円滑に回すためには、給料、すなわち営業キャッシュフローを増やすことが最も大切だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、多くの会社経営者は、売上のポリュームを気にするので、顧客に支持され、大ヒットした商品があったとしても、単価が安くて売上のポリュームが出ないものだと見向きもしませんが、経営的に重要なのは売上のポリュームではなく、それが「キャッシュフローにどれだけ貢献しているか」どうかであり、売上高ではなく、商品の生涯収支を重視すべきだということについて説明しました。

これに続いて、林さんは、事業活動において営業キャッシュフローを増やすことが大切ということについて述べておられます。「独身で一人暮らしのうちは何とか食ベていけたとしても、結婚して子どもができれば家族分の食費をまかなえるだけの収入が必要になります。さらに、家族で暮らせるサイズの家も必要になるし、子どもが大きくなれば学費も必要になる。一家の大黒柱が大病して働けなくなると大変ですから、そのための蓄えも必要です。

キャッシュフローとは、いわば一家の大黒柱が毎月毎月稼いでくるお金。それを食費や家賃、水道光熱費など日々の生活費として使い、余った分を将来のリスクに備えて貯金する。会社の場合も基本は同じです。商売を通じて会社に入ってきたキャッシュと、樣々な支払いで出ていったキャッシュ。その差額を『営業キャッシュフロー』と呼びます。営業キャッシュフローとは、一定期間の間に会社が生み出したキャッシュ(現金)。これを必ずプラスにするのが『キャッシュフロー経営』の大原則であり、できるだけプラスを大きくするのが経営者の使命です。

なぜ、営業キャッシュフローを“必ず”プラスにしなければならないのか。それは、将来に備えるためです。将来のキャッシュフローを生み、長く商売を続けられるよう、現在の営業キャッシュフローを使う。使い道は大きく2つあります。まず、将来のキャッシュの入りを大きくするために、設備投資をしたり、新技術の開発を進めたり、土地を買って工場を建てたりする。これが『投資キャッシュフロー』です。これをケチると会社はジリ貧になってしまいます。

家計でいえば、将来、家を建てるための貯金とか、子どもヘの教育投資など。子どもだけでなく、大黒柱のお父さんが、より給料の高い仕事に就くために資格を取ったり、ビジネススキルを磨くための費用もこれに該当します。もうひとつは、増資して株主から資金を調達したり銀行からの借入金を返済したりする『財務キャッシュフロー』です。家計に置き換えると、銀行から借りた住宅ローンとか、親から借りたお金とか、奨学金を返済するために使うお金。

きちんと返していかないと家を差し押さえられたり、親族から縁を切られたりしてしまうように、会社経営も破腕してしまいます。そうはいっても、世の中いつもうまくいくわけではありません。時には営業キャッシュフローがマイナスになることもある。営業キャッシュフローがマイナスになるということは、つまり運転資金が足りないということです。家計でいえば、収入より支出が多く、月末に預金残高がマイナスになって『家賃が払えない!』というような状況。

貯金を取り崩したり、クルマを売ってお金を作ったり、親から借りて家賃を払うように、企業も固定資産を売却したり、銀行から借りてピンチを乗り切ろうとします。それができないと残念ながら、会社は潰れてしまいます。商売をすればするほどお金がなくなってしまう状態ですから、営業キャッシュフローが赤字というのは、実にヤバイのです」(148ページ)

やや上から目線で恐縮ですが、会計を学んで日が浅い方には、キャッシュフローの考え方や、それをどのように活用するのかということがなかなか理解できないことがあると思います。でも、林さんの、「給料は営業キャッシュフロー、住宅n購入は投資キャッシュフロー、住宅ローンの契約は財務キャッシュフロー」という例えは、難しいキャッシュフローの考え方を理解しやすくしてくれると思います。

なお、営業キャッシュフローは、厳密には利益ではありませんが、ほぼ利益と同じと考えて支障はありません。なぜなら、商品を販売したとき、直ちに代金を受け取らず、売掛金が増加した場合、利益は計上される一方で、営業キャッシュフローは増加しませんが、ほとんどの会社では、数か月で売掛金は現金化されるので、両者はほぼ同じ金額になります。

そして、事業が拡大すると、店舗や工場を増やしたり、従業員教育を行うことも必要になるので、投資活動を行う(投資活動によるキャッシュフローの減少)ことになり、そのために融資などによる資金調達(財務活動によるキャッシュフローの増加)を行うことになります。そして、営業活動によって増えた営業キャッシュフローで融資を返済していくことになります。

このような会社は、正常な会社なのですが、中には、営業キャッシュフローが得られない、すなわち事業活動が赤字の場合、融資によってキャッシュフローを確保し、事業活動を継続しなければならなくなります。このような、赤字を補填するための融資を、銀行は赤字運転資金、または、赤字資金といいます。もちろん、銀行は、赤字資金の融資には消極的です。なぜなら、事業活動が赤字だからです。

とはいえ、1年~2年程度は、赤字資金を融資して、融資相手の事業活動を支えようとはしますが、3年経っても改善しなければ追加の融資は断ることが多いでしょう。ですから、銀行から融資を受けている会社経営者の方は、自社が資金不足になっているとき、営業キャッシュフローが増えているのか、それとも減っているのかを把握し、減っている場合は、早めの対策と、銀行への説明を行うことが、円滑な資金調達のために欠かせません。

話を戻すと、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローは、それらの増減を把握することで、自社の資金がどのように動いているのかを把握することができます。ただ、林さんがご指摘しておられるように、営業キャッシュフローを増やすことが基本です。投資活動も財務活動も、営業キャッシュフローを増やすことにつながらなければ意味はなくなります。

なお、専門家の方の中には、「キャッシュフローが大切」と強調する方が多いようです。そのことは事実なのですが、前述したように、営業キャッシュフローと利益はほぼ同じです。したがって、キャッシュフローを増やすということと、利益を得ることは同じ意味です。キャッシュフローを増やしていれば、利益は増えなくてもよいということではないということに注意が必要です。

2026/2/10 No.3345