[要旨]
公認会計士の林總さんによれば、多くの会社経営者は、売上のポリュームを気にするので、顧客に支持され、大ヒットした商品があったとしても、単価が安くて売上のポリュームが出ないものだと見向きもしませんが、経営的に重要なのは売上のポリュームではなく、それが「キャッシュフローにどれだけ貢献しているか」どうかであり、売上高ではなく、商品の生涯収支を重視すべきだということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、事業活動で費用を支出しなければ利益を得ることはできないものの、費用をかけすぎると赤字になってしまうため、費用を的確に分析することが重要であり、そのために、費用について、変動費と固定費、直接費と間接費、管理可能費と管理不能費といった切り口で分類を行い、より精緻な経営判断ができるようにすることが大切だということについて説明しました。
これに続いて、林さんは、単価の高い商品たけに気を取られないようにすることが望ましいということについて述べておられます。「会社は、売上のポリュームを気にします。顧客に支持され、大ヒットした商品があったとしても、単価が安くて売上のポリュームが出ないものだと見向きもしない。でも、経営的に重要なのは売上のポリュームではなく、それが『キャッシュフローにどれだけ貢献しているか』です。例えば、書籍。文庫や新書はサイズも小さく、単価も安い。2~4冊売れて、ようやく普通サイズの単行本1冊と同じ売上。
でも、だからといって単行本を大量に作ると大変なことになりかねません。書籍の場合、返品でロスが分かるのは、出版されてから数か月後です。全国の書店に本を配り、形式的には売上が立ったとしても、あとから津波のように返品が押し寄せ、在庫の山を築いてしまう可能性もある。そもそも、こうした実態を表さない1か月単位、1年単位の損益計算なんて実にナンセンス。やはり作品ごとに、きちんと『生涯収支』を管理・計算すベきです。
例えば、1冊の本を作るのに、取材費や打ち合わせ費、交通費、資料費、著者への原稿料、装丁家ヘの支払いや編集担当者の給料といったコストがどれくらいかかっているか。その本が実質いくらの収入をもたらしたのか。その収入から支出を差し引いて、1作品ごとの通し(生涯)の収支を見ることが大事。それをしないと、3万部売れた、5万部売れた、10万部売れたといっても、果たして本当に儲かったのかどうか分かりません。このように本ごとの生涯収支をつかまえている出版社はあまり多くなく、ほとんどの会社はドンプリ勘定でず」(145ページ)
林さんが、本(製品)の生涯収支を管理する会社は少ないと述べておられますが、このような、製品の生涯収支管理をプロダクトライフサイクル管理といい、それを応用したキャッシュフロー管理手法を、プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)と言いますが、これらは、今回の記事の主旨ではないので、詳細な説明は割愛します。本題に戻りますと、林さんがご指摘しておられるように、経営者の多くは、いわゆるヒット商品に注目してしまいがちですが、ヒット商品が会社が得るキャッシュフローに必ずしも最も貢献しているとは限りません。
確かに、ヒット商品が出ると、会社内に活気が出ますが、それが必ずしもよい結果を招くとは限りません。京セラの創業者の稲盛和夫さんは、「中小企業と腫れ物は大きくなると潰れる」と述べておられましたが、同社は黎明期に業績を急拡大させた結果、管理不能になりそうになったことを自省して、このように述べられたようです。したがって、どのような製品をつくるかを決めるときは、派手なヒット製品化どうかというよりも、製品が売れなくなるまで、すなわち、製品の生涯でどれくらいのキャッシュフローが得られるかを重視すべきだと思います。
しかし、ヒット製品は、生涯キャッシュフローが多いのではないかと考える方も多いと思います。私も、ヒット商品の方が生涯キャッシュフローが多い傾向があると考えていますが、必ずしも、ヒット商品が生涯キャッシュフローが最も多くなるとは限らないと考えています。とはいえ、残念ながら、これを客観的に示す根拠を私は持っていないので、野球に例えて説明しています。
野球の打者の成績のひとつに「塁打」というものがあります。塁打は、「1塁打×1+2塁打×2+3塁打×3+本塁打×4」で計算します。すなわち、1塁打を4回打つと、本塁打を1回打った場合と同じ評価を得ることができます。したがって、本塁打数が少なくても、1塁打をたくさん打つ選手は評価が高くなります。そこで、打者の成績は、よく、本塁打数が注目されるものの、塁打数で見てみると、上位には本塁打数が少ない選手もたくさんランキングされてるようです。
キャッシュフローの話しから少しずれますが、私は、事業改善をお手伝いしている会社経営者の方には、「ホームランを狙うよりも、ヒットを積み重ねることを目指しましょう」とお伝えしています、その理由は、ホームランのような派手な製品や戦略は、相当の資金投入や労力がかかりますが、比較的に資金や労力が少ないヒットを重ねる方が、トータルでは得られるキャッシュフローが多いと考えられるからです。
2026/2/9 No.3344
