[要旨]
公認会計士の林總さんによれば、顧客は最終的に製品の製造に要したすべてのコストを負担しますが、その見返りとして製品の価格を決めているということです。すなわち、製品にコストを負担する価値があると顧客が判断すれば購入しますが、その価値がないと判断すればコストは負担しないので、会社は顧客にコストを負担してもらえるようにするために、必要なコストと不要なコストを見極めるなければならないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、事業活動の効率性をさらに高めるには、無駄な時間が発生しないようなビジネス・プロセスに変え、無駄な時間に使われていた支出を、現金を生む方向に仕向ける働きかけ、すなわち、活動基準原価管理に基づく改善活動が効果的であるということについて説明しました。
これに続いて、林さんは、「お客様は神様」と考えて事業活動をすることが大切ということについて述べておらえます。「なぜお客様は神様なのか……。例えば、私がスマートフォンを買うとします。手のひらに納まるほどの小さなポデイ。そこには無数の部品が使われています。そして、その一つひとつにコストがかかっている。生産・販売にかかわる多くの人の給料もコストとしてのしかかっています。それを負担しているのは誰か。……答えは『私』です。製品を作っている会社が負担しているわけではありません。
一時的にはそうでも、コストは最終的に、すベて客が負担する。だから『お客様は神様』なのです。無駄なコストを徹底して省くのも、単に自社の利益を増やすためではなく、神様であるお客に無駄な負担をさせないため。例えば、工場でたくあんを作るとしましょう。大根を買ってきて、形を整えるため両端は切り落としてしまいます。切り落とした部分も何かの商品に加工できればいいのですが、たいていは捨てられてしまう。でも、たくあんの材料費には、この捨てられてしまう部分も入っています。廃棄するにもコストがかかる。こうしたコストも、たくあんを買う人は負担しているわけです。
たくあんメーカーは単なるゴミだと思っているかもしれないけれど、客にゴミのコストまで払わせているということ。お客様は神様と言いつつ、お客のためにならないことをやっている。(中略)価格を決定するのも神様です。最終的にすベてのコストを負担するのですから当然です。コストを負担する見返りとして、その価格を決めている。決めるといっても相場がありますから、個々のお客が勝手に決めるのではなく、市場の需給バランスで決まります。
軍用機のような特注品はコストに一定率の利益をアドオンした形で価格が設定されますが、それ以外は基本的にすベて需給バランスで決まる。たとえ会社が定価を付けたり希望小売価格を提示しても、市場(消費者)に受け入れてもらえなければ値崩れを起こすか、値引きしなければ大量に売れ残ってしまいます。洋服のようにシーズンや流行があるものは、3か月くらいでアッという間に値崩れを起こしてしまう。
店に並べられたスマートフォンなり、たくあんなり、ポロシャツを見て、お客が、『この値段だったら買ってもいいよ』と言ってくれるのは、『これくらいならコストを負担してあげてもいいよ』ということ。多くの人はそんなこと意識せずに買い物していますが、モノを買うということの本質は、そのコストを負担する、ということです。そう考えれば『価値あるコストカット』と『やってはいけないコストカット』を選別するラインもおのずと見えてきます」(125ページ)
林さんの、顧客は「コストを負担する見返りとして、その価格を決めている」というご指摘に関し、分かりやすい例は化粧品だと思います。資生堂の資料によれば、2024年の売上高に占めるコストの割合は、原価が24%、マーケティング投資が28%、ブランド・研究開発投資が4%、人件費+経費が40%、コア営業利益が3.5%でした。こちらは私の想像ですが、40%の人件費+経費には、小売店に派遣する販売員の人件費が含まれているので、実質的なマーケティングコストは28%よりも多いのではないかと思います。
いずれにしても、資生堂は原価の4倍以上の価格で製品を販売しています。では、なぜ、原価の4倍の価格で製品が売れるのかということについては、今回の記事のテーマの会計から外れてしまうので、説明は割愛しますが、顧客がコストの負担を受け入れれば、原価の4倍でも製品を購入します。これは、逆に言えば、顧客がコストの負担を受け入れなければ、原価で販売しても製品は売れないということです。
このことは当たり前のことなのですが、中小企業でよくあることは、経営者がよい製品だと考えている製品は顧客も評価すると考えてしまっていることがあるということです。製品が売れない要因としては、もともと製品の需要がないという場合と、製品の価値を顧客に気づかせられないという場合があるのですが、いずれにしても、林さんがご指摘しておられるように、顧客がコストを受け入れると判断しない限り、自社製品は価値がないということになります。
繰り返しになりますが、この当たり前のことは、製品をつくったり販売したりしている側の人たちに抜け落ちてしまいがちなので、林さんも強調して指摘しているのだと思います。自社製品に自信がある一方で、それが顧客になかなか評価されないと悩んでいる経営者の方は、冷静に顧客の視点で自社製品の評価をしてみたり、経営コンサルタントなど、外部の専門家の方にご相談してみることをお薦めします。
2026/2/6 No.3341
