[要旨]
公認会計士の林總さんによれば、事業活動の効率性をさらに高めるには、無駄な時間が発生しないようなビジネス・プロセスに変え、無駄な時間に使われていた支出を、現金を生む方向に仕向けることが重要であり、これは活動基準原価管理に基づく改善活動ということです。そして、それを実践するためには、活動基準原価計算を導入することが必要ということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、事業活動の効率性を高めるには、顧客1人あたりの限界利益だけでなく、単位時間あたりの限界利益にも着目することが大切であり、例えば、美容院では1人あたりの限界利益の金額は多いものの、顧客回転数の高い1,000円カット店では、単位時間あたりの限界利益の金額が美容院よりも多くなっているということについて説明しました。
これに続いて、林さんは、さらに事業活動の効率性を高めるためには、活動基準原価計算の考え方を取り入れることが望ましいということについて述べておられます。「1,000円カット店のほうが儲かる秘密は、もうひとつあります。(中略)これも、力ギとなるのは『時間』です。答えは、遊んでいる時間が少ない。時間当たりの限界利益が高くても、客の入りが悪く、『現金を生まない時間』が長ければ儲かりません。だから、1,000円カット店は人通りの多い駅前や駅ナ力に出店して、お客の入りが途切れないようにしているのです。
どんなビジネスでも、現金を生まない時間を減らすことはとても重要です。現金を生まない時間を減らすには、まず価値を生んでいる時間と、価値を生み出していないムダな時間がどれくらいあるかを測定する必要があります。しかし、従来の会計ではそれができなかった。この測定を可能にしたのが『ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)』と呼ばれる会計手法です。これは、従業員の具体的なアクティビティ(活動)に注目して、付加価値時間と非付加価値時間に分けて原価計算をするというもの。
先進的かつ画期的な原価計算方法なのですが、残念ながら日本でこれを導入している企業はまだまだ少数派です。無駄な時間を測定して、『遊ぶな、もっと働け!』と、社員を叱咤するだけではいけません。無駄な時間が発生しないようなビジネス・プロセスに変え、無駄な時間に使われていた支出を、現金を生む方向に仕向けることが重要です。あなたも今日1日の自分の仕事ぶりを思い出してみてください。本当に価値を生み出す活動に費やした時間は、どれくらいありましたか?クライアントに提案する企画を考えている時間は、ほかの人には『ポーっとしているだけ』に見えるかもしれませんが、それは大事な仕事。付加価値時間です。
でも、企画に必要な資料を探すためにゴソゴソやっている時間は、働いているように見えて、実は価値を生んでいない無駄な時間です。トヨタの元副社長で『トヨタ生産方式』を体系化した大野耐一氏は、『働くことと動くことは違う』と、指摘しています。あくせく動いて、額に汗していても、それが価値創造につながっていなければ『働いている』ことにはならない。まさに、『時は力ネなり』です。では、美容院はどうすればかるようになるのか……。最大のポイントは、顧客満足度の向上です。腕のいい美容師、気持ちのいい接客スタッフがいる店にはお客が集まります。
『この人は上手、ぜひ、この人にやってもらいたい』となれば、料金を多少上げることもできます。単価アップは限界利益率の向上につながります。そのために美容師のトレーニングを徹底すれば、これまで90分かかっていたカットが50分でできるようになるはず。施術時間を短縮できれば、時間当たりの限界利益も増えます。限界利益率を上げるには、シャンプーやリンスなどの無駄をなくし、材料費をトコトン節約することも重要です。さらに、必ず次回の予約を取って、遊んでいる時間を減らす。腕がよければ自然とリピーターは増えますが、いつ来るかわからない客を待っている時間は無駄です。
こうした限界利益率アップの工夫と並行して、水道光熱費を節約したり、無駄な従業員を雇わないようにするなど間接費を減らす努力も必要です。チーフとかセンセイと呼ばれる美容師が何人ものアシスタントを従えて仕事をしている美容院もありますが、そんな店はNG。理想は1,000円カット店の『常時、全員フル稼働状態』です。時間をフルに使い、なおかつ無駄な直接費・間接費を減らすことができれば、客単価が高い分、実は美容院のほうが儲かるのです。サービスがよく、美容師の腕もよくて、短時間で最高の施術を受けられるとなれば顧客も大満足。それがリピートにつながって、ますます儲かる--というわけです。」(121ページ)
活動原価計算(ABC)は、原価計算という言葉が使われていますが、これは財務会計の考え方ではなく、管理会計の考え方です。そして、林さんがご指摘するように、事業の効率化を進めるためにはとても効果の高いツールなのですが、その一方で、一定の労力が必要なので、ある程度の知識を持った人を専任で担当させないと、導入が難しい手法だと思います。
そこで、ここではABCそのものについての詳しい説明は割愛します。ちなみに、ABCに基づく事業改善を、活動基準原価管理(Activity Based Management、ABM)と言います。これは、林さんが「無駄な時間が発生しないようなビジネス・プロセスに変え、無駄な時間に使われていた支出を、現金を生む方向に仕向ける」ための改善活動とご指摘しておられるように、ABCの導入の肝は、原価計算そのものよりも、プロセス改善にあると言えます。
そこで、規模の小さい会社では、ABCを導入しなくても、「無駄な時間が発生しないようなビジネス・プロセス」を目指す改善活動に着手することをお薦めします。これを実践していくと、さらに、詳細なデータ(これをコスト・ドライバーといいます)の必要性を感じるようになると思いますので、そのタイミングでABCを導入するとよいと思います。ただし、コスト・ドライバーを測定するためには、迅速、かつ、正確な財務会計の会計処理が行われている必要があります。したがって、事業改善を進めると同時に、会計処理が適切に行われているかどうか、見直しをすることが大切です。
ここまでの説明を読むと、「このような活動は遠回りであり、もっと、直接的な営業活動やスキルアップのための活動をする方がよいのではないか」と考える方もるかもしれません。しかし、これからは、競争力を高めるためには、事業活動の精度の高さの重要性が増しつつあります。事業規模が小さいうちは、管理活動に労力を割くことは難しいと思いますが、なるべく制度の高い改善活動を行えるように心がけをしていくことをお薦めします。
2026/2/5 No.3340
