鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

顧客回転数を高めて限界利益を増やす

[要旨]

公認会計士の林總さんによれば、効率性を高めるには、顧客1人あたりの限界利益だけでなく、単位時間あたりの限界利益にも着目することが大切であり、例えば、美容院では1人あたりの限界利益の金額は多いものの、顧客回転数の高い1,000円カット店では、単位時間あたりの限界利益の金額が美容院よりも多くなっています。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、経営の舵取りをしていく上で、売上の先行指標となる見込み客数や見込み受注額といった情報はとても重要であり、なぜなら、その先行指標を社内に周知して、足並みを揃えた活動をしていけば、収益機会を確実に捉えたり、リスクを回避したりすることができ、業績を高めることができるからということについて説明しました。

これに続いて、林さんは、限界利益に時間の概念を加えて管理すべきということについて述べておられます。「限界利益率を考える上で、もうひとつ重要なのが「時間」の概念です。(中略)普通、美容院に行くと1回5,000円から1万円以上かかります。一方の1,000円カット店の客単価は、基本的に1人1回1,000円。でも、どちらが儲かっているかというと、1,000円カット店に軍配が上がります。

うなぎ屋と、最近流行りのつけ麺屋を比ベても同じことがいえます。うなぎ屋のほうが客単価も、商品1単位当たりの限界利益も高いけれど、儲かっているのはつけ麺屋。これを理論的に証明する際に力ギとなるのが『時間』です。つまり、損益分岐点分析のグラフに時間軸を加えて、1分とか1時間といった単位で“時間当たりの限界利益”を考える。これは、従来の会計が苦手としていた分析手法でもあります。

美容院ではお客1人当たり1~2時間かかりますが、1,000円カット店では10分程度。しかも、1,000円カット店にはシャンプー台がないのでシャンプーやリンスなど材料費に該当するものも限りなくゼ口に近い。つまり、売上に対する限界利益率は、ほぽ100%ということになります。理容・美容業界では1,000円カット店にもシャンプー台の設置を義務づけるベきだという議論も出ているようですが、1,000円カット店はこれを拒んでいます。

なぜなら、シャンプー台を設置すると材料費だけでなく、設備投資や什器代、水道光熱費などの間接費もぐっと増えてしまうからです。1,000円カット店は間接費が少なく、売上に対する限界利益率はほぽ100%。しかも、お客1人当たりの所要時間が短いので、時間当たりの限界利益も大きい。客単価は美容院のほうが高いけれど、1分当たりの限界利益を見ると、実は1,000円カット店のビジネス・モデルのほうが有利ということになるのです」(119ページ)

念のために限界利益について説明すると、限界利益は売上高から変動費を差し引いた金額です。さらに、限界利益から固定費を差し引いた金額が利益です。すなわち、売上高=変動費+固定費+利益であり、売上高=変動費限界利益ですので、限界利益=固定費+利益ということになります。そして、変動費、固定費、限界利益は、財務会計の考え方ではなく、管理か池の考え方なので、損益計算書にはそのような科目はありません。単に、売上高に比例するして発生する費用が変動費、売上高に比例せずに発生する費用が固定費という考え方です。

ちなみに、実際に、すべての費用が売上高に比例するか比例しないかでわけることはできません。例えば、光熱費は売上高が増えれば増加するとはいえ、ぞの増加額は売上高の伸びよりもなだらかであり、また、基本料金もあるので、変動費と固定費の中間的な費用です。では、どうやって変動費と固定費を計算するのかというと、多くの場合は最小二乗法などで計算するようですが、ここでは、その詳細は割愛します。

私が顧問先の分析をする場合、まず、売上原価を変動費、販売費及び一般管理費を固定費として、凡その損益分岐点売上高を計算し、さらに正確な計算が必要となる場合、もっと細かく費用を分類するようにしています。話を戻すと、林さんがご指摘するように、変動費と固定費を計算するとき、多くの場合は、製品1つあたり(美容院の場合は顧客1人あたり)で計算します。美容院の場合は、1人あたりの売上高は5,000円、シャンプーなどの変動費は500円と考えれば、限界利益は4,500円です。

一方、1,000円カット店では、1人あたりの売上赤は1,000円、変動費は0円なので、限界利益は1,000円です。両者を限界利益だけで比較すると、美容院の限界利益が多いことになります。ところが、施術に要する時間が、美容院は1人50分、1,000円カットは10分とした場合、両者を同じ時間で比較すると、美容院は50分で限界利益が4,500円であるのに対し、1,000円カットは5,000円ですので、1,000円カットの方が効率性が高いと言えます。

サービス業や飲食店などでは、「顧客回転数(=1日の来店客÷席数)」という指標を重視していますが、これは、顧客1人に要する時間を短くすることで効率性を高めようとする考え方によるものです。ちなみに、ファストフード店では、注文を受け手から食事を提供するまでの時間(リードタイム)を短くすることで効率性を高めようとしています。このように、限界利益は、客単価だけでなく、時間の概念を取り入れて効率性を高める工夫が大切です。

2026/2/4 No.3339