[要旨]
公認会計士の林總さんによれば、経営の舵取りをしていく上で、売上の先行指標となる見込み客数や見込み受注額といった情報はとても重要であり、なぜなら、その先行指標を社内に周知して、足並みを揃えた活動をしていけば、収益機会を確実に捉えたり、リスクを回避したりすることができ、業績を高めることができるからということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、経営者は長期的視点に立ち、長期的な利益を大きくするための活動を行うべきなのですが、投資家や銀行の中には、今期の利益の多寡ばかりを見て経営者を批判し、長期的な利益を得るための努力を正当に評価しない人もいるので、それに呼応して経営者も短期的な利益を追求してしまうこともありますが、そのような活動は事業を安定的に発展させないので、避けなければならないということについて説明しました。
これに続いて、林さんは、将来を見通して事業活動をすることが大切ということについて述べておられます。「利益は経営者のオピ二オン。決算書や新聞に載っている数字だけで判断してはいけません。この点は会計基準が変わっても同じです。では、どこを見ればいいのか。大事なのは『プロスペクトの非財務情報』です。プロスペクトとは将来を見通す、予測するという意味。非財務情報とは、決算書に表現できない情報のこと。決算書が表現しているのは、会社の状態や営みの中で“数字に置ぎ換えられる”部分だけです。
企業にとって最も重要な人材の質、労働意欲やロイヤリティの高さ、熟練社員が持っているスキルなどは数字に置き換えにくいので、決算書には表現されていない。これが、非財務情報。つまり、プロスペクトの非財務情報とは、決算書に表現できない先行指標のこと。これを数値化し、きちんと可視化している会社は成長の芽がある会社です。なぜ、成長の芽があるといえるのか。ちょっと考えれば、すぐ分かります。社員数が同じでも、ポーッとした人が100人いる会社と、PDCAのサイクルを自分でどんどん回していける逸材が100人いる会社とでは全然違いますよね。
でも、数字に置き換えられないものは評価できないし、評価できないものはコントロールできない。こうした決算書に取り込めない情報・会社の現状や課題を、きちんと数字に置き換え、目標も数値化しておかないと、改善や成長につながる具体的なアクションは生まれません。経営に活かしたいプロスペクトの非財務情報はたくさんあります。例えば、売上の先行指標となる見込み客。見込み客が何人いて、それぞれからどれくらいの受注が取れそうかを数値化しておく。経営の舵取りをしていく上で、売上の先行指標となる見込み客数や見込み受注額といった情報はとても重要です。
プロスペクトの非財務情報の中には、見込み客のようにキャッシュの“イン”フローをもたらすものもあれば、故障や事故のリスクのようにキャッシュの“アウト”フローをもたらすものもあります。決算書に載っているのは、事故が起きた後の損失だけ。それだけを見て一喜一憂してもあまり意味がありません。必要なのは、リスクを回避する手立てを考えるための先行指標。それが業績の向上や改善につながるアクションを生むのです」(86ページ)
引用部分の主旨である、プロスペクトの非財務情報が重要であるということについては、ほとんどの方が同意されると思います。これについて、林さんは言及していませんが、バランススコアカードカード(BSC)は、まさに、それに基づく活動を実践するためのツールです。したがって、林さんは、実質的にはBSCを導入して、それに基づく活動をお薦めしておられうのだと思います。では、財務会計は重視しなくてよいのかというと、私は決してそうではないと思います。
財務会計の短所として指摘されることの1つは、財務会計から得られる情報は、過去の情報ということです。しかし、会計が使われるようになった目的は、以前、お伝えした、大航海時代の貿易のときに募った出資への配当を計算することです。配当の計算は、貿易でどれだけ儲かったかという過去の情報に基づいて行われるのであり、貿易が終わる前に配当を決めることはできません。
なぜかといえば、見込の情報は確実性が低いからであり、貿易が終わってから得られる情報の方が正確だからです。少し回りくどくなりましたが、財務会計は過去の情報を提供しているのですが、それは、正確な情報を伝えるためだからです。そもそも、将来の正確な情報を得ることが不可能なわけですから、財務会計の情報が過去の情報であることを短所であると考えても、あまり意味はありません。
私が、銀行に勤務していたとき、融資相手の会社の経営者から、「銀行は、自社の過去のことだけを評価し、将来性を評価してくれない」と不満を言われることがしばしばありました。ある意味、それは当然で、銀行は、財務会計、すなわち、過去の情報を重視してるからです。しかし、それは、確定した情報で判断するということの裏返しです。正確に会社の状況を分析しようとすれば、確定した過去の情報で分析することになります。では、将来性は判断しないのかというと、もちろん、将来性は、「一定程度」、重視します。
繰り返しになりますが、将来性、すなわち、ポテンシャル(潜在性)は、一定程度しか盛り込むことはできません。なぜなら、人間には限界があり、将来の見通しは不確実だからです。もちろん、会社の経営判断は、将来の見通しに基づいて行われます。そこで、銀行も、経営者の将来の見通しがどれくらい確実性が高いかを勘案しながら、それを融資判断に反映させます。しかし、前期まで赤字だった会社が、翌期から黒字になる確率が低いことは、統計的に明らかです。
ちなみに、前期まで黒字だった会社が、翌期から赤字になることもありますが、その確率は低いです。とはいえ、私は、「財務会計の情報が絶対的に正しい」ということを主張したいのではありません。財務会計の目的は、正確さを最優先しているので、過去の情報を提供することになってしまうのであって、そのことを批判しても意味がないということです。そして、その過去の情報があるからこそ、将来の見通しも、より、正確なものとすることができるのです。
そして、その将来の見通しが正確であれば、会社の業績をより高めることができ、その結果が、確定した財務会計の情報として提供されます。したがって、財務会計と将来の見通しは、業績を高めるために、よい補完関係にあります。最も問題なのは、財務会計を軽視し、あまり根拠のない将来の見通しに基づいて、成行的な事業活動をすることです。そのような活動では、現在のようなVUCAの時代においては、業績を高めることはさらに難しくなるでしょう。
2026/2/3 No.3338
