[要旨]
公認会計士の林總さんによれば、経営者は長期的視点に立ち、長期的な利益を大きくするための活動を行うべきなのですが、投資家や銀行の中には、今期の利益の多寡ばかりを見て経営者を批判し、長期的な利益を得るための努力を正当に評価しない人もいるので、それに呼応して経営者も短期的な利益を追求してしまうこともありますが、そのような活動は事業を安定的に発展させないので、避けなければならないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、経営者は長期的視点に立ち、長期的な利益を大きくするための活動を行うべきなのですが、投資家や銀行の中には、今期の利益の多寡ばかりを見て経営者を批判し、長期的な利益を得るための努力を正当に評価しない人もいるので、それに呼応して経営者も短期的な利益を追求してしまうこともあるということについて説明しました。
これに続いて、林さんんは、会計学では利益を現実にするところを重視しているということについて述べておられます。「お金を使って、お金を増やす。これがビジネス。商売を通じて現金を増やし統けることが会社の目的であり、会社はいわば現金製造マシンです。現金製造マシンの中は、どうなっているのか。(中略)まず、マシンに現金を投入し、そのお金で『材料』を買います。
すると、大量の材料は生産プロセスの中で『仕掛品』となり、完成して『製品』になる。これを市場で売ると、製品は『売掛金』(まだ回収していない売上代金)に姿を変えます。バラパラの材料を組み立てる過程で少しずつ価値が付加され、完成品として仕上がるとさらに大きな価値が生まれます。でも、会計は、この段階での価値の増加は認識しません。販売して『売掛金』という数字に置き換えられて、初めてその価値を認識する。
販売することで増加した価値を、会計では『利益』と呼んでいるわけです。ただし、この状態の利益はまだ“幻”です。売掛金の回収というステップを経てその価値が現金化され、計算上の数字が現実のものとなる。そのお金が再び現金製造マシンに投入きれ、価値を生み、より大きなお金となって手元に戻ってくる--このサイクルがきちんと回り続けているのが、『儲かっている』状態です。
政治学が平等、法律学が正義、経済学が価値を学問するものだとすると、会計学のそれは『利益』。--これは、会計を専門にしている人たちの常識です。しかし、その常識を深く考えている人は、実は少数派です。『売上-費用』という計算式で導かれるその数字=利益は何を表しているのか--。(中略)それは会社が生み出した『価値』。利益とは、一定期間に作り上げ、販売することで碓定した価値の大きさを会計の手法で計算したものです。
経済学は、販売前の製品や仕掛品に付加された価値も認識してくれますが、会計では、それが市場に出て、売れた分の価値を“金額”で表現しているわけです。金額で表されてはいますが、利益の本質は『価値』。企業が生きながらえていくには、価値を生み出し続けなければいけない。そう考えると、短期的な利益の上下動に一喜一憂、右往左往するのではなく、将来にわたって価値を生み出し続ける仕組みをきちんと作ることこそが、企業にとって最も重要なことだということが分かります」(76ページ)
多くの方は、「勘定合って銭足らず」や、「黒字倒産」という言葉をご存知と思いますが、黒字であるだけでは事業を継続できるわけではないというところに会計のややこしさがあります。本旨から外れますが、これは裏を返せば、赤字であっても事業を継続できるということであり、いわゆる「ゾンビ会社」が淘汰されずにずっと事業を継続しているということも同じ理屈です。話を戻すと、前々回、「利益は意見、現金は現実」ということを説明しましたが、事業活動では、利益を現金の両方を管理しなければなりません。
ただ、林さんも述べておられるように、多くの人は利益に注目してしまいがちである一方で、それは「意見=幻(まぼろし)」の状態であることもあるので、「事実」である現金(キャッシュフロー、CF)にも注視しなければならないということが認識されつつあります。そこで、それを明らかにしようとする考え方がキャッシュフロー会計です。それでは、事業活動はCFに注意していればいいのかというと、そうではありません。結局、CFを増やすには、原則的には利益を増やさなければそれを実現できません。
一時的には、出資、融資、資産の売却などでCFを増やすことができますが、それらによる現金増加は事業の目的ではないので、CFだけを重視することにも問題があります。このように述べると、会計はややこしいと感じる方も多いと思います。私も、その通りだと思います。それを伝えたいために、林さんも「利益は幻(まぼろし)なので注意してください」ということを述べておられるのだと思います。しかし、このややこしさを克服できれば、経営者にとって会計は強力なツールとして活用できると私は考えています。
話がずれますが、私が銀行に勤務していたとき、「資金が足りないので融資をして欲しい」と、多くの中小企業経営者から依頼をされました。そこで、「なぜ、資金が足りないのですか」と質問すると、ほとんどの方は回答できませんでした。これは私が少し意地悪なのかもしれませんが、後でその会社の決算書を見ると、事業活動が赤字なので、資金が不足していることがほとんどでした。したがって、そのような会社は、本当は、「事業が赤字なので融資をして欲しい」と説明しなければならないのです。
ただし、資金が不足するというのは、売上が増えることによる収支ずれである場合もあり、こちらは前向きな資金不足です。すなわち、資金が不足する状態は、必ずしも事業活動が赤字である状態であるとは限りません。ただ、多くの中小企業経営者は、目の前の資金が足りているかどうかでしか財務管理をしておらず、自社の事業が黒字なのか、それとも赤字なのかまでは理解していないということが多いようでした。(中には、うすうすは、自社が赤字だと気づいているのかもしれませんが、それには目を向けていなかっただけなのかもしれません)
いずれにしても、経営者の方は、利益と現金の両方を管理しなければならないのですが、「利益は幻」という論理を理解できていないでいると、なかなか適切な財務管理ができず、それは健全な事業活動の発展の妨げになるということに注意しなければなりません。
2026/2/2 No.3337
