鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

短期的な業績だけでの評価は避けるべき

[要旨]

公認会計士の林總さんによれば、経営者は長期的視点に立ち、長期的な利益を大きくするための活動を行うべきなのですが、投資家や銀行の中には、今期の利益の多寡ばかりを見て経営者を批判し、長期的な利益を得るための努力を正当に評価しない人もいるので、それに呼応して経営者も短期的な利益を追求してしまうこともありますが、そのような活動は事業を安定的に発展させないので、避けなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、企業が発表する数字は、いわば経営者の意見であり、利益に絶対的な正解、唯一無二の真実値はないということについて説明しました。

これに続いて、林さんは、利益を得るための活動は、長期的な視点で行わなければならないということについて述べておられます。「利益とは、売上から費用を差し引いた会計上の概念です。それも、1年、半年、四半期といった一定期間の売上から、その期間の費用を差し引いたもの。しかし、企業の営みは川の流れのように、途切れることなく続いています。流れの一寸先は闇。闇の向こうには地獄の水門が口を開けて待っているかもしれない。

そのリスクをどう考え、うまい具合に避けつつ川下のゴールを目指すことができるかどうか。そこが経営者の手腕。リスクとの戦いは永遠に続きます。そうはいっても、企業が社会的存在であるためには、今どんな状態にあるかを定期的に報告しなくてはなりません。そうしないと市場から資金を調達できないし、税金も払えない。だから便宜的に一定期間でプッブツ区切って計算しているわけです。

A地点からB地点の間に釣れた魚は3匹B地点からC地点までの間に8匹--。プツブツに区切って報告してはいますが、川の流れは続いているわけですから、ちょっと工サを撒けば来期の魚(=収益)を先取りできる。水面からは見えない川底で、こっそり今期の費用を先送りすることだってできます。例えば、実務界の隠語で『青田買い』といわれる手法。まだ納品・集金していない案件を、受注段階で売上に計上する。これが取益の先取りです。

費用を先送りするには、例えば棚卸資産(在庫)をちょっと多めに計上するという方法があります。逆に、架空の費用をでっち上げれば、計算上の利益は簡単に減らせます。粉飾あるいは脱税は、実は簡単にできてしまうのです。でも、来期の魚を先取りしてしまうと、来期に釣るベき魚がいなくなる。そうすると、さらに先の川から魚を先取りしてゴマかすほかない。そんなことを続けていれば、いずれ魚が1匹もいなくなって、自滅してしまいます。

釣れる魚の数を増やしたいなら、本当は川の水をきれいにしたり、川岸を整備したり、稚魚を放流したり、川の状態を改善して魚を増やす努力が必要です。長期の視点に立ち、長期的な利益を大きくする策を打つ。それがマネジメントです。稚魚を放流したり、川の水をきれいにするには、当然コストがかかります。投資というコストはかかるけれど、そのコストが明日の利益をもたらしてくれる。でも、その努力をちゃんと見てくれる人はあまりいません。

みんな、今期の利益の多寡ばかりを見て、『あの会社は今期の決算赤字を出した』だの、『前期より利益が減った』だのと、経営者をいじめる。そこで判断されてしまうから、経営者も目先の利益のため、今期を黒字にするために、先々の魚を獲ってしまう。『根こそぎ釣ってこい、釣れなかったやつはクビだ!』と、経営者がハッパをかけるから社員もインチキする。これが会社をダメにする元凶なのです」(72ページ)

林さんは、「投資というコストはかかるけれど、そのコストが明日の利益をもたらしてくれるが、その努力をちゃんと見てくれる人はあまりいない」と述べておられます。その理由のひとつは、事業活動は連続して行われている一方で、財務報告は1年などの一定期間で区切って報告しなければならないからです。しかし、この財務報告の短所は、かつてより解消されつつあります。そのひとつの方法がバランススコアカード(BSC)です。

BSCによって、「川の水をきれいにする」、「川岸を整備したり、稚魚を放流したり、川の状態を改善して魚を増やす努力」が、どのように将来の利益獲得に結び付いているかを示すことができるので、当座の業績が悪くても、直ちに批判されることを防ぐことができます。また、財務報告を利用するステークホルダー(投資家や銀行)は、1か年だけで会社の業績を判断してはいけないと理解されつつあるので、経営者の方は、きちんと将来の業績向上に向けた努力を説明すれば、当座の業績にこだわる必要は少なくなりつつあると思います。

しかし、当座の業績悪化の原因には、将来の利益を得るためのコストが増加している場合と、構造的に赤字体質になっている場合があります。また、経営者は将来の利益を得るための活動と考えて実践していても、実際にそれが結果となって現れないこともあります。したがって、投資家や銀行は、業績が悪いときの原因が、本当に将来の利益を得るための活動によるものなのか、また、経営者の利益獲得を得るための活動が、本当に利益に結びつく活動であるのかを見抜く能力が求められています。もちろん、経営者は、自らが実践することを判断した活動が、利益を増やすことにつながっていることを、投資家や銀行に説明する努力を行うことも欠かせないということは、言うまでもありません。

2026/2/1 No.3336