[要旨]
公認会計士の林總さんによれば、企業が発表する数字は、いわば経営者のオピ二オン(意見)であり、利益に絶対的な正解、唯一無二の真実値はないということです。これは、経営者がいい加減な財務報告を行っているということではなく、現預金の額とはことなり、利益の測定には恣意性が入る余地があるということであり、財務会計の性質上、避けることができないものです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、経営をマラソンにたとえるなら、予算は区間ごとのペース配分のようなものであり、時には目標に届かないことがあっても、無理にダッシュすると息が上がってますますペースが落ちてしまうので、目先の利益を追求するのではなく、安定して走り続け、会社として存続し続けながら自らのゴール(ビジョン)を目指すことが経営の本懐だということについて説明しました。
これに続いて、林さんは、利益に絶対的な正解はないということについて述べておられます。「黒字・赤字、増益・減益。新聞の見出しに踊るこうした単語で、企業の経営状態を判断していませんか?『当期の利益は1億円でした』企業が発表する数字は、いわば経営者のオピ二オン(意見)。当期利益を1億円とするか、1億5,000万円とするか、あるいは1億8,000万円くらいにするか。
これくらいの幅であれば、経営者の判断で簡単に変えられます。経営者がウソをついている、とは限りません。その人は正直者かもしれないし、とんでもないウソつきかもしれない。そんなことに関係なく、利益に絶対的な正解、唯一無二の真実値などないのです。『当期の利益は1億円でした』というのは、すなわち、『当期の利益は1億円だと、社長である私は考えています』ということ。
その考えが妥当かどうかを確認するのが会計士監査。でも、ほとんどの人は、そうは受け取っていません。『あの会社、今期は2,000億円の黒字だって、儲かってるんだ』『2,000億円の赤字かぁ、ひどいもんだ、あの会社もそろそろヤバいんじゃない?』これが、ごく一般的な受けとめ方。学者センセイも、経営コンサルタントと呼ばれる人たちも、百戦錬磨の投資家だって新聞だって、平気でこんな間違ったコメントをしています。
例えば、2兆円あったトヨタの営業利益が、リーマンショック後いきなり5,000億円のマイナスになった時。メディアも、世間も、えらいことになったと大騒ぎしました。しかし、これはトヨタの社長が『前年は2兆円の営業利益が出た』と、考えていただけ。『1年後の今年は5,000億円の赤字』と、トヨタの人が計算して広報しただけ。キャッシュが5,000億円減ったわけではないので、巨額の赤字を計上したからといって倒産の危機にあったわけではありません」(70ページ)
念のためにお伝えしておくと、林さんは、「企業が発表する数字は、いわば経営者のオピ二オン」と述べておられますが、これは、会社の利益額は、経営者が粉飾決算を行うことで任意に決めることができるという意味ではありません。「粉飾決算」の定義は必ずしも明確ではありませんが、実際は赤字であることが分かっているにもかかわらず、強い意図をもって、故意に会計のルールを逸脱し、真実ではない会計報告をすることを指すものとする場合、林さんの述べておられることは、そのような意味ではありません。
では、「利益は経営者のオピニオン」とはどういう意味かというと、多くの場合、自社の資産の状況をどう見積もるのかということです。見積もりの対象となる資産でわかりやすいものは棚卸資産です。棚卸資産は、多くの会社では、定期的に実地棚卸を行い、物理的に傷んでいたりしないか、物理的に傷んでいなくても、帳簿価格と市場価格との相違がないかを確認します。そして、品質低下や市場価格の下落がある場合は、定価した価格について評価損を計上します。
ただ、自社の業績があまりよくない場合は、経営者としては、あまり損失を増やしたくないので、積極的には計上しようとしませんし、逆に、業績が好調で納税額が増えそうだと考えている経営者は、なるべく多く評価損を計上しようとするでしょう。もちろん、評価損の計上の仕方にルールがないわけではないのですが、どうしてもその判断には恣意性が入る余地があります。これが、「利益は経営者のオピニオン」という意味です。
しかし、この経営者の恣意性が入るという財務会計の性質は、どうしても避けることはできないので、財務報告を利用するステークホルダーは、このことを見込む必要があります。このことは、会計の初学者の方にはわかりにくい面もあると思いますが、「利益に絶対的な正解、唯一無二の真実値はない」ということを覚えておいていただきたいと思います。
なお、「利益は意見」に対し、「現金は真実」という言葉があります。これは、現金(銀行預金などの現金と同等の資産を含む)は客観的に示すことができるということです。すなわち、現金の金額はごまかすことができない資産です。そこで、銀行の融資審査では、業績が黒字なのに、現預金の額が少ない会社は、もしかしたら実態より利益を多めにしているかもしれないと、用心することがあります。
2026/1/31 No.3335
