鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

予算はマラソンの区間ごとのペース配分

[要旨]

公認会計士の林總さんによれば、経営をマラソンにたとえるなら、予算は区間ごとのペース配分のようなものであり、時には目標に届かないことがあっても、無理にダッシュすると息が上がってますますペースが落ちてしまうので、目先の利益を追求するのではなく、安定して走り続け、会社として存続し続けながら自らのゴール(ビジョン)を目指すことが経営の本懐だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、中小企業の経営者の中には、銀行がお金を貸してくれそうな財務資料を整えることが「事業計画書を書く」ということだと思っている人が多いということですが、それは、自社の事業を改善することを先送りしているに過ぎず、根本的な問題の解決にはなっていないということに注意が必要ということについて説明しました。

これに続いて、林さんは、事業計画は複数年で捉えて望まなければならないとうことについて述べておられます。「予算を達成する。それは経営ビジョンに一歩近づく、ということです。しかし、多くの経営者は短期的な利益に一喜一憂し、赤字が出ると焦って予算を削ってしまう。チマチマと経費の予算を削ったり、大事な投資予算を削ったり。むやみに経費を削ると社員の意欲をそぎ、ますます業績が落ちてしまいます。やたらと投資予算を削れば、『経営ビジョンの達成』という経営の目的からどんどんズレていってしまう。赤字であっても、削ってはいけない予算もある。

そこにきちんとお金を使えるかどうかで経営者の能力や器の大きさが測れるのではないでしょうか。あなたは自分の会社の中期経営計画を、ちゃんと読んで理解していますか?自分に与えられた予算やノルマ、それを達成した先にあるビジョンを、社長はちゃんと語ってくれていますか?答えがNOなら、そろそろ転職を考えたほうがいいかもしれません。ゼネラルモータース(GM)が潰れたのも、目先の利益を優先し、成長の原動力となる設備投資や技術開発投資を怠ったからです。短期利益を確保するために投資予算を削ったり、粉飾決算で架空利益を出したり、利益が出たら出たでパーッと配当でパラまいたり。

こうした問題経営を引き起こした最大の原因--それは、やはり長期的な経営ビジョンを一切考えていなかった、ということでしょう。経営をマラソンにたとえるなら、予算は区間ごとのペース配分のようなものです。時には目標に届かないこともあるけれど、そこで無理にダッシュすると息が上がってますますペースが落ちてしまいます。心臓発作を起こして、走り続けることができなくなるかもしれません。初心者ランナーが初めて大会に出ると、ほかの人の走りに惑わされて自分のペースを乱したり、見栄を張ってスピードを出しすぎて、途中で脱落してしまうケースがあるそうです。

そんな残念な結果にならないためにも、自分の実力を考えて目標タイムを設定し、『この急な坂は歩くくらいのつもりでゆっくり走ろう、利益が少なくてもOK』『ココは平坦だから、頑張って距離を稼ごう。思い切って投資して、勝負に出てみよう』と、計画することが大事。区間夕イムで自己ベストが出たりすると、確かに嬉しいもの。その気持ちも分かります。でも、それはいわば短期利益。目先の利益を追求するのではなく、走り続け、会社として存続し続けながら自らのゴール(ビジョン)を目指す。それが経営の本懐です」(61ページ)

会計の教科書によく出る話なのですが、かつて、ヨーロッパの大航海時代には、会計期間という考え方はありませんでした。というのは、1回の航海ごとに出資者から資金を募って船を調達し、その船がアジアから香辛料や絹を持ち帰ってヨーロッパで販売して得られた利益を分配していたからです。しかし、1600年に設立された、世界で初めての株式会社と言われているイギリスの東インド会社は、1回の航海ごとに利益の精算をす、会計期間ごとに利益を計算して配当を出資者に支払う仕組みをつくりました。

この方法は、事業を行う会社が、資金調達が安定するというメリットがある一方で、必ずしも事業期間と配当を出す期間た一致していないというデメリットがあります。ですから、林さんがご指摘してられるように、事業活動は長期的な経営ビジョンに基づいて行っている一方で、利益の測定は1年といった短期間で行われるので、経営者の方は、ちぐはぐな判断をしてしまうことがあるわけです。しかし、事業活動はマラソンと捉えて、複数年度で利益を出すと考えて経営に臨めば、1年間の業績に一喜一憂することをしなくてもすむわけです。

そして、株主や銀行に対しても、「前期は赤字となったが、3年後以降は、その赤字を埋める以上の利益が得られる見込みである」という説明をすればよいわけです。例えば、日経クロストレンドの記事によれば、AbemaTVは、「2020年度は163億円、2021年度は140億円、2022年度は130億円、2023年度には123億円と、4年で総額556億円の営業赤字だった。それが2025年度第1四半期に、14億円の営業黒字を記録。第2四半期には33億円、第3四半期には22億円の営業黒字をそれぞれ記録し、悲願の黒字転換を果たした」ということです。

これは、電通の調査によれば、2024年のマスコミ広告費が約2.3兆円であるのに対し、ネット広告費が約3.7兆円と、それを上回っており、それを反映してのことと言えます。こう考えれば、AbemaTVのこれまでの赤字は、将来の利益を得るための「先行投資」と捉えることができ、経営者の判断は批判されることはないでしょう。ただし、単に脈略のない支出を繰り返しただために赤字になった場合は、将来の利益を期待することはできません。業績は1年で判断してはいけないことに間違いはありませんが、それは、長期的に勝算が見込めることが前提であるということに注意が必要です。

2026/1/30 No.3334