鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

在庫が風のごとく吹き抜ける工場にする

[要旨]

公認会計士の林總さんによれば、在庫を抱えすぎるとリスクやコストが増加するので、それを減らすためには、リードタイムを短くし、ロットを小さくすることを目指すべきということです。そして、最近は、情報技術が発達しているので、それを実現することが容易になっています。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ある会社で、20億円の不良在庫を抱えている状態をどう解決するか対策を検討する会議で、遅々として議論が進まない中で、50万円の盗難があったという連絡が届いたことに対し、会議に参加していた役員が激怒したところを見たことがあったそうですが、このように、20億円の不良在庫と50万円の盗難の軽重が分からないと、適切な経営判断ができなくなるということについて説明しました。

これに続いて、林さんは、在庫の効率化について述べておられます。「在庫はお金の仮の姿。リスクを抱えたお金ですから、たくさん抱え込んではいけません。そのために、まず『余分3兄弟』を減らす。サバ読みで仕入れた余分な材料、工夫と努力でなくせる余計な不良品、そして必要以上の製品在庫。これだけでも在庫はずいぶん減らせます。さらに重要なのが『リードタイム』。つまり、受注から出荷までのスピードです。リスクを抱えたお金を長々と抱えているのは危険きわまりない。

工場や倉庫は、いわばコストの豪雪地帯。長居すれば、それだけ多くの雪をかぶり、コストの雪だるまになってしまいます。それを避けるために、『在庫が風のごとく工場を吹きぬける』仕組みを作る。できるだけ早く作って、早く売って、早くお金に戻す。これが経営改善の鉄則です。『生産口ット』も重要なポイントのひとつです。工場の維持費は、1個ずつ作っても100個まとめて作っても同じ。『だったら、まとめて大量に生産すれば製造原価を下げられる』と考えるのは早計。

生産量を増やしても、製造の各工程で作業待ちの仕掛品(作りかけの状態のもの』が溜まれば、運転資金も滞留し、そこでコストの豪雪に見舞われます。多くの企業はこれを見逃していますが、厳密に原価を計算するなら、山積みされている仕掛品が音もなく生み出しているコストもきちんと加味するべき。さらに、生産量を増やせば、それだけ多くの資金が必要になり、借入金が増えるということになりかねません。では、どうすればいいか。

答えは簡単です。生産ロットを少なくし、仕掛品が滞留しない仕組みを考えて、リードタイムを短くすればいい。なぜ小ロット生産のほうが、大ロット生産より経営効率がいいのか。例えば、1億円を使って製品を作り、1年かけて2億円で売るとしましょう。この場合の年間粗利益は1億円ですね。でも、100万円を使って作った製品を、200万円で売る商売を100回繰り返せば、『1回の粗利100万円×100回=年間粗利益1億円』同じだけの粗利を稼ぐことができます。

しかも、売れ行きが悪くて生産中止の決断をしても、小ロット生産なら損失は最大でも100万円。市場のニーズに合わせて柔軟に事業を展開でき、資金コストも少なくて済む。倉庫スペースも狭くて済むし、大量の部品を眠らせて傷んだり壊れたりするリスクも減らせます。少ない資金を、高回転で回す。そのために、小ロット生産で、リードタイムもできるだけ短くする。そういう会社は在庫が工場に滞留せず、風のごとく吹き抜けるから工場はガランとしている--これが儲かっている会社の極意です」

林さんはご承知の上で書いておられると思いますが、小ロット生産でリードタイムを短くすることは、論理的に好ましいということは明らかなのですが、かつては、これを実践することは難しいことでした。なぜなら、感覚的にご理解いただけると思いますが、100万円の受注を100回受けるより、1億円の受注を1回受ける方が、営業活動としては楽だからです。

しかし、21世紀になってから、情報技術が発達し、小ロットの受注がかつてより容易になってきました。すなわち、かつては、少品種大量生産か、多品種少量生産のどちらかしか実現が難しかった状態が、現在は、情報技術によって多品種大量生産が可能になってきています。これは、いわゆる第4次産業革命ともいわれています。

さらに、最近は、人工知能の発達により、需要予測の精度が高まってきているので、さらに、在庫の効率を高めることができるようになっていくでしょう。最近は、「DX」という言葉を頻繁に耳にするようになりましたが、それがなぜ重要なのかという理由のひとつとして、在庫の効率化を図ることができるということが、林さんのごしてきからご理解できると思います。

2026/1/26 No.3330