[要旨]
美容室など、無形のサービスを提供する事業を営む会社では、美容師など、直接、サービスの提供に関わる従業員の人件費を売上原価に計上する会社と、一般管理費に計上する会社の両方がありますが、私は、サービスの原価を把握しやすくするためには、美容師の人件費は売上原価に計上することが望ましいと考えています。
[本文]
前回の記事で、卸売業や小売業では、売上原価には人件費を計上しない(棚卸資産には人件費は含まない)ことが妥当ということについて説明しました。これに関し、棚卸資産ではないのですが、サービス業では売上原価に人件費を含めるべきかどうかということについて、私は、以前から疑問を感じていました。私が、これまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験では、美容室や保育園などの無形のサービス業では、売上原価に人件費を計上している会社(法人)を見たことはありませんでした。私は、無形のサービス業では、そのサービスの提供に直接関わっている従業員に対する人件費は、売上原価にすべきだと考えています。
この従業員の人件費は、有形の商品を販売している事業の仕入代金に相当するからと考えています。例えば、上場会社で、全国に美容室を展開してる田谷では、2025年3月期の美容施術売上高約48億円に対し、約24億円の労務費を売上原価として計上しています。しかし、一方で、無形のサービスを提供する事業であっても、直接部門で働く従業員の人件費は売上原価ではないという考え方もあるようであり、前述したように、中小企業では、この考え方で会計処理をしている会社が多いようです。
このような考え方の根拠は、有形の商品を販売する事業は、売上という収益に対して仕入という費用が明確に結びついているものの、無形のサービスを販売する事業は、売上という収益に対して、サービスを提供する従業員の人件費は明確な結びつきがないということによるものだと思います。したがって、サービス業の売上原価に、人件費を計上すべきかどうかということについては、どちらが正しいかは一概には言えないのだと思います。また、売上原価という費用の項目は、そもそも有形の商品を販売する事業に使われるものであり、それを無形のサービスを販売する事業にあてはめることが適切ではないと考えることもできます。
しかし、私は、可能であれば、無形のサービスを提供する事業であっても、人件費を売上原価に計上することが望ましいと考えています。その理由は、無形のサービスを提供する事業も、原価計算を意識すべきと考えるからです。実は、管理会計に活動基準原価計算という考え方があります。これは、主に何に支払われたのかで費用を分類する財務会計の原価計算と異なり、主に何の目的で支払われたのかで費用を分類し、より実態に近い原価を求め、適切な経営判断を行うための手法です。逆に言えば、この活動基準原価計算を行っていれば、財務会計で人件費を売上原価に計上する必要性は低くなります。
でも、活動基準原価計算を行っている会社は、私の知っている限りでは、特に中小企業ではほとんどありません。そこで、財務会計で、無形のサービスの原価を把握しやすくするために、人件費を売上原価に計上することが、適切な経営判断に資すると、私は考えています。この会計記録については、できるだけ簡素にしたいと考えている経営者の方も多いと思います。でも、せっかく労力をかけて会計記録をするのであれば、適切な経営判断を行うことができるよう、精度の高い記録を行う方が業績向上のためにも望ましいと私は考えています。
2026/1/24 No.3328
